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勇者、コンビニ始めます  作者: 抹ちゃん
3/3

2点目: 海の家。定番商品

遅くなりました2話目です。


ここは異世界、魔王、魔物がいる世界だ。


世界各国が平和を求めて勇者を召喚したが、未だ成果は出ない。魔王による攻撃がほんの時たま起きるが、人々は平和に暮らしている。


地球に比べれば全てが劣っていて、教育がどうのこうのなんて話にならないほど未発達な、発展途上どころでもない暮らしをしている。

魔物を狩ったり、畑を作ったり、内職したり。それは真冬でも、真夏であっても。




ピノの町を巡回しながら、今日も荷馬車のコンビニは開店している。荷馬車を引くのはフェンリルに種族転換した愛犬モロだ。引くのが大好きなようで、最近ではフリスビーより荷馬車をとるようになった。元犬として、いやフェンリルとして如何なものか....。暁斗の複雑な気持ちも知らず、今日も尻尾振り振り荷馬車を導いていく。

「おーい! コンビニちょっと止まってくれ!」

後ろから若い男の人が追いかけていたようだ。モロがちゃんと意思を読み取って荷馬車を止める。

暁斗も御者台から降りて、駆けつけた男に声をかける。

「あの、どうしました?」

「はあっ、はっ、あんたにちょっと頼み事があるんだが、いいか」

「頼み事? ですか?」

男いわく、今日は夏の中でも最も暑い夏至の日らしい。夏至の日は休日と言うことで家庭持ちの家族集団で海に行くそうだ。

「去年の秋の台風で海の家のじいさんがぎっくり腰で店開けねぇんだと。だからコンビニのあんたに代わりに店番を頼めないか?」

「こちらの商品も売っていいなら、構いませんけど....。見ず知らずの男に店を開けちゃっていいんですか?」

そっちのほうが心配だと慌てる暁斗。

「それは大丈夫だろ。あんたにはこの前助けてもらったし、ガキたちも口を開けばコンビニコンビニってな! 結構あんたも人気なんだぜ?」

「そう...なんですか」

知らないうちにだいぶ馴染んでいたようだと暁斗は安心した。

「なぁ頼めるか?」

アイス売ってくれるのはこっちも嬉しい限りだからさ! と更に一言。ここまで頼まれると、やる。

「わかりました、お引き受けします。準備とかもしたいので今日から行ってもいいですか?」

「助かるぜ! じいさんから鍵と許可はもう貰ってあるんだ。店壊さなきゃなんでもしれくれていいってよ。報酬は売り上げの半分だそうだ。じゃあ案内するわ」

「よろしくお願いします」

草原から海へとつながる道を進むこと一時間ほど。風に潮の匂いがしてきた。

「わふぉ!」

先頭のモロの尾がブンブンと振られる。

角を曲がると、海。

左右を山に囲まれ、谷のようになった真ん中に遠浅の海が続くフィヨルド。目の前すぐに白い砂浜が広がり、さらさらと波で揺られて鳴っている。

「すげぇだろ。来たことあったか?」

「....いえ、始めてきました。綺麗ですね」

「だろぉ? ピノの町唯一の名所なんだ」

白の浜という名前らしいこの海辺には、ごくたまに貴族がやって来たりするそうだ。美しい場所だが町の住人以外にはあまり知られていない隠れスポットだ。

「わふ! わふ!」

昔行ったビーチの興奮を思い出したようで、紐を外してやると嬉しそうに跳ね回っている。

荷馬車を降りて海のそばまで行ってみる。靴は脱いで素足で歩くと、さらさらとした細かい砂を温かく足の裏に感じる。

透明な波に足を踏み入れる。ちょっと冷たいくらいで心地いい。

白い浜に、美しい青の海。絵に書いたような光景に、心を動かされる。直射日光で暑いにも関わらず、暁斗はただただ圧巻の景色に心を奪われていた。

「海の家はこっちだ。ほら、あの木々で木陰になってるとこにあるだろ?」

「あっ、あれですね」

ヤシの木の大きいやつが数本生えている浜辺の一角、そこに小ぶりな小屋が立っていた。開放的な造りで、海の家な感じだ。

「水はすぐ近くに湧水があるんだ。ほら、あそこさ」

隣がすぐ山だからか、浜の奥は坂で岩場になっている。そこから山の水が湧いて流れてきているようだ。

「じゃあ俺はこの辺の魔物退治してくっから、明日頼んだぜ」

「はい! ありがとうございます」

だから武装していたのか。男は早速山へ駆けていった。

「さて、まずは掃除かな。モロ、バケツに水入れてきて」

「わふぉ!」

まずは叩きをかけていく暁斗。モロが戻ってきたら床掃除だと意気込む。叩き終え、掃き掃除をしながら一通り店内を見て回って、場所を覚えながら要掃除箇所を割り出しておく。

