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「こっちだよ兄貴! あのドラゴンが消えたのはこの付近だ!」
公園の入り口から走ってくる人物が見えた。髪の毛を茶色に染めた男性だ。周囲を見渡して、しきりに何かを探しているようだ。
「叔父さん!」
「大翔ッ!」
僕が彼のことを呼ぶと、まっしぐらにこちらに目掛けて走ってきた。走ってくる勢いもそのままに、僕のことを力強く抱きしめた。
「大翔……無事でよかった……」
「叔父さん、痛いって。そろそろ甥っ子離れした方がいいよ?」
「その憎まれ口も久しぶりだな」
大の大人に力強く抱きしめられているせいで、体が痛い。叔父さんに文句を言ってやると、彼は満面の笑みを浮かべて、僕の頭を乱暴に撫でた。
「大翔……本当に貴方なの……?」
「まさか本当にいるとは……」
声の聞こえた方に視線を向けると、黒い服を着た男女のペアがいた。見間違えるはずもない。僕の両親だ。
「お父さん、お母さん!」
「大翔!」
叔父さんから離れて、お母さんの方に向かう。両目から大量の涙を流して、母は僕のことを抱きしめた。叔父さんの時よりも更にぎゅっと抱きしめられる。周囲を憚らず涙を流す母親に対して、僕は何も言えずになすがままに彼女の抱擁を受け入れた。
「また会えるとは思ってもいなかった」
「お父さん……」
遅れてやってきた父は、僕を抱きしめる母ごと自分の腕の中に仕舞い込んだ。両親の腕の中に包み込まれて、えも言われぬ多幸感が胸の中に広がっていく。
無言のまま抱き合っていた僕たちだが、母の首元にあるパールのアクセサリーに視線が映る。服装も黒いジャケットにスカートだったので、喪服姿にしか見えなかった。
よくよく見ればお父さんも叔父さんも黒のスーツ姿に黒色のネクタイをしていた。
「もしかして、僕の葬式でもやってたの?」
僕の一言で両親が何とも言えない表情を浮かべた。その直後に、背後から近づいてきていた叔父さんに、痛くもかゆくもない拳骨を喰らう。
「ちげーよ、近所の人の葬式だ。お前はまだ行方不明者扱いで、警察の人たちがお前のことを探してくれてる途中だよ。それより、向こうにいるのはお前の知り合いか?」
叔父さんが小声で僕に話しかけてくる。両親との出会いでリサさんたちのことを紹介するのをすっかり忘れてしまっていた。
「僕があっちの世界でお世話になっている人たちだよ」
「あっちの世界……?」
お母さんがきょとんとした顔で、後ろの三人のことを見つめた。僕の声が聞こえたのか、彼女たちはこちらに歩み寄って来てくれた。
「お初にお目にかかります。私はアーノルド国第一王女のソフィア・アーノルドと申します」
ソフィア様はドレスの裾を持ち上げて、綺麗なお辞儀をする。つい数時間ほど前まで寝たきりの生活を送っていたとは思えないほど、洗礼された所作であった。 僕の両親は溜まらず、その場に立ち上がり姿勢を正した。
「初めまして、私はリサって言います。あっちではハルトの保護者的なことをさせてもらっています」
「マスターの従者のサイカです。こっちの世界では【逢魔龍 サイカ】って言った方が伝わりやすいかな?」
リサさんとサイカも続けて自己紹介をする。いまいち状況の読み込めていない両親は、三人のことを怪訝な顔で眺めていたのだが、叔父さんだけは興奮した様子で僕に詰め寄ってきた。
「大翔! お前、あれか! 異世界に行ってきたのか!」
ずいぶんと物わかりのいい叔父さんは、僕が異世界に飛ばされていたことを見事言い当てた。そういえば、僕が見たことのある異世界に転生したりするマンガやアニメは全部叔父さんから勧められたものだったことを思い出す。
「あんなに可愛い三人の美少女捕まえて仲良くやってんのか! 一人だけずるいぞ!」
「落ち着いてよ、叔父さん。みんな引いてるから」
その場にいる全員の視線が自分に向いていることに気が付いた叔父さんは、咳払いを一つして後ろに一歩下がった。二十歳になったんだから、最初から落ち着きのある行動をとって欲しいものである。
「大翔は日本ではない別の国に行っていたのか?」
昔気質のお父さんには、異世界という単語はピンと来ていないようだ。別の惑星に行ってきたと伝えた方が分かりやすいだろうか。
「あなた、その話はあとでしましょう。今日はこれから冷えるそうだし、こんなところで立ち話もなんだから、家に帰りましょう」
お母さんの言葉に胸が痛む。僕のことをどれだけ心配してくれていたのか、この短時間で痛いほどわかったし、僕も異世界で体験したことをいっぱい両親に話したい。家に帰ってしまえば、余計な未練が生まれてしまうだろう。
だから、今ここで伝えなきゃいけないことは、別れの言葉だ。
「お父さん、お母さん。僕は一緒に帰れないんだ」
体を支えてくれていた両親の手から離れて、彼らの方に振り向いて言葉を告げる。両親はとても悲しそうな顔を浮かべて僕の顔を見つめていた。




