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パパはアイドル  作者: RU
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第6話

 二枚目(面食いじゃないけど本人は容姿端麗なのだ!)で有名人の人気歌手で特別面食いってワケでもなく、オマケに親父は猫かぶりの天才で馴染まない相手への態度は「礼儀正しい」そのものだから大概のヒトは「素敵なイイヒト!」と勘違いする。

 だけど。

 みんなは親父の本性…というか、親父と母さんの(異常とも言うべき)関係を知らない。

 まず(これは親父の話なので、どこまでホントか分からないけれど)、親父と母さんは運命の出会いをして大恋愛の末にめでたくゴールインした…んだと言う。

 だから、親父の「死んだカミサン」への想いってのは、そこらにあるフツーの「グリーフ・ワーク」とは訳が違う。

 というか、普通「グリーフ・ワーク」ってのは喪失した事実を受け止めて、悲しみから精神的にも現実的にも立ち直る為の言葉であって、親父みたいな状態の人間に使うのがそもそも筋が違いすぎる。

 第一、親父は単に「今でも最高の女は桃ちゃん!」と思いこんでいるだけで、母さんが死んでしまった事…つまり喪失感からはすっかり立ち直っているんである。

 そも、親父が母さんと結婚して、僕という子供まで産まれている状況から、コナを掛ければなびくとフツーは考えるだろうが。

 親父にとってカミサンは「運命のヒト」であって、この世で唯一の「異性」だった。

 どういう意味かというと、ウチの親父はカミサン以外に関しては基本的に「ホモセクシャル」なのだ。

 つまり、死んじゃったカミサン以外の異性には全く興味がないンである。

 親父にとってセックスは、便所に行ったり飯を食ったりするのと同じレベルの「生理現象」の一つに過ぎず、そしてその生理現象を解消するのは同性とする方が良い! ってのが持論なのだ。

 さすがに人気歌手という立場上、それを「公言」はしてないけれど。

 もっともそれだって、レーベル会社や所属事務所の偉い人達(すなわち、件の中師氏とか)が「社会に与える影響が好ましからぬ物になるので」と言って口止めしているに過ぎず、本人は「何処に出しても恥ずかしくない」と思っているフシがある。

 とにかくそういう思考をしているところにもってきて、一部の好事家には親父の外見及び言動はモノスゴク好まれるらしい。

 夜のベッドの相手に関して、親父は事欠いた事がない。

 神巫ハルカは最近やたら気に入りの相手で、このところ良く見かけるようになったけれど。

 親父のセフレは神巫ハルカの他にも、若い頃からの付き合いがあるタモン蓮太郎とか、ミュージシャンとしてメジャー活動を始めた時からずっとサポートをしているヒロオ文明とか、やっぱりサポートをしている青山タケシとか……その他諸々、片手で足りないほどだ。

 僕が生まれる前からつるんでいるタモン蓮太郎辺りは、話によると母さんが生きていた頃から親父とそういう付き合いがあったらしい。

 一体、そんな壊れた男とどうして母さんが知り合って付き合って結婚までしたのか、僕には全く理解出来ないのだけど。

 そういう連中と親父の付き合いに関して、母さんはハッキリ「悪い病気さえ貰ってこなければ、別に何してても構うコトじゃないでしょ?」と答えたらしい。

 最初にそれを聴いた時、僕は母さんが親父の財産(というか地位とか名誉とか)欲しさに我慢して付き合っていただけだったのかと思ったし、それならコナを掛けてくる家政婦さん達となんら違いがないと思ったけど。

 しかし親父との付き合いが長いタモン蓮太郎曰く「桃ちゃんはシノさんの才能の熱烈なシンパだったンだよ」だそうで、つまり母さんはミュージシャンとしての親父を愛していた…というか、むしろ「崇拝していた」らしいのだ。

 故に「悪い病気さえ貰ってこなければ〜」という台詞は、ミュージシャンという職業柄、創作活動をする為のインスピレーションを得るには、常識で物事を計ってはイケナイ…という、モノスゴイ持論の元に発言された言葉なのだ。

 親父は母さんを「運命のヒト」と呼び、どんなにとてつもないタガの外れた乱れた生活をしていても、カミサンだけは別格で大事にしてたという。

 そして母さんは親父がどんなトンデモナイ発言をし、奇矯な行動を取り、日常で迷惑この上ないしわ寄せを食わされても、常に微笑んで親父を甘やかしていた…らしい。

 となると、親父の「運命のヒト」発言も、まんざらウソでもないんだろう。

 タモン蓮太郎の教えてくれた母さんの名言(?)には、「シュウチャンの気にそぐわないなら、辞めちゃいなさいよ」と言うのがある。

 何を辞めちゃうのかというと、アルバイトだ。

 そういうミュージシャンにありがちな状況として、親父は売れるまでの間ずっと母さんのヒモ状態だったらしいのだが。

 同じようなヒモ生活をしていても、タモン蓮太郎は付き合っていたオンナに愛想を尽かされて出て行かれる事があっても、親父の元から母さんが出ていこうとした事は一度もなく、あまつさえバイト先の店長と些末な事でモメてクビを宣告された親父に、母さんは「辞めちゃいなさいよ」と笑っていたと言うのだ。

 そんな変な夫婦だったから、家政婦にきたオンナのコナぐらいで何かが揺らぐはずもない。

 というか、ある意味で女性は全てアウトオブ眼中だから、掛けられたコナに気付かないのだ。

 事実無根の「既成事実」を作って裁判沙汰にもつれ込もうとしたのもいたけど、「鏡見たコトねェのか、ブース!」の一言で撃退するのを僕は目の当たりにした事がある。

 家政婦が居ない事で、確かに色々なしわ寄せを食わされていると思うけれど。

 しかし、もっと言ってしまうと親父がそうまでして家政婦を雇おうとしている理由は偏に僕の日常を円滑に運ばせる為だし、家政婦とのトラブルの原因は家政婦側にあると僕も思う。

 確かに親父は桁外れのトラブルメーカーだが、本来の仕事(家政婦業)をそっちのけで親父を口説いたり叱責したりしている方が間違っているんだから。


「桃ちゃん。パパは朝ごはん終わったら地下にこもっちゃうけど、敬ちゃん来たら声掛けてね。あと、ゼミの連絡先教えて。パパがキャンセルの連絡しておくから」

「それぐらい、自分で出来るよ」

「だって、中師サンに頼んで弁護士の弥勒寺センセイから言ってもらった方が面倒少ないし、手間も掛からないジャン」

「そんなところで親だの弁護士だの出てこなくても、ちゃんとキャンセルも出来るし問題もないから!」

「なぁんでそうやって、行き先をパパに隠すんだよ〜! 教えろよ〜」


 こうなると、親切心じゃなくてただの好奇心としか思えない。


「うるさいなぁ! 僕はコレでも受験生で忙しいんだから、煩わさないでよ!」

「あ、桃ちゃん!」


 いい加減うんざりしたので、僕は親父が引き止めている声を無視して自室に戻った。

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