はっはっ と息遣いが聞こえてきた。モロが戻ってきたようだ。

「わふ~わふ~」

口でバケツを咥えながら誉めて誉めて! とばかりに出したくぐもった甘え声は暁斗には伝わるようで、撫でてもらって嬉しそうにさらに甘える。

「とりあえずバケツ下ろしてな」

「わふぇ!」

水が一杯に入ったバケツをそっと降ろすと、今度こそ誉めて誉めて! と暁斗に飛び付く。呆れたように暁斗がわしゃわしゃしてやると、嬉しさを爆発させて再び渚へと走っていった。

「やれやれ。さてと、床掃除だ」

ガレージから雑巾を取り出して、濡れ雑巾で床に限らず様々なところの汚れを拭き取っていく。二時間ほどかけて海の家はすっかり綺麗になった。

「モロー、あんまり沖に行くなよー!」

「わふぉ!」

浜辺から海へと遊び場を移動して泳ぎ出したモロに一応声をかけておく。

元々の飾りに〈再構築〉で整形と塗料の再貼付を施して、海の家は完成した。

キッチンに入った暁斗はガレージから常用のホットプレートや鍋、調理器具もろもろを取り出していく。

(海の家の料理って、焼そばとか焼きトウモロコシ、かき氷にアイスとかかな?)

あいにくトウモロコシはこの世界でまだ出会っていない。それ以外は材料はある。

(あとはたこ焼きとかイカ焼きか?)

材料さえあればなんとかなりそうな料理だ。

「タコとかイカってまずいるのか?」

暁斗が?を浮かべてボーっと泳ぐモロを見ていると、モロはしばらく犬掻きしたあと潜り出した。潜って浮かんで潜るを繰り返していたモロだったが、何回目かの潜りで勢い良く海面から顔を出した。

「わふぉっ!? わふわふっ!?」

バシャバシャと水飛沫をあげて暴れるモロ。パニックに陥っているようで気が付いて呼び掛ける暁斗の声も届いて着ないようだ。

「モロっ!」

急いでそのまま海に入り、モロまで駆け付けた暁斗。モロの顔には見たことのある軟体動物がへばりついていた。

「タコじゃん!?」

〈発達〉で強化させた腕の力でタコをモロから引き剥がす。

「きゃおんっ!?」

「わりィ、毛抜いちゃった」

暁斗の大雑把に情けない声で脱力するモロ。怨みでもぶつけるかのように暁斗の腕を締め上げるタコを鼻面でどつく。

「あっ、バカ」

タコはそんなモロをバカにするように墨を吹き掛けた。

「わふぉん!? ぎゃんぎゃんっ!」

海水で墨を振り払うとまたタコに食って掛かるが、この世界のタコは墨が尽きないのか、何回でも返り討ちにしてくる。

「ほらほら、上がるぞ?」

「わふーっ!」

薄汚れながらもまだまだ戦う気なモロを慰めながら海から上がろうとすると、

「わぎゃんっ!?」

再びモロが暴れだした。そのまま何かに海の中に引き込まれていく。何かと潜ってみれば、体長三メートルはあろうかというほどの大ダコ。

モロが鋭い牙と爪で応戦するが、やっとちぎった触手は直ぐに再生して生えてくる。

『モロ! ちょっと動くな!』

『わふ!』

ごぼごぼと泡の音しか聞こえないが、伝わった。

モロを掴む触手は2本、他の6本を根元から〈草刈り〉で断ち切って、再生する前にモロに絡み付く触手も切り落とす。

『離れてな』

モロが水面に顔を出してすぐ、大ダコの触手が全て再生した。暁斗にも触手を伸ばして掴まえようとしてくるが、さっきよりも少し動きが遅い。

(再生に体力を使ったのか)

