エピローグ~ジュピター・コアと、禍の青年~
【挨拶】
はじめまして。なろう初心者の、チェリ→♪と申します。
これはJKだった8年ほど前に書いたオリジナル小説です。
少しでも面白そうと思ってみていただけたら嬉しいです。
参考にこの小説に登場する主要人物のご紹介を載せておきます。が、ネタバレになりますので気にしない方のみご参照ください。
主人公:和泉 陽斗
日本人の20代の青年。後にある組織、ジュピター・コアのメンバーとなる。
自分の生まれながらに大量に持つ不運エネルギーを使って、相手に物理攻撃できる力をもつ。
能力名:禍
ルイアート・ロウジュ
ジュピター・コアのリーダーで、20代の青年。伝説の殺し屋。武器は多数のナイフと拳銃。相手の心の闇に潜む、最もつらい記憶を強制的に呼び起こし、相手を苦しめる力を持つ。
能力名:ブラックホール
ベル・ウィトセルト・ミーン
ジュピター・コアの17歳の美少女。天候を操ることのできる力を持つ。自信家で少し気が強いが、仲間想いの一面もある。
能力名:天泣の力
リュナ・ニッチルア・メークリンク
ベルの学友。ある任務でたまたま居合わせ、陽斗より少し前にジュピター・コアに入った新人の女の子。
3km先の音を聞き取ることができる力を持つ。
能力名:ラビットイヤー
レオン
天才肌の7歳の少年。ジュピター・コアの最年少。普段は無感情だが、戦闘になると非情になる黒魔術師。相手の次の動きを読む力を持つ。本名不明。
能力名:ゴッド・アイ
…その他主要人物は次回以降にご紹介します。
プロローグ「ジュピター・コアと禍の青年」
ここは、ヨーロッパのある闇地域、バイブルキラー。
ここでは10年に1度「モノクロ」という、この地域を支配する[エンペラー]の地位を巡る闇ゲームが行われる。
モノクロに参加できるのは、バイブルキラーに属する闇組織。その1つが「ジュピター・コア」
彼らは、アジトに集まっていた…。
「リュナ、聞こえるか?彼の…【禍】の音…。」
片目を長い前髪で隠した、切れ長の目が特徴の男が言った。
「はい。あたしの耳が…聞き違えていなければ…ですが。」
サイドの髪だけ長い、ショートヘアの少女が、そういって彼を見る。すると、肩より少し長い髪に、カチューシャをした美少女が割り込んだ。
「リュナの[ルスールス・アンテリウール]はそうそう間違えたりしないわ。ベルが言っているのよ?自信持ちなさい。リーダー?【禍】がベルたちのところに来るように、雨でも降らせてあげる?」
「そうだ、リュナ、お前の力を信じろ。…ベル、時が来たら指示をする。それまでおとなしくしていろ。」
ベルと呼ばれた美少女は、つまらなそうにため息をついた。
その時…リーダー、と先ほどベルにが呼んだ切れ長の目の男が、パチンと指を鳴らした。
「…行け。」
「はぁ~…。ったく…ここどこだよ…。」
時同じくして、とあるバイブルキラーの近隣街で、日本人の青年、和泉 陽斗は立ち尽くしていた。自分でも、なぜ外国にいるのかわからない彼は、行き場を失っていた。
彼は、生まれてこのかた不運にばかり恵まれていた最強不運青年だった。そんな彼に今回起こった不運は、日本の公園でうたた寝をしていたはずが、気が付くとこの街にいたのだ。
「マジ…人生最大の不運だろ…これ…。」
ため息をつきながらも、とりあえず歩いてみる。
そして…気づかぬうちに、暢斗はバイブルキラーへと足を踏み入れてしまうのだった…。
「…行け。」
彼の一言で、ベルとリュナ、そして小さな少年が動き出した。
「リュナ、どっち?聞こえる?」
「うん。…こっちの方。」
「…。」
黙ってついてくる少年の方を軽く視界に入れ、ベルは小さな声で言った。
「レオン。殺しちゃだめよ。動きを止めなさい。」
「…承知。」
容姿は幼いが、蛇のような鋭い瞳に似合わない少し高い声で、レオンと呼ばれた少年が言った。
3人は、夜の道を風のように走る。同じく…反対側の道を歩く、陽斗。
…ここで、彼らは出会ってしまった。陽斗の運命を大きく揺るがす不運が訪れるのは、ここからである。
「あー…マジでどうしよ。オレ英語できねぇし…つうかここって何語使うんだ…?今夜、野宿かなー…。」
