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068 九予

「そんでこいつどうすんだァ?」


ジェシーが倒した男性を魔法を込めた縄で縛り上げながら周囲の人々に問う。

しかしなにが起こっていたのかを知る由もないエルフの村人や第二世代の地球人はなにも反応しない。


「とりあえず目を覚まさせてから村を襲った理由を聞こう、それで喋らなかったら――」

「姉貴、あれ」


陽美の言葉を遮った燈一が指差す方には、こちらに向かって歩いて来る深編笠を被った虚無僧のような者とそれに拳銃を突きつける伊作の姿。

クリーチに乗っているクレナイも背中からサマンサの腕を出している様子から警戒しているのが分かる。


「えっ、誰ですかそのあからさまに怪しい人」

「さあ?分かりません、ただ僕達に教えておきたいことがあるとかで」

「だからって分からない人を連れてきちゃ駄目でしょ……」

「僕やクレナイさんでは捕らえられないほど素早い人なのでどうしようもありませんよ、合意の上で武器を向けてますし別にいいでしょう?」


伊作の知る限りこの虚無僧のような人物は非常に素早く動き、サマンサがかなり接近されてやっと存在に気づくということ。

下手に敵対して強引に突破されるよりは近くにいた方が良いと考えた。


「ところで大林さん、傍に来てこの人が僕達に危害を加えないか見張って欲しいんですが」

「あぁん?なーんでこのエリート様がそんなことせにゃならんのじゃコラぁん?」

「やってくれたらお酒を――」

「承ったぁッ!」


現状この村で最も素早く動くことができ、虚無僧のような者に対抗できる可能性があるのは大林のみ。


(燈一も能力を使えば戦えるかもしれんが、銃が効かない可能性もあるからな)


大林が手の届く距離で酒を飲み始めてから改めて会話を行う。


「さて、それじゃあまずなにから聞きましょうかね」

「我は九予くよ、清掃団の者だ」


伊作が質問をするよりも先に九予と名乗った者が勝手に語り始め、縛り上げた男性に近づく。


「こやつは”深淵狩りの会”と名乗る輩の一員、深淵狩りの会は各地でおぬしら深淵の者……つまり地球人に加えて一部の異世界人の殺害を行っている」

「はぁ?」

「どういうこと?」


突然語りだしたその内容はこの場にいる地球人はもちろん異世界人も理解が追いつかない。

しかし九予は気にせず話を続ける。


「そして我ら清掃団は深淵狩りの会を皆殺しにすることが目的だ」

「あのぅ、ちょっといいですかね?」


陽美が手を上げると、九予は頭が笠で見えないため手で「どうぞ」という仕草をする。


「えっとまず……その深淵狩りの会?とやらはなんで地球人を狙うんですか?」

「おぬしらがそれを知る必要はない、そして我の一存で教えられることでもない」

「ええー……じゃあ清掃団って人たちが深淵狩りの会を狙う理由は?」

「それも知る必要はなく、教えることもできない」


その曖昧な説明で納得できる者は多くないので、当然人々は――特に襲われて怪我をした人――は不満そうな表情を見せた。

一方で話の内容にさして興味が沸かず、話を早く終わらせたい伊作が質問をする。


「他になにか教えてくれることはあります?」

「まず深淵狩りの会の多くは湾曲した爪のような小型の刃物を持っている、そして4本の青い線と1本の赤い線、つまり5本線の印が象徴だがこれは身に着けていることが少ない」


(5本線……あのジジイの記憶で見たアレか?)


「先ほど言った通り特定の異世界人と地球人は例外なく殺すつもりの連中だ、用心したほうが良いだろう」


伊作は今までの経験から九予が話す情報にはある程度の信憑性があると感じる。


「なるほど、わざわざ警告するために拳銃を付きつけられてくれたんですね」

「いいや、見返りは要求させてもらうぞ」

「というと?」

「この男を引き渡して貰う」


九予は縛り上げられている男性を指差してそう言った。

今までの話から九予は清掃団という組織に所属し、清掃団は深淵狩りの会に所属する彼を殺害しようとしていることが分かる。


「そんなことですか、別にいいですよ」


拷問してまで引き出したい情報があるわけでもないのに敵意を持つ者を捕らえたままにしていてもメリットはない。

むしろ食い扶持が増える上に見張りを付ける必要もあるので、生かしておくのはデメリットになる。


「みなさんもいいですよね?」


伊作は当然同意を得られると思って周囲の人々を見ると、ほとんどの者は苦い顔をしてはいるがなにも言わないので少なくとも反対ではないのだろうと思う。

だが村人のエルフ数人に加え、ジェシーとゲルルフが真剣な顔で一歩前に出た。


「おいおィ……てめェ自分がなに言ってんのか分かってんのかァ?」

「貴公、その者を引き渡すということはつまりだな……」

「この人が九予さんに殺されるって事でしょう?別にいいじゃないですか、不安の芽を摘んでもらえるんですからむしろ得では?」

「てめェ――」


ジェシーが伊作に近づこうとした瞬間。

九予が非常に素早く滑らかに、音を立てることなく小刀を鞘から抜いて縛られている男性の首に刺した。


「ぁ……」


男性から小刀を引き抜くが喉から僅かな息が漏れるのみで、彼はとても静かに絶命。

そして片合掌をしながら小刀の血を拭うことなく鞘に収めた。


「要求を変更する、この死体の処理をさせてもらうぞ」


九予は誰の返事も待たずに縄を掴み、男性の死体を引き摺って行く。


「お、おい大林ィ!なんで止めなかったんだよォ!?」

「んぇえ?あの男も僕達に入ってたのかぁ~?だったら最初に言えよぉ~!これだからガキはよぉ~!?」


目の前で人が死んだというのに大林は一切気にすることなく悪態をつきながら酒を飲む。

村がとても暗い雰囲気に包まれる中、伊作は九予を追いかけた。


「九予さん、図々しいとは思いますがついでにあっちの死体もお願いしてもいいですかね?」


そう言って指差すのは伊作が殺害したアナの死体。


「構わないぞ」

「ありがとうございます、じゃあ手伝わせてもらいますね」


アナの死体は遠くにあるので手伝うために男性の死体を持とうとするが九予は「必要ない」と言って断った。

体格からして明らかに伊作よりも腕力があるようには見えないが、軽々と死体を引き摺る様子から異世界人特有の見た目には現れない力があると分かる。


「そういえば異世界人のあなたに聞きたいことが、強力な武器の攻撃とただの刃物の攻撃が当たったのに……あれ?」

「どうした?」


アナの死体らしき者の姿が変わっていた。

伊作が殺害した時は獣人女性だったはずが、今は普通の人間の姿になっている。

そのことを説明すると九予は「なるほど」と納得したような声を出す。


「そうだな……なぜ姿が変化したのか知りたければ取引をしないか?」


(別にそこまで知りたくはないんだが)


「どんな取引です?」

「詳しい話は後にするが、もしこちらの条件を受け入れるのであればあらゆる質問に答えると約束しよう」


(約束なんて目に見えないもの信用するつもりはないが……銃がほとんど効かない奴のことは知っておきたい)


「分かりました、では後ほど話をしましょう」


後で落ち合う場所を話し合った後、九予が二つの死体を引き摺って行く姿を見送った。


(取引ってのはちょいと面倒だ……けどなんにしてもこれでようやくエルフ村の先、未知の領域に進めるな)

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