迫る触手を切り落としていくと更に動きは遅くなり、再生のスピードも落ちてきた。もはや、海中でもそれなりに動ける暁斗にとって、大ダコは単なる食料に見えてきた。

『もうへばったか?』

暁斗の挑発で、触手の再生もままならなかった大ダコが一気に再生させて向かってくる。

ちなみに切り落とした触手は全てガレージに回収済みだ。

触手が再生出来なくなるまで暁斗にいたぶられた大ダコは最初の大きさを失い、乾物のように細く骨張っていった。

運良くたこ焼きの具も確保できた暁斗には、大ダコを殺す必要はない。見過ごされた大ダコはゆらゆらと揺れながら岩影に入っていく。はみ出た脚が吸盤も作用せず力なく潮に揺られて、暫くして小魚につつかれ始めた。どうやら力尽きたらしい。

海面に上がると、砂浜で待っていたモロがブンブンしっぽを振っているのが見えた。

「モロ!」

「わふぉん! わふわふ!」

片手を上げて無事に片付いたことを知らせると、喜んでバケツを咥えて水を汲みに行った。



濡れた服も着替え、暁斗は早速下準備を始めていく。

「タコは小さく切って...と」

太い大ダコの脚を念のためしっかりと茹で、細かく切っていく。少し食べてみて地球のものよりも少し固かったため、細かな切り込みを入れるのも忘れない。

タネも今後のことを考えて、大量に用意しておく。因みに、だし汁は風味の良いカツオ似の魚から摂っている。ちょこちょこ凝っているのだ。

次に、ホットプレートを作ったのを応用して〈再構築〉と〈発達〉を駆使して火元不要たこ焼き機を製作。

何回か試食品を作って扱い方を確認していくと、回数を重ねるごとにモロのリアクションも激しくなっていった。暁斗も食べて、納得のいくたこ焼きを作ることに成功したのは夕方になった頃。

「おし、出来た!」

「わふんっ!」

ほかほかと美味しそうなソースの香りたつたこ焼きを前に、満足そうに頷いた。













木陰の海の家とは違い、遮るものがない青い海と白い砂浜は昼の太陽にキラキラとかがやいている。楽しそうな笑い声が響く波打ち際で、暁斗とモロは豪快に水を被っていた。

「ほらほらほらぁ!! どんどんいくよ~っ!!」

「あはははっ! お兄ちゃん弱ぁい!」

「そーれっ!」「おりゃあーっ!」

「うわっ、ちょっ理不尽!?」「わふわふっ! わふっ!」

水遊びをする子供と大人。

その様子を海の家で微笑んで見ていたら、子供たちに「コンビニの兄ちゃんも!」と引っ張り出されたのだ。そして絶賛水掛けられ中である。

子供達やその母親たちにやられまくりの暁斗。小さく水を掛け返す。暁斗が本気でやると、高潮レベルの大波になることは昨日把握済みだ。

「わふぉん!」

モロは勢いよく海面から飛び出て、落ちる衝撃で大量の水飛沫を飛ばす。

「きゃあー! モロすごぉいっ!?」「ぐあぁっ!?」

「わぷっ!」「あはははっ!! やーらーれーたーっ!」

敵味方関係ない海水の雨に子供たちのテンションは上がっていく。

「フクシュウするぞ! くらえー!」「りゃー! 倍返しだぁ!」「きゃ! 冷たぁい!」「わたしもー!」

「わぶっ!? きゅーんっ!?」

子供達に囲まれ、全方位から水を被るモロは慌てて犬掻きで逃走を謀るが、子供たちにことごとく捕獲された。

「とったー!」「きゃー!」「おっしゃあぁぁ!」「あははははっ!!」

「わふぉぉん!?」

次々と背に乗ってくる子供たちを振り落とせる訳もなく、モロはおとなしく遊び相手となった。

二人ずつ交代で子供たちを乗せ、モロ号は微笑む大人たちの周囲を泳いで回る。

ちらりと暁斗に目で助けを求めるが....

