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076 スキンウォーカー2

ダァン!


「キッ!?」


槍を持った獣人が銃声に驚いて声を上げ、ヘラジカは飛び跳ねる。


(さすがにあの巨体を1発で殺すのは無理か……というか後ろ足が妙な動きしてんな?まあいいとにかく殺そう)


ダァン!ダァン!


「モ”ォォォオ!」


的は大きく距離もそれほど離れていないので続けて撃った2発もしっかりと命中し、3発目を受けた時にヘラジカは倒れた。

立ち上がらないのを確認し、念のため拳銃の撃鉄を起こした状態で獣人に近づく。


「大丈夫ですか?」

「あ、ああ……助かったが……」


(鳥の獣人は初めて見るな、この場合は鳥人と呼ぶべきか?)


茶色交じりの黒い羽と白い羽を生やし、黄色いクチバシを有しているが、全体的に人間の男性と同じ体系。

両手は鳥の脚に似た質感だが、足は動物の毛皮で作られた靴を着用しているためどんな形をしているのか不明。


「どどどうしたの!?今の銃声だよねっ!?」


遅れて来た怜奈子はバールを握り締めて戦闘準備をしており、とても慌てている。

それに続いて姿を現したクレナイは無反応だが、クリーチを見た獣人男性は――鳥の顔なので少し分かりにくいが――非常に驚いている。


「怪物に少女が乗っている……いったいなんなんだお前たちは……」

「えーと……僕たちは旅人でして、色々なところを見て回っているんです、それで――」


異世界人風に深淵の者、すなわち地球人の旅人であると自己紹介し、旅の道中で出会った者からこの辺りに異世界人の珍しい部族を見かけたので会ってみれば良いと勧められたと説明。


「――というわけです」

「そ、そうなのか……怖がってしまってすまなかった」


獣人男性は最初から警戒はしておらず、どちらかといえば怯えや困惑の感情が強かったので、落ち着いて会話をしながら緊張を解すとすぐに友好的な態度で接してきた。


「僕は伊作、彼女は怜奈子であの子がクレナイです」

「私は”空へいざなう風”ニヨルだ」

「あ?空へ……なんです?」

「私たちの部族は皆2つの名前を持っているから名乗っただけで普段は使わないから気にしないでくれ、基本的にはニヨルと呼ばれている」

「はあ、そうなんですか、よろしくお願いしますニヨルさん」


(話しには聞いてたけどほんとにこんな外見の人たちいるんだ……写真撮りたい……)


獣人という地球人とはかけ離れた知的生命体を初めて目にした怜奈子は内心ワクワクしながらも、初対面の者に話しかける勇気はないため何気なく辺りを見ると倒れている動物が目に留まった。


「これってヘラジカ……?」

「む?ああそうだが……そうだった!早く処理しないといけない!すまないが手伝ってくれ!」

「わかりました、まずなにをすれば?」


ニヨルは腰に下げていた手斧を渡す。


「これで角を切り落としてくれ、なるべく根元で」


(この手斧、俺がエルフ村で殺した獣人女が持ってたのとそっくりだな)


手斧で角を叩いて切っている間、ニヨルはヘラジカの首を切って血を流させ、続いて右後ろ足に絡まる縄を解いてから別の太めな縄で両後ろ足を縛る。

伊作はその様子を見て初めてヘラジカの後ろ足に罠が掛かっていたのに気づいた。


「ひょっとして獲物だったんですか?余計なことしちゃいましたかね?」

「いや、本来は普通の鹿用の罠だったんだ、だが世界がこうなってから動物の活動時期も生息地も変化していて、偶然ヘラジカが掛かってしまって困っていたんだ」


(あっ、異世界人でもこの動物のことヘラジカって呼ぶんだ……)


帝国から仕入れたという特殊な魔法の縄を商人から譲ってもらい、試しに括り罠に使ったら予想以上に頑丈だったせいで掛かったヘラジカが自力で引きちぎることもできず、ニヨルが縄を切って逃がすこともできなかったという。


