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パパはアイドル  作者: RU
14/18

第14話

 夏休みって言うのは、あまりに気温が高くなりすぎて集中力が落ちるから…って理由で設定されたらしいけど。

 受験生には夏休みもなにもないってのが、ごく当たり前の常識だ。

 そう考えると、なんだかものすごく矛盾しているような気がする。

 第一、僕の夏休みというと、ずうっと親父にまとわりつかれて鬱陶しい季節ってイメージしかない。

 むしろ平日の方が学校に行ってる間、親父と切り離されているから気楽なくらいなので、実のところ僕は長期休暇ってのを手放しに喜べないのだ。

 でも今年の夏休みは、敬一さんのお陰でものすごく楽しい。

 午前中はいつも通り部屋で勉強を教えてもらっていたけど、今日はお昼のゴハンを食べていたら不意に敬一さんの携帯が鳴った。


「桃くん、午後から出掛けようか?」

「えっ? どこにですか?」

「今日は凄く暑いから、午後から出掛けてプールで一泳ぎしないかい?」

「わあ、いいですね」


 ウチは親父の道楽が過ぎて、家の一部と庭にトレーニングルームとプールがある。

 超! 甘党の蟻人間な親父だが、これがビックリな事にメタボリック・シンドロームとは全く無縁のイキモノなのだ。

 それがなぜかというと、甘党で砂糖大好き人間ではあるが、反面「身体鍛えるの大好き」人間でもあり、昔は通信販売の身体鍛えグッズを買いまくるのが好きだったけど、それが高じて結局自宅の一部を専用ルームしちゃったンである。

 さすがに競泳用の本格的なプールを作ったら、庭どころか家まで浸食されてしまうので、そんなデッカイモノじゃないけど、でも円形をしていて時々ジョーズみたいに親父が一人でグルグル泳いでいたりする。

 そして親父は、赤ん坊の僕をそこに一緒に泳がせていた。

 親父の「身体鍛えるの大好き」病に付き合わされたお陰で、僕は基本的に文系人間なのにも関わらず、スポーツがさほど苦手ではない。

 でも、この敬一さんのお誘いは家の庭じゃなくて、それこそもっとちゃんとしたプール施設に行くことを指している。


「30分もしたら橘が車で迎えにきてくれるから、渋谷のオリンピックプールに行こう」

「え、橘サンが来るんですか?」

「今の電話、橘からの誘いだったんだ。オリンピックプールの割引券を貰ったから、一緒に行こうってな」

「それって、敬一さんを誘っているんでしょう?」

「俺が桃くんの家庭教師をやっているのを知っているから、もちろん桃くんも含めての誘いに決まってるじゃないか」


 なんかちょっと、ホントかな? って思ったけど。

 でも、敬一さんと一緒に遊びに行くのは楽しいし、敬一さんがそう言うならきっとそうなんだろう。


 しばらくすると家の前に橘イオリの車が停まった。

 橘イオリは敬一さんよりちょっと背が高いけど、敬一さんより肩幅は狭い。

 敬一さんとは高校時代に同じバスケット部に所属していて、県内でも有数のスポーツ推奨校の運動部でずっとレギュラーをやっていた実力がある…と、敬一さんが言っていた。

 もっとも、敬一さんは高校でも大学でも1年生の時からレギュラーだったし、高校生の時は3年生の時にはキャプテンだから、後輩を褒めているだけかもしれないけど。

 第一、敬一さんは健康的に日焼けしている褐色の肌にバッチリ筋肉の付いた身体をしていて、いかにもカッコイイけど、橘イオリは一見したところは背ばっかり高くてなまっちろい顔をしている。

 それに敬一さんは橘イオリを「優しげな面立ちをしている」って言うけど、僕は橘イオリのモノ言いたげな目がちょっと不気味だなって思っている。

 橘イオリの車は4ドアのポルシェ社のカイエンで、クーペじゃない分後ろ座席も広いし、乗り心地は悪くない。

 でも、運転席に橘イオリが乗って、助手席に敬一さんが乗ってしまったら、なんとなく後部シートの僕は会話に入りづらい。

 道路はそんなに混んでいなかったので、時間はあんまり掛からずにオリンピック記念センターに着いた。

 ただ、やっぱり午後に出てきた所為かもしれないけれど近くに手頃な駐車場を見つけられず、車は少し離れた駐車場に入れなくちゃならなかった。

 敬一さんは卒業後には是非にとプロから声を掛けられるほどの選手だから、もちろんスポーツ万能だ。

 だから一緒にプールで泳ぐのは、ものすごく面白かった。

 もちろん、敬一さんが泳ぐ姿は迫力もあるしとってもカッコイイ。

 コースの半分以上を団体が貸切にしていて、大学か社会人か解らないけどチームが練習している。

 でも敬一さんが泳ぎ出すと、そっち側の連中でさえなにかヒソヒソ話しながら敬一さんを見ているように見えた。

 プールでたっぷり2時間泳いで、それから僕達は駐車場に向かってブラブラ歩く。


「あ、ソフトクリーム売ってますよ。食べませんか?」


 橘イオリは、物腰も柔らかく機転も利く。

 ウチの親父ほどではないけれど、実は敬一さんも結構な甘党だからそう言われて食べないわけがない。

 言うが早いか、橘イオリはソフトクリームの店に行って、早々に買い物を済ませてしまった。

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