「ガンバ」

「わふ~ぅ」

暁斗は暁斗で残りの子供たちの相手である。水を掛けまくられる暁斗に救える筈がなかった。




正午も少し過ぎた頃、疲れて子供たちは浜へと上がってきた。

大人たちは子供の相手で早々に疲労困憊となり、木陰に設置したビーチチェアでグロッキーになっている。

「ねー、お腹すいたー!」

「ぼくもー!」「私もー。コンビニのお兄ちゃんのとこ行こ?」「ねーぇ! アイスーぅ!」

力なく横たわる親たちを揺さぶる子供たちに、倦怠感の残る体を起こし海の家にやって来た。

そんな彼らに暁斗は店の前の木陰のテーブル席を勧める。親たちの見守るなかで、子供たちは我先にと店頭へ駆け寄った。

「ね! ね! これなぁに?」「ねー! アイスは!?」「おれミルクにする!」「お好み焼きある? わたしコンビニの大好き」

まるで台風。矢継ぎ早に口と手とと、好奇心旺盛だ。

「これはたこ焼き。ふわふわしてて、中にタコが入ってるんだ。お好み焼きみたいな味だよ」

「じゃ私それにする!」

「お好み焼きもあるよ?」

「うーん、でも食べてみたい! じゃあ両方!」

「りょーかい」

喋りながらたこ焼きを作っていく。くるっとたこ焼きを回転させて丸く仕上げると、男の子たちから「「おー!」」と完成が上がった。気になったのか親たちもポツポツと観に集まっていく。