「放置していればそのうちヘラジカの足が腐るか千切れるかしていただろうができればこの大物は逃したくなかった、危険を覚悟で仕留めようと思った時、お前が現れてくれた」


罠に掛かっていたことから余計な手出しをしてしまったのではないかと思ったが、ニヨルの口ぶりからヘラジカを撃ち殺したのは迷惑ではなかったのが分かった。


「角取れましたよ、2本とも」

「ありがとう、次は吊るすから一緒に縄を引っ張って……いや、あの馬?を使わせてほしい」

「いいですよ、クレナイさん」

「んっ」


飛び降りるクレナイに手を貸してから、ヘラジカの両足を縛る縄を近くの木に引っ掛け、クリーチの首に繋いで歩かせる。

ヘラジカの体が半分吊るされたところでクリーチを止めた。


「ここで解体するんですね」

「本当は私たちの集落に持ち帰って解体したいんだが、大きすぎて重いから小分けにしないと運べないんだ」

「僕の馬、クリーチで運べば良いのでは?」

「巨大だから乗せるのは難しい、引き摺るにしても集落までは砂利道があるから毛皮や肉が――」

「これで、どう?」


クレナイの背中からサマンサの両手が生えて吊るされたヘラジカを持ち上げた。

伊作は「その手があったか」と関心し、ニヨルと怜奈子は驚愕する。


「キーッ!?」

「こ、これがクレナイちゃんに住んでるサマンサさんかぁ……聞いてはいたけどすんごいパワフル……」


事前にサマンサの存在を知っていた怜奈子はすぐ冷静になるが、何も知らなかったニヨルはくちばしを大きく開けて驚いている。

しばらく沈黙が続いた後に再びクレナイが「どう?」と聞く。


「え?あ、おう!これなら解体せずに運べるなっ!うん……」


解体は中止し、ヘラジカの首から血が流れなくなったあたりでサマンサがクリーチにヘラジカを乗せた。

ニヨルは罠を回収し、集落を目指して先頭を歩き出す。


「しかし驚いたぞ、あれほど強大な存在を宿す獣憑きがいるとはなぁ」


(そういえば狩人の婆さんもクレナイのこと獣付き言ってたな、意味を聞きそびれてたことすら忘れてた)


「その獣憑きってどういう意味なんですか?」

「言葉通り獣に憑依されている者のことだ、私たちの部族も大まかな分類では獣憑きだぞ、まあ皆私たちのことはスキンウォーカーと呼んでいるがな」


(俺が貰った紙のスキンウォーカーってのはこの人らだったか)


(日記に書きたいことがどんどん増えちゃうなあ……)


伊作と怜奈子はその話しにとても興味を惹かれたが、道が少し上り坂になったので体力を消耗しないように会話を控え、詳細は集落に到着してから聞くことにした。

十数分移動したところで2つの小屋、石と土で作られた大型のかまどのようなものが見えた。


「あれは?」

「共用の製鉄所だ、世界がこうなる前は湿地帯が近くにあってな、そこから取れる泥炭で鉄を作れたんだ」

「地形が変化した今はもうできないんですね」

「まあ以前でもあまり使ってなかったから問題ないがな、道具の手入れと手斧や装飾品を作るくらいだった」


そう言いながらは片方の小屋を開けて見せる。

小屋の中には止め刺し用の槍と刃が欠けた斧、矢尻や捕鯨と思しき大型の銛などが置かれており、ニヨルは持っていた槍を小屋に置いて扉を閉めた。


「あ、あの……集落まであとどれくらいですか……?」


歩くのに疲れた怜奈子が恐る恐る質問すると、ニヨルは西を指差す。


「すぐそこだ、もう見えてるぞ」

「えっ?」


指し示す先をよく見ると木々の隙間から木造の建物と焚き火が見えた。


「さあ行こう、客を連れ帰ったらみんな驚くだろうなぁ!」


仲間たちがクリーチやクレナイに驚くのを想像しながら、集落へ向かって再び歩き出した。

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