陽斗は、ため息交じりに呟き、夜空を見上げる。空は陽斗の心境を表すかのように、黒い闇の世界が広がっている。すると…目の前に3つの人影が立った。
「…?誰だ?日本人…なわけねぇよなぁ…。」
陽斗が呟くのと同時に、目の前の3人が言った。
「見つけた…。【禍】くん。」
「あら、彼が?・・・ふーん…。」
「…任務、開始…。」
リュナ、ベル、そしてレオンだ。
勿論、陽斗は彼女らが何を言っているのかわからない。しかしそんなことは構わず、レオンが動き出した。
「…ベクトル・ストップ」
レオンが小さく唱えると、陽斗の動きがピタッと止まった。
「っ!?」
何が起こったのかわからない陽斗は、困惑した様子で動かない自身の足元を見る。
「何なんだよ、お前ら!!」
陽斗が叫んでも、日本語では伝わらなかった。すると突然、首筋に鋭い痛みが走った。
「なっ…にが…!?」
「ごめんなさいね、【禍】を[ルスールス・アンテリウール]に持つ人って、そうはいないのよ。」
ベルの声を遠くに聞きながら、陽斗は意識を手放した。
「ん…?」
陽斗が目を覚ますと、殺風景な部屋のベッドに寝かされていた。
「どこだ…?ここ…。」
ベッドから降りて周りを見渡すが、特に変わったものもない。ただ、まるで温泉にでも入った後にぐっすり眠ったかのように、不思議と体の疲れが感じられなかった。
「あ…目が覚めましたか。おはようございます。」
ドアが開いて、聞こえてきたのは陽斗にもわかる言葉…日本語だった。
「え…?あ…どうも…。てか…日本語…?」
一瞬よぎった、日本に帰ってきたのかも、という希望はすぐに消え去った。
「私、日本人ですよ。数年前に[こっち]へきましたから。ここは、私たちのアジトです。安心してください。」
「こっち…ね…。やっぱ帰れてはいねーよなぁ…。つーか…え?アジトって…オレ、捕まってんの…!?」
困惑する陽斗に、ゆっくり首を横に振った。
「いいえ、詳しいことはリーダーから話をされると思います。あ…私、寿 芽衣といいます。この国の言葉…もし苦手なようでしたら私が通訳になりますから安心してくださいね。」
中学生らしきセーラー服を着た少女…芽衣は、ずっと持っていたティーカップをテーブルに置いた。
「紅茶とサンドイッチです。食べられるようでしたらどうぞ召し上がってください。もう朝の9時ですからお腹空いたかと思いまして。」
ニコッと微笑んだ芽衣をよく見ると、眼鏡をかけ、長い黒髪をおさげにした、いかにも真面目な優等生の学生に見える。すると、突然誰かがドアをノックした。
「メイ、看病交代の時間だ。禍の様子は…って、起きていたのか。気分はどうだ、青年。」
入ってきたのは、リーダーと呼ばれていた片目を隠した切れ長の男。
「えっ…と…なんだって?」
彼が話している言葉がわからない陽斗は、助けを求めるように芽衣を見る。芽衣は軽く微笑んでうなずいた。
「リーダー、通じていません。やはり、この国の言葉は難しいみたいです。レオン君の黒魔術を使いましょう。…えっと、あの、体調を尋ねています。気分はどうか、と…。」
男は芽衣の言葉にうなずいた後、部屋を出て行った。
「あいつは…?」
「彼は私たちのリーダー、ルイアート・ロウジュです。今、レオン君という男の子を連れてきますので、少し待っていてください。あ、これ、どうぞ。」
再びサンドイッチを差し出される。丁度空腹だったので1つ手に取る。
「サンキュ。あ、あんたが名乗ってくれたのに、オレ名前言ってねぇな。オレは和泉陽斗。さっきはありがとな、寿。」
軽く笑うと、芽衣も微笑んで会釈した。
「いいえ。私も、日本人にあったのは久しぶりで嬉しいです。…あ、リーダーが戻ってきましたね。」
芽衣が言うのと同時に、さっきの男…ルイアートが戻ってきた。後ろには小さな少年…レオンがいる。
「お。食欲はあるみたいだな。青年、動くなよ。…レオン、やれるか?」
レオンはこくんとうなずき、陽斗の方に、小さな掌を向けた。
「えっ…?ちょっ…何するんだよ!?」
「大丈夫です。とりあえずそのままでいてください。和泉さんが困らないためのものですから。」
