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 女性二人の生暖かい目から逃れるように、話題を変える。


「僕がどうしてパーダンやロアさんを召喚できるようになったのか、ロアさんは何か知っているんだよね?」


「それはわかりません!」


 僕の質問に対して、彼女の口から飛び出したのは驚きの言葉だった。


「えっ? でも、さっき説明しましょうって……」


「あれはマスターのことなら、なんでも説明できるってことです! どうして私たちがこうして実体化できるようになったのかは、まったくわかりません! 強いて理由を述べるとするなら、マスターがその身にマナを宿すようになったからでしょうか」


「マナ? マナって、『MKB』でカードを使うときに消費されるやつのことだよね」


 『MKB』ではマナと呼ばれるものを消費して、モンスターや魔術を使うことができた。これをいかにうまく使うことが出来るかどうかが、勝敗に直接関係する重要なものだった。


「パーダンを召喚したときや、私を召喚したときに体の力が抜ける感覚に襲われませんでしたか?」


「あっ、そういえば、そんな感覚あったかも」


 ロアさんに言われた感覚に見覚えがあった。体の奥から何かが抜けていく感覚。あれがマナだったのだろう。


 逆に、パーダンが手元に帰ってきたときには体に活力がみなぎるのを感じていた。あれは『MKB』と同じで、モンスターに使用していたマナが還元されたことが原因だろう。


 『MKB』ではモンスターを召喚するために使用したマナは、モンスターが場から離れるとプレイヤーに還元されるというルールがあった。マナの上限を超えて回復することはないのと、モンスターが召喚されている限りはプレイヤーのマナの総量も、そのモンスターのコスト分減少するというルールもあった。


 この世界でも同じルールが適用されているだろうか。気になるところである。


「今までと同じように私たちはマスターのマナをお借りして、この世界に現出できるようです。ですから、マナを消費すれば【装備品】や【魔術】のカードも使用することもできると思いますよ」


 『MKB』にはモンスターを召喚するほかにも【装備品】や【魔術】といったカードもあった。【装備品】は、その名の通りに装備できるカード。【魔術】は場に残らない使い切りのカードだ。


「一応、魔力を消費していたってことね。あんな規格外な召喚魔法を対価なしに発動できるわけないもんね」


 納得したような顔を浮かべているリサさん。魔力という単語が出てきたので尋ねてみた。


「魔力ですか?」


「あなた達がマナと呼んでいるのは、こちらの世界では魔力と呼ばれているものだと思うわ。ちょっと見てて」


 リサさんは腰から剣を抜くと、正面に構える。


「【エンチャント・ファイヤー】」


 彼女が言葉を発すると同時に、持っていた剣が一瞬で燃え上がった。剣の刃全体が炎を纏っている。


「こんな風に魔力を消費して発動できるのが魔法よ。これは魔法剣士が得意な魔法の一つの付与魔法ね」


 剣を一振りすると、炎が瞬く間に消え去った。彼女はそのまま剣を腰に納めなおす。一連の動作に僕は目を輝かせていた。


「カッコいい……リサさん、それって僕にもできますか?」


 剣に炎を纏わせることができるなんて、正直言って羨ましい。出来るのなら僕もマネしてみたい。


「適性があればね。あとは、魔力量次第だけど、それはレベルアップすればいいだけの話ね」


「レベルアップですか? それって、魔物を倒したりしたら起こるものですか?」


「ええ、そうよ。基本的には魔物を倒せば、倒した相手の魔力を取り込んで、魔力の総量がどんどん上がっていくの。その現象を私たちはレベルアップと呼んでいるのよ」


 魔物を倒してレベルアップ。まるで、ゲームのような話だが、この世界では実際に起こる出来事のようだ。


「だとしたら、さっきの魔物を倒したときにマスターはマナの総量が増加したのでしょうね。私が出て来れるようになったのもレベルアップが原因でしょう」


「僕は既にレベルアップしてマナの総量が増えていたってこと?」


「マスターが先ほどの魔物と戦う前は、マナが足りなかったので私はこの世界に出て来れませんでした。ですから、召喚できる中で一番強力なモンスターのパーダンが、飛び出していったわけですね」


