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青紫に照る

作者: 九童

 夜、私はナカナカ寝付けなくて、遅くまで起きていて目が覚めてしまったというワケではなく、漠然とした不安のせいで眠れなかった。


 しかしこのまま目をつぶって寝てしまってもどうせ起きるのは夕方頃でそれは嫌だなと、それなら折角のこと散歩でもしてみようとベッドから起き上がった。


 私はくすんだ青色の、お気に入りのパーカーを羽織って玄関を出た。


 午前六時。街がぼうっと寝ぼけていて、だけど車の音が少しだけ喧しくて起きろ起きろと急かしているような、不思議な時間。


 春の始まりのこの時期は、春というにはまだ確かに寒く、雲が霞んで青い空を白くぼやかし、その向こうでオレンジ色が照っている。太陽はまだ僅かに出ていなくて、しかしそれがまさに早い朝である事を現していた。


 凍ってしまいそうな手をポケットに入れ、中でギュッと握りしめて、緩やかに歩道を歩き出した私の横を、車が走っていった。目的地もなくただ不安の種から逃げている私と違って、彼らは確かに不安を抱えながらも、それでも、どこかへと向かうその車がどこか羨ましかった。


 冷えた空気が私の肌を撫でて、頭を酷く冷静にした。……不安から逃げたけど私には逃げ場が無かった。こうして朝から街へ出てアテもなくブラブラとして、誰かのためにも、自分のためにもならない無駄な時間を作って、目的地も目的も信条も約束も責任も何もなくただアスファルトに足を投げて…。


 一体何がしたいのか、私は。誰かに助けを求めたいけど、求めたところで何も解決しないし、嫌なことに自ら手を突っ込まないと時間が進まなくて、しかしそれはやはり嫌で嫌でウジウジするだけ。一つ問題が終わればまた一つ何かが浮き彫りになって、終わらない正に無限の悪夢。回廊をひたすら右に曲がるだけの、出口のない無能。


 さっきよりも車の音が騒がしくなって、薄青の空もいつしかハッキリとしたオレンジに変わっていた。私は夕日が嫌いだからフクザツな気持ちだった。

 

 どうしようもなく不安なとき、私はよく物事を長い目で見る。百年の人生、千年の人理、一万年の歴史、一億の宇宙。今のこの悩みも不安も、それに比べれば遥かチッポケなもので、所詮は私という、存在したかどうかすら判らないあやふやな、名前の小さな落書きの、ちょっとした書き間違いなのだと、そう思うとホンの少しだけ楽になった。


 「生きていればなんとかなる」という言葉。その言葉に私は何度も救われている。綺麗事でも何でもない。事実なのだ。『生きている』という事実さえあれば何とかなる。でもそれは難しい。とても難しいものだと思う。その事実すら放り出して逃げたくなる気持ちも解る。責任とは常に地獄だ。そして等しくこの世も地獄だ。楽を与えてはくれないのだから。自分で掴み取れだなんて、ふざけるのも大概にしとけと言うもんだ。


 小石を蹴りつつ、初めて会ったおじいさんに挨拶しつつ、またそうやって無駄なことを考えた。おじいさんは挨拶を返してくれなかったけど。


 それで何となしに岐路を右に曲がったりして。通ったことはないけど帰り道は分かってる。どうしたら良いかは考えたところで何も分かって無いけど、どうしようも無いことも分かってる。


 今を精一杯に生きろと言われても私はずっと未来に生きてる。不安症なのもその所為。先を見ないで進むのなんて、怖くて怖くて。


 かなり日は出てきたけどそれでも寒いしなんだか脚も痛いし、でもちょっとそこの公園まで寄ってみようか。私のくだらない心のことでも少し綴ろうか。


 

 

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