何が何だかわからぬまま、反射的に目をつぶる。と同時にレオンが小さく呪文を唱えた。
「オール・スピーカー」
「…っ?」
特に、物理的に何かがあったようには感じず、ゆっくり目を開ける。
「…?何…が…?」
目を開けてみても、変わった様子はなく、陽斗は首を傾げた。
「…お前、名前は?」
急にかけられた声に、思わず反射的に答える。
「えっ!?…あ…陽斗…。和泉…陽斗。…ってあれ?言葉が…通じ…てる…?」
ますますわからなくなった陽斗は、レオンを見る。レオンは陽斗を見上げ、首元のマフラーで隠れた口で説明する。
「僕の黒魔術だ。お前に、僕たちと言葉が通じ合える術をかけた。お前の言葉を僕たちも理解できるし、お前も僕たちの言葉がわかるはずだ。」
「く…黒魔術…!?お前…まだガキだろ…!?そんなことできんのか…!?っていうか、魔術って…本当に存在するのか…?」
陽斗が苦笑いすると、レオンが少々不機嫌な顔をした。幼い容姿なのに蛇のような鋭い瞳、そして強い存在感が、彼の強さを表しているようだった。
「…!?」
その瞳に気圧されて、陽斗はまた、あの時のように動けなくなった。…が、一瞬でスッと力が抜け動けるようになった。
「レオン、余計な威嚇をするな。…ヨウ、お前には、今度行われるモノクロというゲームに、俺たちジュピター・コアのメンバーとして参加してもらう。モノクロに参加できるのは…ここ、バイブルキラーに属している[ルスールス・アンテリウール]を持つ者たちが集まって組織化したチームのみ。俺たちはその1つだ。俺たちも、1人1人が、ルスールス・アンテリウールを持っている。」
そこまでルイアートが言った所で、陽斗が口を挟む。
「ちょ…っとまて。その、ルスー…なんとかって、まず何だよ?あと、モノクロ…?とかってのも…。」
答えたのはレオンだった。
「[ルスールス・アンテリウール]…内に秘められた力のことさ。モノクロは、この地域を支配することができる「エンペラー」の地位を巡って、10年に1度、バイブルキラーに拠点を置く闇組織がルール無用で戦うんだ。」
レオンの言葉に、ルイアートがうなずいて続けた。
「お前もその力を持っているんだ、ヨウ。だから、お前をここに連れてきた。そして…お前のルスールス・アンテリウールは…【禍】だ。ヨウ、普段よく不運なことが起こったりとか、そういった覚えはないか。」
陽斗は、自分に運がなさすぎることくらい、とうに自覚している。
「あぁ…。オレ、今まで不運なことしか起こってねぇだろっつーくらいには不運続きだぜ。でも…それが何の関係があるんだ?」
その言葉に、ルイアートの目が鋭くなった。レオンの方を見てうなずくと、レオンが部屋を後にした。
「お前の禍という力は、自分の持つ不運エネルギーで相手に物理攻撃を与えることができる。…つまりは例えると、ヨウが禍の力を発動すると、その相手に何らかの物理攻撃現象が起こる。近くの物が急所に落ちてくるとか、地面が突然滑って、良くて骨折レベルの大転倒とか…だな。禍は元々持っている不運エネルギーを使うから、発動者に大きなダメージはない。そして、そんな発動時の反動が少ない禍を持つ者は極めて少ない。レアだ、ってことだな。」
するとタイミングよく、レオンが戻ってきた。手にはなぜかアーチェリーの弓矢。
そしてその後ろには、2人の少女がいた。
「あっ…!?お前ら…!?昨日の…!?」
カチューシャをした美少女…ベルを見て、昨晩のことを思い出す。するとベルがその言葉ににっこり笑う。
「あら、ごめんんさいね?おぼえていたの?…あなたが気を失ったのは、ベルの力で雷を首筋に走らせたからよ。あ、もちろん微力だから安心しなさい。」
「…ごめんなさい。任務だったので…仕方なくて…。」
いたずらっぽい笑みのベルに対し、少し申し訳なさそうな少女…リュナ。
その後ろから、片方だけ三つ編みにした爽やかな見た目の青年が現れた。
「彼なの?禍を持つ男っていうの。ふーん、オレと同い年くらい?」
「わっ…!?キアさん、びっくりさせないでください。」
リュナがため息交じりに言うと、キアという名の青年は苦笑した。
