14.午後5時32分
「幻想」
散歩して家路に急ぐと
夕焼けがとてもきれいで
あなたに見せたいと思った
もう
隣にはいないあなたに
他でもないあなたに
きっと
あなたなら
嬉しそうに
「きれいだね」と
笑ってくれる気がして
でも
それさえ
私の幻想だったと
あなたは
思っているのでしょうね
「虫」
蜘蛛の巣に
小さな小さな虫がひっかかっていた
もう抵抗するのも疲れたよと
食うなら食ってくれと
言わんばかりに
ひっかかっていた
小さな小さな虫を自由にしたはずの羽が
小さな小さな虫の自由を奪って
今
まさに
命を失おうとしている
もしかして
羽なんかほしくなかったのかもしれない
もしかして
私のように
犬のように
猫のように
地面だけを
歩いていたかったのかもしれない
だけど
誰に文句を言っていいかわからないうちに
この虫は命を失うのだろう
だから私は言うのだ
羽なんかいらないよ、と
「違う」
私とあの子は違う
だから
私とあなたも違う
そんなの当たり前のことなのに
同じ人なんか一人もいないのに
どうして
似た人を見ては錯覚して
君だと思い込んで
思わず追いかけてしまうのだろう
「私」
会いたい
だけど
会いたくない
優しくなりたい
だけど
優しくなれない
素直になりたい
だけど
素直になれない
私
こういう人間
「ごめん」
あなたの横顔を
相変わらず見つめている
あなたは
寂しそうに
自分は何がしたいのかよくわからないといった
あなたは
悲しそうに
楽しいっていうことがあんまりないといった
私は
返事に困って
なんて言えばいいのかを
ずっと考えてた
私は
あなたに楽しいを
いっぱいいっぱいあげられたらと思った
もしくは
一緒にそんな時をすごせたならと、思った
あなたが
時間を忘れてしまうほど
何かを考えたり
無心になって
感情とかそういうものをなくしてしまうのは
嫌だなと思った
言葉が届かなくても
一人じゃないという気持ちは
あなたに届いただろうか
これもまた
自己満足だろうか
寂しいって言えない今が
ただただ怖かった
あのとき
とりあえず明日も
生きなくてはいけなかった
あの時