エピローグ
本日は二話投稿しました。
「ソフィア様!」
地球から戻ってきた僕たちを出迎えてくれたのはフィアさんだった。周囲を確認すると、穴の開いた壁が目に飛び込んできた。どうやら、ソフィア様の隠し部屋まで僕たちは戻ってきたようだ。
「バンコの街で。ダンジョンから黒い巨人が飛び出してきたと聞きました。その巨人は直ぐに姿を消したということですが……」
「ええ、ファントムは無事にサイカ様が倒して下さりました。もう、あの魔物の影に怯える必要はありません」
「よかった……本当によかった……」
「フィアもこれまで本当にありがとう……」
顔の似ている姉妹のような二人は、喜びを分かち合うように抱き合っていた。人目を憚らずに二人とも涙を流している。僕は黙って、その光景を見ていると、別の人物に背後から声を掛けられた。キャロリーナさんだ。
「ハルト殿、ご無事で何よりだ」
「キャロリーナさんたちも大丈夫でしたか?」
「ソフィア様……いえ、フィア様がアーノルド王を必死に説得してくださったおかげで、大事には至ることはなかった。王族しか知らなかったソフィア様の身代わりの件を周囲にバラシしてしまった罪は重いが、ファントムが討伐されたという事実はあまりにも大きい。何のお咎めもないと思われるぞ」
「もしかして、ファントムを倒したのが僕たちって知れ渡ったら大変なことになりますか?」
「この国で一生遊べるだけの金は手に入るだろう。それに、王から貴族の称号も頂けるかも知れないな」
王族から貴族の称号を貰えるのは本当はありがたいことなんだろうけど、僕としてはさほど興味が湧かなかった。むしろ、どうやって断ろうかと頭の中で考える。
「ハルト様、今はまだここにハルト様たちが居られることは誰も気づいておりません。お逃げになるのなら今のうちですよ?」
フィアさんは笑顔を浮かべてこちらを見ていた。僕の考えていることはお見通しのようだ。
「サイカ、すぐに逃げよう。空間転移って使える?」
「ごめん、今はちょっと使えないかも。代わりに、私の掌に乗せてあげる!」
人型のサイカはカードに戻ると、部屋に空いた穴から外に向かって飛び出していった。光が差し込んできていた穴は大きな黒い影に覆われて、部屋の中が薄暗くなる。
「もしかして、ドラゴン状態になってる?」
『うん。ファントムを倒したおかげで、マスターのマナは10になったからね。いつでも、この姿で呼べるよ』
嬉しそうに話すサイカだったが、王都では今頃大騒ぎになってしまっているかも知れない。これは本格的にさっさと逃げないといけなくなった。
「皆さん、短い間だったけどお世話になりました! いきましょう、リサさん!」
「う、うん!」
「お待ちください、ハルト様!」
サイカの方に駆けだす僕たちを、フィアさんは大きな声を出して呼び止めた。何事かと振り返ってみると、彼女はゆっくりとソフィア様の背中を押してこちらに寄ってきていた。
「フィア? 何をするつもりなの」
「ここは私に任せて貴方はハルト様の所に行ってください」
「それは出来ないわ……私はこの国の王女なのよ……」
「それは違います、ソフィア様。この部屋の外では、私がソフィア・アーノルドなんですよ?」
「フィア……」
優しい笑みを浮かべるフィアさんと視線が合う。僕は頷いて、ソフィア様に向かって右手を差し出した。
「ソフィア様、僕はこれからこの世界の色んなところを見て回ろうと思っています。寝たきりだった僕では想像もすることが出来なかった素晴らしい景色が、この世界にはたくさん待っているはずです。よかったら、僕たちと一緒にその景色を見に行きませんか?」
「……はい!」
悩むそぶりを見せていたソフィア様だったが、最終的には元気な返事をして僕の腕を掴んでくれた。僕は彼女の手を握り返して、リサさんと共にサイカの元に向かう。壁の外に置かれていた、サイカの右手に三人で乗り込む。部屋に残った彼女たちが別れの言葉を告げてくる。
「ハルト様、ソフィア様のことをどうかよろしくお願いします!」
「フィア様のことは私に任せてくれ。貴方たちの旅路に祝福が在らんことを!」
「はい、二人ともお元気で!」
僕が返事を返すと、サイカは勢いよく空に向かって飛翔を始めた。王都の上空を旋回し始める。
「お別れは言わなくてよかった?」
「はい、これ以上は泣き顔を見せたくありませんでしたから」
リサさんに頭を撫でられたソフィア様は袖口で涙を拭った。晴れ晴れとした表情をしたソフィア様は僕に質問してくる。
「これからどこにいくのでしょうか?」
「うーん、具体的な目的地はまだ決めてませんね……あっ、海とか見に行くのはどうですか?」
「海か……私も直接この目で見たことはないかも」
「ここから西の方にあるシフィド共和国という国に行くのはどうでしょうか? 海産物が有名な国だそうです」
「そしたら、西に向かいましょう! サイカ、お願い」
『任せて、マスター!』
サイカは雲を突き抜けると、沈みゆく太陽に向かって飛び始めた。オレンジ色に染まる夕焼けが僕たちを照らしだす。
黄昏の光を受けて、僕たちはまだ見ぬ景色を求めて、旅を始めるのだった。
短い間でしたが、この作品を読んでいただきありがとうございました。
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本当にありがとうございしました。