「ごめんごめん。それで?招集した理由は?」
「ヨウ…彼に、お前たちを紹介しておこうと思ってな。…レオン、それを。」
ルイアートが、レオンの持つアーチェリーの弓矢を指すと、レオンがうなずいて差し出した。
「ヨウ、俺たちジュピター・コアのメンバーを紹介しよう。まずは俺が、このチームのリーダーを務めている、ルイアート・ロウジュだ。俺の力は、相手の心の中の闇…最もつらい記憶を強制的に呼び起こし、相手の精神を破壊する。…まぁ、言葉では理解しづらいだろうが、いつか見る機会があるだろう。俺の戦闘武器はナイフと拳銃だ。」
「次はベルね。ベル・ウィトセルト・ミーンよ。天泣の力…天候や、天空の自然現象を操る力を持っているわ。」
続くように、他の面々も自己紹介をする。
「リュナ・ニッチルア・メークリンクです。あたしも、まだ新人なんです。3km先くらいの音を聞く聴力…ラビットイヤーという力を持っています。よろしくお願いします。」
「オレはキア・ディオロート。薬品性能を増幅させる力…ドラッグアップっていう力を持ってる。火薬、爆薬はオレにお任せね?ちなみに治療薬なんかも作れるよ。歳近そうだし、よろしくねー。」
「改めまして…寿芽衣です。私は、ネットウイルスを絶対消滅させる力を持っています。能力名はウイルスバスターです。」
5人が自己紹介をし、残ったレオンに視線が集まった。
「…なに。」
レオンが陽斗をみて、小さく言った。
「あ~…レオ―?協調性をもう少し持とうね?ま、いいけど!こいつはレオン。黒魔術師だよ。ゴッドアイっていう、相手の次の動きを読む力を持ってる。オレたちの中でリーダーの次に強い子なんだよ?ねー、レオ~?」
キアが代わりに紹介し、レオンの頭を撫でて笑った。
レオンは嫌そうに目を細める。その姿はいじけている子供のようだ。
「触るな、薬師。」
「きっこえなーい。いいところに頭があるのがいけないんだろー。つうか…レオ、その呼び方嫌だなぁ。」
「…薬師。」
「こらっ!」
終わりそうにない会話に割り込むように、ルイアートが声をかけた。
「そこまでだ。…ヨウ、細かいことは関わっていくうちにわかるだろう。…俺らは10年に1度の、エンペラーの地位を巡ってモノクロに勝つために力を磨く。組織によって違うが、俺たちは普段、武器取引の仲介…依頼してきた組織や闇企業の代わりに、相手の武器を受け取りに行く仕事をしている。闇企業のやり取りだからな、金の取引が終了していても殺し合いが起こる場合もあるんだ。本来売ったはずの武器を、渡さずに金だけもらって後は消す。そういったことを考える奴もいるからな。お前にも、近々任務に加わってもらう。そこで、だ。この弓矢が必要になる。この矢に、お前が余分に持つ不運エネルギー…禍の力を込めて放つ。当たった相手に痛みや傷はないが、直後に物理攻撃現象が起こるようになる。」
聞き慣れない情報が次から次へと出てきて、陽斗は思わず苦笑いを浮かべた。
戦争などと縁がない現代日本で生まれ育ってきた陽斗にとって、殺し合いや非科学的なことは実感がわかなかった。
「えっと…?オレ、弓道もアーチェリーもやったことねぇんだけど。力を込める…とかできんの?それ以前に当たんのか?」
「…できるように訓練するんでしょ。同じ日本人なのに、メイと頭の出来が違うのか。」
レオンが小さくつぶやいた。陽斗が苦笑いを浮かべると、芽衣がレオンの頭をこつっと軽く小突いた。
「ダメだよレオン君。仲間にそんなこと言っちゃ。日本人だから、とか関係ないでしょう?」
「メイ…。…わかった。」
素直なレオンの態度に、少々驚いた表情をする陽斗をみたレオンが、不機嫌そうな顔をした。
「なに?ヨウ、僕に何か言いたいの?」
「別に…つーかそこの…ルイアートだっけ?の時も思ったけど、そのヨウってなんだよ。」
「ヨウト…って言いづらいからな。お前も好きに呼べばいい。」
ルイアートの言葉に、陽斗は何とも言えない表情で返す。
「あっそー…。じゃあ、あんたも長くて呼びにくいし、ルイって呼ぶわ。で?オレはいつ、その訓練とやらをやればいーわけ?」
