受験生編4
「あおい、帰ろうか」
いつものようにさきが声をかけてきたかと思ったら、後ろに関口朱里がいた。
「図書館に寄ってくから――」
あおいが断ろうとすると、「なら、図書館で一緒に勉強しない?」とあかりが提案してきた。さきも「そうしようよ」とあおいを説得した。
あおいはあかりが好きになれなかった。別に悪い人ではないと思うが、あの大人っぽい顔つきに子どもの機嫌でも取るかのような話し方が裏がありそうだ。
「アカとムラサキ、それにアオってなんだか私達って色みたいだね。あおいちゃんのことアオって呼んでもいい?」
あかりはさきのことをムラサキと呼んでいる。ムラカミサキを略して、ムラサキなのだろうが、あおいはあおいだし、さきはさきで、ムラサキなんかではない。色っぽいのはあかりだけで十分だった。あおいはさきが朱に交わって、赤くならないか心配していた。
珍しくたくろーは図書館に来てなかったので、三人はそこで勉強することにした。たくろーからのメッセージなのか、落書きが「合格」になっていた。
「受験生の落書き? こんなところに――」
あかりはしょうがないんだからという顔をして、消しゴムで消していった。
「アオはどこの大学に行くの?」
きちんと返事してないのに、あかりは早速アオと呼んでいた。
「まだ考えてない」
「だったら、女子大にしない? あそこなら、ウチから通えるし」
さきもそれに賛成したが、あおいはいくら考えてないと言っても、どこでもいいわけではなかった。友達と一緒の進路を選ぶのはもう嫌だ。さきが言うなら、まだ分かるが、今年初めて一緒のクラスになったばかりのあかりに言われたくなかった。
さきとは五年の付き合いになるが、出会った時はそんな感じではなかった。あおいがさきに出会ったのは、あおいの方がさきのいる中学に転校してきた時だった。その中学はあおいが前に住んでいたところより少し田舎にあり、生徒数が少なくて、みんな仲がよかった。それは決して悪いことではなかったが、あおいにとって居心地がいいものとは言えなかった。みんなが知っていることを一人だけ知らないのだから。あおいはとりあえずみんなが言うことにただ笑っていた。前の学校でもそうしていれば、自分の意見を言わなくても、人の中に入っていられたが、その学校ではそれが通用しなかった。
ある女の子が「あの子、少し都会から来てるからって、ウチらのことバカにしてるじゃない?」と言い出して、みんながあおいの周囲から離れていったが、さきだけは違った。普通に声かけてきて、他の子とコンタクトが取れるようにしてくれた。あおいがたくろーみたいにならずに済んだのはさきのおかげで離れるのが怖くて、さきと一緒の高校を選んだ。