003 びっくり
伊作の混乱をよそに馬は走り出した。
駆ける馬が出す足音に伊作だけでなくカエルのようなモンスターも気づくが、その頃には騎士のような者が持っている長い槍でモンスターが貫かれていた。
(なんだあいつ……あれも危ないヤツなのか?)
鎧を着せた馬に跨る騎士がモンスターから槍を引き抜く。
馬から走って逃げることはできないため、どこか遮蔽物を乗り越えて逃げようと思っていた伊作に騎士が近づき声をかける。
「貴公は……深淵の者か?」
「はい?」
男性の声。
馬上から声をかけてきた騎士のような者は少し警戒するように問いかける。
伊作は話が通じる相手であることに驚き、同時に不信感を抱く。
「えーっと……僕は――」
「いや、そうであったとすれば答えられまい」
(なに一人で喋ってるんだこの人)
「意味がわからないのですが、さっきの怪物は?ここにあった病院はどこへ?というかあなたは?」
「あれはムーンビースト」
鎧の者は刺し殺したモンスターを槍で指しながらムーンビーストと呼び、続いて伊作が歩いて来た方を指す。
「あちらにはグールの亡骸があったな」
(俺が殺したヤツのことか?)
「ますます意味が分からないのですが、もっと詳しくお話できますか?」
「すまないが接触は禁じられている、言葉を交わすことすら好ましくないのだ、故にしてやれることはないが……しばらくはどこかに身を隠せ、そして黄色い狼煙を見たら向かうと良いだろう」
「狼煙?」
「安全と幸運を君に、さらばだ」
「ええ?ちょっと!」
それだけ言い残して騎士のような者は馬で去って行った。
呆然とその姿を見送った後に再び歩き出し、当てもなく辺りを観察しながら道を進むと中学校が目に入った。
(凶器を持った部外者が中学校に侵入なんて警察沙汰だな、まあどうせ警察は来ないんだろうが)
門は開きっぱなしであり昇降口も開いていたので簡単に侵入できた。
(保健室はたぶん一階のどこかだよな)
土足のまま校内を散策するとすぐに保健室を発見できたので勝手に入る。
ガーゼに水を染みこませて傷口を綺麗に拭く。
「いってぇなぁ……」
脇腹の皮膚に三本の短い傷が走っている。
幸いにもあまり深く傷ついてはいないので大きめの絆創膏を貼るだけに留める。
(化膿とかしないだろうな?)
不安があるため定期的に洗って絆創膏を取り替えようと考えて新品の絆創膏の箱を手に取ってポケットに入れる。
「あ?」
ポケットの中に入れた覚えのない紙が入っているのに気づく。
それを引っ張り出して広げてみると、そこにはこう書いてあった。
「”寄す処の郷”?」
およそティッシュ一枚くらいの大きさの紙にはただそれだけが書かれており、それ以外にはなにもない。
奇妙なものには度々出会ったが、害がなくどこかへ行くこともない物なのでよく調べてみようと思った時、足音が聞えた。
(これは靴の音だが……人なのか?)
少なくとも怪物や甲冑の音ではないので、もしかしたら人かもしれないと思った伊作はベッドの裏に隠れながら様子を見ることにした。
足音が近づいてくることに警戒した伊作は剣を強く握る。
やがでその足音は保健室の前で止まり、少し経ってから保健室の扉が勢い良く大きな音をたてて開いた。
「そこにいるのはわかってるぞ、おとなしく出てきなさーい」
独り言のように喋りながら何者かが入室。
(なぜバレたんだ?)
少なくとも会話ができそうな相手だと判断した伊作は言われた通り姿を現す。
「僕は怪しい者ではありません……いや怪しいか」
そこに立っていたのはグルカナイフを持った制服姿の少女であり、その少女は伊作を見てとても驚いた。
「うわっ!ほんとにいた!?」