桜の樹の下で
来てくれてありがとうございます。
現実世界。とはあるものの、実体験とかではないです。
桜の樹の下で
私たちは限られた時間の中を生きていて、こうしている間にも時間は過ぎていく…。
「現在」は「過去」になって二度とは戻らない。だけれどそこに永遠もあるのではないか。
私はそれを信じたい。
私はある日とある樹を見て亡くなった祖母とのことを思い出した。大好きな祖母と散歩に出かけて一度だけ違う場所に連れて行ってもらったことがあった。珍しく遠回りをした道であったから印象に残っていた。楽しくて会話も弾み、沢山話をした。浅瀬の川がある道をまっすぐ進むと見晴らしの良い小高い丘があり、ひっそりと佇むように小ぶりだが見事に花をつけた古い桜の樹の下で祖母は何か言っていたが細かいことは覚えていなかった。今日は休日で暇だったこともありその場所に行ってみようと思った。記憶を元に樹に向かっていると風景が昔と違って補整されていたが道はそのままで、丘の上に樹はまだそこに残っていた。樹の下に立って祖母がしたように川から水を汲み、しゃがみこんで水を根っこのところにまいた。その時、祖母の言っていた言葉を思い出した。「ここはとても大切な約束の場所なんだよ。」どうしてだったのか家に帰ってから教えてくれたはずだったが全く思い出せず祖母の家に行ってみようとそこを後にした。
祖母の家に行き、大切にしていた桐の箪笥が目に入った。引き出しを開けてみると淡いピンクの桜柄のハンカチが目に入った。開いて見てみると右の片隅に小さく何かのマークが描いてあったのに気づいた。ハンカチは古いものであったが祖母はとても大切にしていたのを思い出した。小さい頃にそのハンカチを使おうと濡れた手で触ろうとしたのを見た祖母は慌てて取り上げて大変怒られた。何で怒られたのか未だに良く分かっていない。ハンカチからは、祖母の懐かしい匂いがした。
その日の夜夢を見た。祖母の家で祖父との出会いや結婚するまでのやり取りを手紙でしていたと祖母が昔話していた内容だった。祖母は一通の手紙を特に大切にしていた。‘さくらへ この手紙は無事に貴女に届いているのだろうか。私は貴女への想いを一生忘れることはないでしょう。貴女に会って伝えたいことがあるので初めて出会った桜の樹の下へ来てくれないだろうか、私はいつまでも貴女を待ち続けます。来てくれたのならある約束を誓います。それは私が死んだ後も続くでしょう。’私は、またあの樹の下へ行こうと思った。
翌日、丘の上に行ってみると樹に桜の蕾が一つだけついていた。もう一度、樹の下に立って祖母がしたように川から水を汲み、しゃがみこんで水を根っこのところにまいた。そこでふと樹にハンカチと同じマークが彫られていることに気が付いた。時間がかなり経っているからか削れて薄くはなっていたが確かに同じものだった。この樹に彫ったのは祖父だろう。そこで、亡くなった後もずっと愛を誓っていたのだ。自己満足かもしれないがハンカチと樹の絵をそっと重ねた。祖父と祖母が直接触れ合っているわけではないが再び触れ合えたように思えた。そこに残った約束は私がいなくなった後も永遠に続いていくのだろう。
過去に作ろうとしていたものを物語としてどうにか作ってみました。
読んでくださりありがとうございました。
また、作ることがあれば作ってみたいと思います。