17.梨の香り
「その女」
愛なんてくだらないと
笑ってみせる
強い孤高な女
流行りを全身にまとって
パワフルに
遊び歩く
一夜限りでさようなら
男に手を振り
街をさっそうとあとにする
その時
女に憤慨した男は
あるいは
女に焦がれた男は
知らないだろう
その女が
高級料理よりも
インスタントが大好きなことを
枕に顔をうずめて
毎晩泣いていることを
寂しい寂しいと
誰よりも愛をほしがっていることを
「ベランダ」
猫を抱えてベランダにでる
秋の夜風は
思ったより体を冷やす
見もしないつけっぱなしのテレビからは
楽しそうな笑い声が聞こえるが
私には何が面白いのかわからない
今日の電話も
よくわからなかった
同じ言葉を話すのに
通じあえないなんて
おかしな話だ
猫は
虫たちの必死な鳴き声に
誰かを呼ぶその鳴き声に
耳を澄ませて
しかし
なぜ鳴くのかよくわからないという顔で
退屈そうに空を見上げていた
こういう時に限って
月はでていない
私も猫も
しばらく一緒に
よくわからない世界から逃げ出した
携帯が私を呼んでも
月がでていないのを言い訳にした
答えなんかみつからないよと
わかりはしないよと
「24時間」
数日前からつきまとう頭痛と
やらなければならない山積みのことを抱えながら
しょうがないな、と
大量のカフェインを摂取する
1日が
例えば
50時間もあったとして
そうしたら
人は何かに追われずに
余裕とかいう
優しいものを持てたのだろうか
あるいは
泣き出しそうな現実から逃げ出して
充実した日々なんてものを
手に入れられたのだろうか
そこまで考えてやめた
おそらく人は
どんなに1日に時間があっても
あれやこれやと
目まぐるしく
生きるしかないのだ
“時間が足りない”と
毎日毎日
それが何十時間であろうと
命を削って生きてることに変わりはないのだ
それなら
焦りながら生きるのは
当然なことに思えた
「それでも」
幸せだとは
言い切れない関係かもしれない
お互い弱さや傷をもって
優しくしあっているだけかもしれない
理解されない関係かもしれない
それでも
あなたに会いたくて
あなたを愛しいと思うから
私は会いに行くし
目を閉じながらあなたの幸せを願う
本当に私たち馬鹿だねって
可笑しくなりながら
くすくす笑って
あなたの温かさと
あなたの匂いと
睫毛の長さを
思い出したりしている