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パパはアイドル  作者: RU
10/18

第10話

 翌日、敬一さんが帰った後に、親父は昨夜言った通り出掛ける準備を始めた。

 いつも思うんだけど、親父が出掛ける時にする「おっそろしく妙なスエットの上下にサングラス」という恰好は、出来れば止めて欲しい。

 しかし、親父曰く「俺だって好きでこんな恰好してるわけじゃない!」らしい。

 結局、有名人・人気歌手…なんて肩書きが付いているからサングラスを外す事が出来ないのだ…と言う。

 だけどそれはあくまでも「サングラス」の話だけで、変なスエットの上下に関しては触れてないような気もするから、実のところあの恰好は本人が好きでしているような気がする。

 というか、親父のセンスは音楽以外の面では何かがモーレツに欠けている…と思う。

 もっとも、その音楽に関しても一線でずっと活動している…という理由だけでそう評価しているだけであって、僕自身は親父仕事をちゃんと視聴した事は無い。


「ちょっとぉ、その恰好で出掛けるの?」


 全身に太陽発電の為の集光パネルが付いてるみたいなギタギタラメラメスエットもカンベンして欲しいが、しかし60年代のハリウッド映画に出てくる囚人みたいな横向きボーダーで表に飛び出ていこうとする親父を、僕は慌てて止めた。


「え? ダメ?」

「一緒に歩きたくない感じ」

「このシャツのクタクタ感が今お気に入りなんだけどナ〜?」

「じゃあ、せめてジーパン履いてよ!」

「運転するのにジーパンって向かねェんだよなぁ……」


 ブツブツ言いながらも、親父はボーダーのスエットパンツをジーパンに履き替えた。

 親父の愛車はポルシェ911なのだが、どうもこれまた元はミーハーな母さんが好きだった車らしい。

 ホントのトコロ、親父はポルシェ911よりフェラーリ・テスタロッサ派のようだ。


「ところで桃ちゃんさぁ、天体望遠鏡ってドコで売ってるの?」

「大手の家電量販店でも扱ってるケド? ってゆーか、それでよく前の買えたね?」

「あれはホラ、インターネットの通信販売だもん。でも、折角桃ちゃんとお出かけなのに、そんな近所で済ますのつまんなーい!」

「じゃあ、渋谷のハンズ行けば?」


 成城から渋谷までは、混んでなければ大した距離でもない。


「渋谷か〜。まぁ、いっか。あ、桃ちゃんiPod持ってきてね、パパの今ちょっと調子悪くて修理出してるから」


 カーステレオに僕のiPodをセットして、電源を入れる。

 流れ出たリズムに鼻歌を歌いながら、親父はアクセルを踏み込んだ。


「桃ちゃんさぁ〜、最近こーいう曲聴くんだ〜?」

「あ! さては僕のiPodチェックをする為に、壊れたとか嘘吐いたな!」

「壊れてるのはホントだよ〜」

「いくら調べたって、親父の曲なんか入ってないよ!」

「ちぇ、桃ちゃんのイケズ〜。少しはパパの仕事も聴いてみてよ〜」

「全っ然! 興味ない」

「あ〜、でもこうやって桃ちゃんと二人でお出かけするの久しぶりだよね〜。昔はオフを作って、桃ちゃんとディズニーランドとか行ったのに!」

「つーか、出掛ける時に僕以外の連れを作るの、親父じゃんか」

「だってパシリが居た方が、なにかにつけてラクじゃんか」

「多聞サンだの神巫サンだの、パシリにするのやめなよ」

「好きでパシリに来てンだよ、アイツらは」


 それは否定しないけど。

 ちょっと混んでいたけど、夕方になる前に目的地に着いた。

 車をハンズの向かいにある私営の駐車場に入れ、僕と親父は店内をグルグル見て回る。

 なんだかんだ言ったところでハンズを見て回るのは面白いし、親父と一緒ってのがちょっとうざったいけど、その代わりちょっとねだれば何かを買って貰う事も出来る。

 もちろんお目当ての天体望遠鏡は別件だけど、僕は事前調査しておいた性能とその場で触れてみた感じでちょっと値の張るのを買って貰った。

 もっともそういう意味では、僕なんかより親父の方が「見ると欲しくなる」タイプで、なぜかその場で売っていた「自宅でプラネタリウム」とかいうキャッチフレーズのオモチャが目に付いた親父は、僕の望遠鏡と一緒にそれも購入していたようだ。

 歩き回って疲れたので途中で喫茶に入ったその時、ふと親父がサングラスを提げて隙間から遠くを見ている。


「どうしたの?」


 親父は軽度の近眼と乱視なのだけど、外に出る時は度入りのサングラスをしているのでコンタクトは入れてない。

 でも本人曰く、サングラス越しだと度が入ってても離れた人の顔とかを判別出来ないんだそうだ。

 だから遠目の人間の顔を見る時は、少しサングラスを提げて目を眇めるクセがある。


「誰か、知り合いでもいるの?」

「んん〜? あそこ歩いてるの、敬ちゃんに似てるなって思って」


 振り返ると、喫茶の窓越しから見える売り場に、確かに敬一さんと思わしき人が立って商品を眺めている。


「午後からの用事って、イオリンとのデートだったんだな〜」

「誰?」

「ほら、敬ちゃんの横に立ってる、色白の二枚目。敬ちゃんの後輩のイオリンじゃん」


 敬一さんの隣に立っている、敬一さんより背の高い男の顔には見覚えがあった。

 確か前にカテキョに来て貰っていた時、何度か車で敬一さんを送迎していたヤツだ。

 敬一さんに訊ねたら、学校の後輩だって言っていたっけ。

 それにしても、なんで親父はアイツの名前まで知ってるんだ?


「親父さぁ、なんでもそういう風にデートとか言うの、ヤメロよな。なんでも自分の基準で計るんだから」

「桃ちゃんはまだ子供だから、ワカンナイだけだって。あの二人、見るからにデキてんじゃん」


 ミルクと砂糖を飽和状態まで入れたコーヒーを飲みながら、親父はそんな事を言う。

 全くこのバカ親父と来たら、なんでもそういう風に解釈しなきゃ気が済まないんだから、実に不愉快だ。


「ねぇ、もう行こうよ」

「え〜? だって桃ちゃんアイスクリーム食べかけじゃんか」

「もう食べ終わった。行こう!」

「なんだよ、桃ちゃん。先刻まであんなにゴキゲンだったのに……」


 ブツブツ言いながら親父は立ち上がり、会計に行く。

 僕は店の外に出て、先刻まで敬一さんが居た辺りを見たけれど、その時にはもう敬一さんは居なくなっていた。


「ん〜、じゃあブラブラ帰ろうか? 桃ちゃん、東横のれん街でおかず買って帰るのと、途中で寄り道して夕飯食うのとどっちがイイ〜?」

「別にどっちでもいいよ」

「なんかそっけねェなぁ〜」


 親父はもう敬一さんを見かけた事すら忘れちゃってるみたいにさっさと駐車場に向かった。


 帰りの車の中では親父が一方的に色々なんか言っていたけど、僕はなんとなく敬一さんの事を考えていて空返事しか出来なかった。

 でもだからってその話題を出せば、この色欲親父は話を強引に変な方向に持って行ってしまうに決まっているから、話をする気になれず。

 結局、翌日また敬一さんが来るまで、僕はずっと燻っていた。

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