「そうだったんだ……ってことは、僕のマナは4コスト分はあるってことかな?」


 言い忘れていたが、コストとはそのカードを使うのに支払うマナのことである。4コストのモンスターであれば、4マナ支払わなければ召喚できないということだ。


 パーダンのコストは3、ロアさんのコストは4だったはず。ロアさんが召喚できるようになったってことは、僕のマナは4に増えたということだろう。


「いえ、マスターのマナは5はあります。『忠義の竜騎士 ディルムット』が出て来れると言ってますので」


 彼女はこの場にはいないモンスターの名前を口に出して答えた。僕はそのことに疑問を覚えたので、ロアさんに質問することにした。


「君たちは召喚してなくてもお互いに会話ができるの?」


「カードたちはみんな感覚を共有してると思ってくださって結構です。私がリサさんの名前を聞いていないのに知っていたのも、そういう理由ですね」


 そういえば、ロアさんはリサさんが名乗ったときにその場にいなかった。だけど、普通にリサさんの名前を認識していたよな……


 あれ? そもそもあの時はパーダンも召喚する前じゃなかったっけ?


「はい、マスターとも私たちは感覚を共有してますよ」


 僕がロアさんに質問する前に、彼女は僕の顔を見て答える。どうやら僕の考えていることもモンスターたちに伝わるみたいだ。


 となると、気になるのはどこまで僕の考えていることが彼女たちに伝わっているのかどうかだけど……


「……僕の考えが筒抜けってこと?」


「それはご想像にお任せしますー」


 満面の笑みを浮かべて微笑むロアさん。大事な部分をはぐらかされた気がする。彼女たちにどこまで思考が読まれるのか分からないので、変なことは考えないことにしよう。


 もちろん、僕の尊厳の為に。


「ハルトたちの現状は理解したよ。それで提案なんだけれど、私と一緒にスタツの街へ行かない?」


「僕たちも街に行っていいんですか」


「帰る場所もない人達を放っておくことなんて出来ないって。別の世界に飛ばされて一日目から野宿なんて嫌でしょ?」


「野宿したことないので、僕はしてみたいですけど」


「そこは嫌って言ってよ……野宿って本当に大変なんだからね」


 外で丸一日過ごした経験などないので、僕は野宿というのも経験してみたかった。日本にいたときはアウトドアのキャンプにすごく憧れがあったのだ。


 だけど、リサさんのことをあまり困らせたくもない。僕は素直に彼女と共に街に向かうことにした。


「異世界の街並みには興味があるので、僕は街にも行ってみたいです」


「なら、さっそく街に向かいましょう……そのまえに、魔石は回収しとかないと」


「魔石ですか?」


「こっちこっち」


 彼女に手招きされて、後ろをついていく。リサさんは真っすぐにタイラントベアーの死体の方に向かっていった。


 先ほどの戦闘で、こと切れて動かなくなった熊の死体が地面に横たわっている。頭はパーダンのよって噛み千切られたため、首元から流れ出た大量の血が辺り一面に広がっていた。


 僕はこれまで生き物の死体というものを見てこなかったので、辺りに充満している血の匂いも相まって、思わず手で口元を覆った。


「マスター、気分が優れないなら見なくてもいいですよ」


「心配してくれてありがとう。僕は大丈夫だから、気にしないで」

 

 ロアさんは見なくていいと言ってくれたが、僕はタイラントベアーの死体をしっかりと目に焼き付けた。それが僕にできるせめてもの、手向けだと思ったからだ。

 

「多分、この辺だと思うけど……」


 死体に動揺していた僕とは裏腹に、リサさんはナイフを取り出して、熊の心臓部分に突き立てていた。肉を切り、解体を始める。


「タイラントベアーの魔石ってこんなに大きいんだ……」


 彼女は魔物の体からスイカくらいの大きさの黒い水晶のようなものを取り出す。あとから聞いた話によれば魔物の体内には、魔石と呼ばれるものがあって、この世界の生活に欠かせないものらしい。冒険者は魔物の素材や魔石を売って、生計を立てているそうだ。


 リサさんは取り出した魔石を布で包んで、腰のポーチの中にしまう。明らかに積載量を超えているように見えるのだが、僕の目の錯覚なのだろうか。


「もしかして、これが気になる? これはマジックポーチっていう魔道具だよ。見た目の十倍くらいは中にモノが入る便利は魔道具なの」


 僕の視線に気が付いたリサさんはポーチの説明をしてくれた。


「凄いですね……どういう理屈なんですか?」


「うーん、詳しいことは知らないや。私は魔道具に関しての知識とか全然ないし」


 マジックポーチの原理の方は、リサさんもよくわかっていないみたいだ。


 もっとも僕も日本ではスマホがどんな原理で動いているか知らないのに使っていたし、同じようなものだろう。作り方や理屈を知らなくても便利だからと使用しているのは、どこの世界も同じようだ。


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