「暇な時にやればいい。弓くらい引けるだろ?」
と、まるで当たり前とでも言うようにいうルイアートに、陽斗はすかさず突っ込みを入れた。
「引けるかぁ!!」
驚いたように、キアが首を傾げた。
「日本人って…みんな弓を引けるんじゃないの?キモノ?きて、カタナ振ったり…サムライっていうんだっけ?」
「んなわけあるか!!何時代だよ!じゃあお前は、アメリカ人が全員バスケしてると思ってんのか!?」
陽斗が思わず叫ぶと、微妙な例えだったにもかかわらず、キアはなんとなく納得したようだった。
「あぁ~…。そうだよねぇ。メイリンはできるの?」
「メイリン!?」
キアがさりげなく言った言葉に、陽斗はまたすかさず突っ込んだ。
すると、芽衣が苦笑しながらも答えた。
「私、そう呼ばれているんです。…キアさん、私もできません。」
キアはつまらなそうに「え~。そうなの?」と返事をした。
そんな様子に、レオンはため息をつき、リュナは軽く笑う。
「全く…。とりあえず、ヨウ。お前、体力は回復しているよな?ベルがヒーリングしたんだ。今日からできれば訓練しろ。」
ルイアートの言葉に、ベルがにっこり笑う。
「あら、リーダー知ってたの?まぁ、連れてくるためとはいえ、ベルが気を失わせちゃったしね。太陽の力でヒーリングしたのよ。疲れが全く残っていないでしょう?」
「あ…そういえば…。サンキュ…。」
疲れを全く感じなかったのはこのためだったようだ。ベルは自慢げに笑った。
すると突然、窓に小鳥がやってきた。
「…鳥?」
首をかしげる陽斗とは反対に、窓を開けてルイアートが小鳥を呼んだ。
「フィル、おかえり。」
小鳥はルイアートの肩にとまり、くわえていた封筒を差し出した。封筒の中身を確認し、ルイアートがにやりと笑った。
「お前ら…依頼だ。」
その言葉にレオンが残忍な笑みを見せた。
「殺してあげるよ…全部。」
レオンの冷たい言葉に、言霊が乗っているかのように陽斗は動けなくなった。すると…
「いたっ…」
急にレオンが頭を押さえた。見上げる先は…芽衣。
「レオン君。殺し合いになると決まったわけじゃない。そんなこと、簡単に言わないで。誰かが死ぬと、誰かが悲しむんだよ。」
芽衣は本気で怒っていた。言い方は厳しくはないが、その言葉はとても重く感じた。
芽衣は
「任務開始の時、呼んでください。依頼人の情報や、指定場所までのルートはそれまでに調べておきます。」
と一言残し、部屋を出て行ってしまった。
「メイ!」
ベルの声にも振り返らず、芽衣は行ってしまった。
「寿…?あいつ、急にどうしたんだ?」
ベルたちに訪ねると、キアが代わりに答えた。
「メイリンね、身内が誰もいないんだよ。とはいっても、ちょっと複雑なタイプの…ね。」
ベルが続くように話し始めた。
「あの子、元々シングルマザーの子供なのよ。ママと仲良く日本で暮らしてたみたいなんだけど…ある日この街の近隣街に旅行しに来ていたメイとメイのママは…闇の殺し合いに巻き込まれて…。メイだけ生き残った。一人になってしまったメイを拾ったのが…リーダーだった。メイがジュピター・コアに入っているのは、その殺した奴らを…消す為よ。」
陽斗は、芽衣の顔を思い出す。しかし、優しく微笑む姿からは、復讐をするようには見えなかった。
「…メイのことは俺らが対処する。あいつは、仕事はきちんとやる奴だ。メイがルートを確定したら、任務開始だ。レオン、キア。お前らは、戦いになった場合、先手を打て。ベル、リュナは俺と共に受け取り役に来い。」
「「はい。」」
リュナ、ベル、キアが同時に返事をする。レオンは静かにうなずいた。
「ヨウはメイと共にここで待機。俺たちがいつでも通信できるように、電波のチューニングを頼む。やり方は全てメイの頭に入っている。いいな?まだ、分からないことも多いだろうし、俺たちのことを信用できないかもしれないが、お前の命は必ず守ってやる。少しずつでもいい、俺たちを信じてほしい。」
「えっ…お、俺も…!?」
不運な青年、和泉陽斗。闇組織「ジュピター・コア」の一人として、ルスールス・アンテリウールを持つ者として、闇ゲームモノクロに向け、これからどう成長するのか…。