「アキトくん、これ君が考えたの?」

「いや俺じゃあないです。故郷の料理なんですよ」

「ふーん。どこなの?」

「....遠いし小さいとこだったので言っても分からないですよ」

たこ焼きをピックに引っ掻けて紙皿に載せていく。鰹節や青のりはないからその上にソースをかけて出来上がりだ。

「はい! どーぞ」

「わー!」「おぉ! 丸い!」

見たこともない食べ物に興味津々で席につく親子。つられたようにすべての家族がたこ焼きを頼んだ。

「...! はふっ!?」「あちっ」

たこ焼きを口に放り込んだとたん、思わぬ熱さに驚く家族たち。

「気を付けてね」

「...っあちっ!?」「はふはふ」

ちょっと出来立てすぎたか、と反省する暁斗。だが、味自体は悪くなかったようで好評だった。

「コンビニの兄ちゃん! 旨かった! けど熱かった!」

「そっか。ふーふーして食べな」

「おう!」

ふーふーどころかぶーぶーして冷ます子供たち。

大人たちは割って食べているのに対し、子供たちはなんとしても丸いまま食べたいみたいだ。

「ちょっと冷ますよ」

暁斗はたこ焼きに手をかざし、〈発達〉を発動。温度を少し下げてまわる。

「これでよし」

不思議そうにぱくっと口に放り込んだ子供たちはご満悦な様子でおかわりまでしてくれた。今度は適温にしてから手渡す。

「焼きそば2つね」

「ありがとうございます。お席でお待ち下さい」

「オーアールある?」

「ありますよ。こちらの水差しからご自由にどうぞ」

「アイス! ミルクがいい!」

「モロー、頼む」

「わふ!」

「わたし青いの!」

「わふっ!」

「2番テーブルの奥さん! 焼きそば出来ました」

「ありがとね」

「お好み焼きいいかな、1枚で」

「承りました。お席で少々お待ち下さい」

「あ! 俺も1枚!」

「はい!」

「お兄ちゃん! 黄色いアイスなに!?」

「オレンジ色もあるー!」

「「マジで!? どれどれっ!?」」

「ねーお兄ちゃん、これ何味?」

「それはパンゴー、黄色はリンゴだよ。新商品なんだ」

「じゃおれパンゴー!」「おれも!」「私もー!」「わたしはリンゴにする!」

「「おかーさんお金ー!」」

「「はいはい」」

「俺も買おうかな、ミルク1本貰うな」

「わふっ!」

「毎度あり! お金はそこの籠に入れてってください」

「あいよ」「届かねー、おれのも入れて?」

「1番と4番テーブル、お好み焼き出来ました!」

「おっ、ありがとさん」「おぉ、うまそ」

「おれも食う!」

「あっ!? コラ、もうアイス食ってるだろ!?」

「オーアール貰うわね」

「どうぞ」


とまあ、忙しく料理して接客しているうち、満腹になったところで大人たちはオーアール片手に談笑を始めた。

子供たちはモロを連れていって海遊び第2段に突入する。

「わふーー」

「頑張れ」

「わふぉっ!?」

「「きゃはははっ!」」「あははは!」「行こーぜ!」

店仕舞いを始める暁斗に早速モロの悲鳴が聞こえたが、子供たちは大いに楽しんでいるようで気にしない。

汲んでおいた湧き水で床やキッチン、キッチン周りの壁も拭き掃除し、看板も下ろして完全に店を閉める。

楽しそうに語り合う大人たちのテーブルにオーアールと水の水差しを置いていく暁斗。

「ね、コンビニのお兄さんって今いくつ? 背は高いけどまだずいぶん若いでしょう?」

「そうですね、16です」

「あら! 成人したばかりじゃない! しっかりしてるのねぇ」

「ありがとうございます」

本当の暁斗なら歳相応に見えるだろうが、今の暁斗はホムンクルスの身体を使っている。本来よりも大人びて見えるのだ。

「うちの長男がね、あなたと同い年なのよ。良いお友だちになれるんじゃないかしら」

「はぁ」

「ライヤくんは旅に出るんだっけか? アキトくんたちは各地を転々とするんだろ? ライヤくんとも旅人同士仲良くなれるんじゃないかな」

「そうねぇ! いっそのことライヤをアキトくんの旅に同行させてくれないかしら! ライヤは弓が上手いのよ、道中に魔物が来ても安心よ?」

「そりゃあいい!」

「ね! そうしたら良いわ! 早速明日ライヤと会わない? 気さくな子だからあなたともすぐに仲良くなれるわよ!」

「ライヤくんいい子だからなぁ、心配は入らないぞ」

「じゃあ決定! 明日お店に伺うわ」

決まった! とばかりに立ち上がる2人。

「えっ、あの...俺なにも言ってない...」

暁斗が発言する暇もなく、ライヤくんと暁斗の顔合わせが決定した。

どうしよう? と暁斗は子供たちの元気嵐に揉まれるモロに視線を送るが、

「わふぁ!?」

それどころではない、むしろこっちを助けて と目で訴えられる。

しかも、モロに目線を送ったことで更なる試練が起こる。

「コンビニのお兄ちゃん! お兄ちゃんも来てー!」「来てきてー!」

「えっ!?」

満面の笑みで子供たちが手招く。

「ほら、アキトくんもまだ子供でしょ? 遊び足りないだろうから行ってきな」

「お守りお願いね」

「えぇっ!?」

親たちに背を押され、更には子供たちが駆け寄ってくる。

「よーし! レンコウだぁ!」「おー!」「捕まえろぉー!」「きゃー!」「来てー! ねーねー!」

あえなく捕獲され、海パンの上に羽織っていたパーカーすら脱ぐ暇もなく海へと連れ込まれる。

「「おりゃあー!」」「きゃー!」「あはっ!」

「わふー」

「おわっ!?」

早速遊び相手にされ、大人たちは微笑ましそうに眺め、日は傾いていく。

海で遊ぶのに飽きたらビーチで砂遊び。

穴掘って! と言われ掘った穴に落とされ埋められたり、渾身の一作のお城にナマコ怪獣が投下されたり、女の子たちのお姫様ごっこの相手で王子役(なぜかお母様方にウケた)をしたり。

