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3分読み切り短編集

ヒーローになる方法

作者: 庵アルス

 英斗(えいと)は子供の頃、どこにでもいる少年のように、ヒーローアニメに見入っていた。

 人々を苦しめる悪役を、力強く、賢く、鮮やかに倒すヒーロー。時に追い詰められながらも、最後は必ず逆転して平和を取り戻してくれる。

 自分もそんな風に戦ってみたい。ある日突然、自分に悪と戦う力が宿ったら⋯⋯そう夢想したことも、ある。

 けれど、現実にヒーローになる方法が、どれほどあるというのだろう?

 川で溺れた子供を助けたり、道で倒れた老人の介抱をしたり、坂道を暴走するベビーカーを止めたり⋯⋯『勇気ある行動』として讃えられ、かつ現実的なのは、このくらいだろうか。

 なにかしらの犯人を捕まえる、というのも思いついたが、一般人の自分に捕まえられる犯人などいるはずがない、と冷静に棄却する。

 現実に英斗にできるのは、せいぜい、拾った財布を交番に届けることくらいだろう。

 そこまで考えて、自分は悪人と戦いたいわけではないな、と気が付く。

 誰かを助けたいのであって、戦って勝ちたいとは別だ。三人の姉に玩具にされて育った彼は、人と争うことを無意識に苦手としていた。

 小学生の後半頃になると、ヒーローの夢は、ささやかな憧れに落ち着いた。毎年新たにシリーズが作られるヒーローアニメも見なくなり、父が習わせた空手や、偉人の伝記に夢中になった。

 中学生になると、姉の影響で読み始めた、海外のファンタジー小説などに興味が移り変わっていく。

 英斗が熱心に読むのを見て、父親が英語版の原作を買い与えた。それを訳読しながら読破するなど、姉たちにもできなかったことを、当時の彼はやり遂げた。それが、どれほど自尊心をくすぐったことか。

 それ以来、英斗の夢は翻訳家に決まった。ヒーローとはおよそ縁遠い職業。

 高校卒業後は大学に進学し、留学費用を少しでも稼ぐため、アルバイトをしながらひとり暮らしをしている。

 今日も、講義とアルバイトを終わらせ、家に帰る。

 日が暮れ、すっかり夜になった頃だった。暖かさなどまるで感じられない風に吹かれながら、街灯も少ない道を進む。

 その途中。

「おーい、英斗」

 背後から、声がかかった。

 迷わず振り返る。

 暗く、目ですぐにはわからない。けれどよく聞きなれた声だ。

 アパートのふたつ隣り、同じ大学に通う同い年の(りょう)が、後ろから歩いてきていた。

 その両手がエコバッグで塞がっている。スーパーからの買い物帰りらしいのだが、彼がいつもマイバッグを持ち歩いているのを、英斗は偉いなぁと感じていた。

 ところが、今日はそのマイバッグがパンパンで、涼が少しふらつきながら持っている。

「なに買ってきたのー? 美味しい物ー?」

「米!」

「おー⋯⋯、持つよー」

 英斗に比べると、涼はちいさいし、細身だ。

 英斗は彼に、日頃手料理をご馳走になっている手前、荷物持ちくらいは手伝う気でいた。

 ヒーローには遠くとも、「ありがとう、助かる」と言われると、悪い気はしなかった。

2021/03/01

子供の頃の夢、雪女だったことあります。

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