受験生編6
六月には体育祭があった。あおい達のクラスは「赤」ブロックで、あかりは自分の色だと張り切ってリーダーとなった。それまでクラスの中で大人しいと見られていたあかりが、たちまち注目を浴びるようになっていた。それに対してあおいはいても、いなくても、変わらない存在だった。クラスが「赤」一色に染まっていくのを外から眺めていた。
あおいはたまにどれが正しくて、どれが間違っているのか分からなくなる時がある。転校したばかりの頃、通学途中で「赤」信号に引っかかってしまったことがあったが、後ろから来た小学生は笑いながら、信号無視して、渡っていった。ただでさえ笑いには敏感になっていた時だったから、ショックを受けたが、それだけではなかった。
後ろから来た見知らぬおばさんに「いい子だね。この信号は長いから、待ってると遅刻しちゃうわよ」と言われ、左右を確認して、先に渡っていった。郷に入りては郷に従えというものだろうか――「赤」はいけなくて、「青」はいいと小学校で習った。実際に前住んでいたところではそのルールは守られていた。それは単に人がいいというより交通量の問題だろうが。
今度は本当に遅刻しそうで急いでいた時にまた「赤」信号に引っかかって、そのことがあって、左右を確認して、そのまま渡ると、自転車のおじさんが「危ないじゃないか。最近の若い者は――」と説教してきて、遅刻するハメになった。
あおいはその基準が分からなかったが、さきと仲良くなってからは一人で登下校することもほとんどなくなり、その判断はこの町に詳しいさきに任せた。あおいはさきと離れることでそういう判断基準も失ったことになる。