それも飽きれば1人体5人+1匹の鬼ごっこで追いかけ回されたり、追いかけたり。

楽しい一日が終わったのは、子供たちが疲れて寝付いた夕方。

浜の片付けをして、全員で談笑しながら帰途に着く。

喋りながら歩く親たちに合わせて、馬車を引くモロものんびりと隣を進む。寝てしまった子供たちはコンビニの中で熟睡中だ。

のほほんとした遠足帰りのような雰囲気のなか、モロがピクリと何かに反応する。ほぼ同時に暁斗も何かの気配に気付いた。

「皆さん、近くに魔物がいます。止まって」

「「えぇ!?」」「なんだと?!」「なにっ!」

「どこだ!?」

男親たちが腰から短剣を抜き取る。護身用に持ってきていたようだ。普段から冒険をしているだけあって、素早く母親たちを馬車に寄らせ、馬車の周囲で構える。

暁斗は〈発達〉で超補正した聴覚をもって索敵する。

「....前方20メートルです」

前方といえば森だ。視界が悪く暗いため男たちは魔物の位置がわからない。

「「それほんとか?」」

「ホントです。複数で走ってきています。到着まで5、4、3...」

信じられなそうに男たちが構える目の前の下生えから、暁斗が0を言ったとたん、示し合わせたかのように狼の魔物が8匹飛び出してきた。

眼を剥く男たち。咆哮し、襲いかかる魔物。

冒険者の本能が咄嗟に体を防御姿勢をとらせ、魔物の牙や爪を押さえる。

モロも馬車から応戦する。吠えたてると数匹が逃走していったが、距離をとると再び襲いに来た。疲れているからか、モロのフェンリルオーラが薄れているようだ。

「「きゃー!?」」

相手のいない魔物が守りを破こうと押し掛ける。徐々に相手取る魔物が増えた男たちがなんとか踏ん張るも、もう持たなそうだ。

「....来い」

自衛しているだけではやられてしまうと、暁斗は大鎌を召喚する。

「アキトくん?!」

慎重ほどの刃渡りの大鎌を何処からともなく装備した暁斗に、母親たちが驚いた。柔和なアキトが持つにはあまりにも物騒な武器。

「ッ....!!」

横一文字の凪ぎ払いがいっきに2匹の魔物を伐り飛ばす。

敵はあいつか! と男たちに噛み付いていた魔物が一斉に暁斗へ殺到し、咆哮しながら飛びかかる!

「「兄ちゃんっ!?」」「「アキトくんっ」」「避けろっ!?」「ダメぇっ!」

誰もが暁斗が助からないと思った。が、蒼い閃光が魔物たちに迸る。

途端に、魔物たちが飛びかかる姿勢のまま解体されて落ちて、中心から大鎌を返還した暁斗が現れた。

「お、おっ、お前っ大丈夫なのか!?」「いまのなんだぁ!?」「アキトくーんっ!」「わぁぁ、良かったぁー」

あの一瞬でどうやってか全て倒して無傷な暁斗を不思議がりながらも、安堵する親たち。

同業者の技を聞き出して盗むのは御法度である。

「助かったぜ、強いんだなコンビニの兄ちゃん。一人で旅してるだけあるな!」

「これならライヤも頼もしいわね!」

「凄いわねぇ。うちの主人と大違い!」「んだとぉ!?」

談笑に夫婦喧嘩も交ざりながら歩くこと十数分。ようやく見えてきたピノの町の灯りが、楽しい1日の終わりを告げる。

今日だけで随分と打ち解けた家族たちと別れ、馬車のコンビニは町の外れへと暗闇に消えていった。


海の家での儲けは通常の1日分の数倍にも及ぶ。暁斗は意気揚々と店内の掃除をし、ガレージを実体化させるとモロごと馬車を収納させる。

空き地に現れた小屋に馬車が納まると小屋は忽然と姿を消した。


異空間であるガレージの中、だだっ広い倉庫スペースにはいくつかの一角は小さな小屋が建っている。

「ただいま」

発光源がなくともうっすらと明るい小屋からはなんの返事もない。

小屋にあるのはベッドと机や椅子、大きなクッションはモロのだ。早速モロがぽふっと寝転がる。

暁斗は寝椅子に座ってベッドに視線を向けると、今の暁斗より少し子供っぽい少年が寝かされている。本物の暁斗だ。

眠る自分を見るのはとても不思議な感覚で、慣れることはない。

暁斗は自らホムンクルスの接続を切り、意識を元の身体へと返す。

「んっ...」

ガクッと力なく寝椅子に座るホムンクルスの身体。同時に暁斗は目を覚ました。

「わふぉ!」

仮の身体で撫でるよりも本来の身体のほうが嬉しそうにしっぽが振られる。

伸びをして半日以上眠っていた身体をほぐす。

(さっきまで海であそんでたんだけどな)

違和感はもう慣れた。屈伸や軽く跳ねて身体に異常が無いことを確認すると、寝間着から戦闘服(バトルクロス)に着替える。

「わふん」

「ちょっと行ってくるな」

「わふぉ」

ホムンクルスを通して日々変わる体を慣らしに、夜に食料調達や仕込みをするのが暁斗の日課となった。まずは肉や香草、茸などの入手のため、ガレージから転移した。

「くうん....」

暁斗の愛犬であるフェンリルは暁斗の消えた跡を前に座り込んでいたが、ふと踵を返して寝椅子に横たわる暁斗の足下に伏せた。

今夜は月が細い。暁斗の姿は誰にも見えないだろう。



異世界からやって来た勇者の素性は、愛犬しか知らない。

そして、その心情も。

















読んでくださってありがとうございます!

評価、意見、感想、ブクマなどよろしくお願いしますm(__)m

次回も読んでくださると幸いです。

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