021 デッドアイ
翼の生えた大蛇を見た燈一は声を上げて全員に警告する。
「敵襲!」
そして声を上げると同時に能力を発動した。
(よし、発動できた)
燈一が自分の能力を発動したその瞬間、辺りに何かが起こったわけではない。
ただ燈一は目の前で起こっている全ての事象がスローモーションに見えている。
(さてどうしたもんかな……)
視界に入る限り燈一の警告に反応できているのはアンゲーリカと伊作だけ。
アンゲーリカは警告を聞くなりすぐクレナイの手を引いて動きつつ周囲を見ているが、伊作は警告を聞いても動くより先に敵を見つけようとしている。
一番近くにいて全く反応できていないダーグルを優先することに決める。
「のおっ!?」
燈一はダーグルの服を掴んで引っ張ると同時に握っている拳銃の撃鉄を起こす。
(あの蛇が狙ってるのはなんだ?)
大蛇を観察してじっくり考える。
(あの先にあるのは……馬?あのモンスター馬を襲う気か!)
馬車に乗っているアンゲーリカとクレナイは動いているが、ソリを外している最中だったコレットと敵襲と聞いても頭上に敵がいるとは想像できず横方向を見ている伊作に大蛇の攻撃の被害が出る可能性があった。
(ああもう体の動きが遅い、夢の中で上手く走れないのと似たこの感じ嫌い)
時間が遅くなったわけでもなければ、燈一が加速したわけでもない。
ただ燈一は一瞬の出来事を数十秒にも思えるほどに時を緩やかに感じられるだけなので、体の動きが早くなったりもしない。
(あの巨体に拳銃弾なんて豆鉄砲は効かなそうだしどこ狙うか……って考えるまでもないか)
燈一は大蛇の眼球に照準を合わせ、引き金を絞る。
(人間だって目を虫に刺されたら痛いだろうし、あれは爬虫類か鳥類だろうからわからんけど)
パァン!
燈一の体に拳銃を撃った感覚がゆっくりと伝わる。
(反動はそんなにないけど引き金が重過ぎる、俺の指じゃあ相当近くないとダブルアクションで当てるのは無理だな)
パァン!パァン!
伊作と違って銃器に関する知識が多少ある燈一はしっかり撃鉄を起こしてから発砲することに加え、目標が巨大であることから3発全てが大蛇に命中する。
「ア”アアアァァァァァァ!」
銃撃を受けた大蛇は痛みで悲鳴を上げながら軌道を逸らし、馬に攻撃する前に空へ逃げた。
(ヘビって鳴くのか……いやあれはヘビみたいな外見をしてるだけのモンスターだもんな)
一方で伊作は大きな悲鳴と目の前を通って離れて行く大蛇を見て初めて敵を理解する。
(空飛ぶヘビとはこれまたとんでもねぇのがいるもんだ)
「ヒヒィィィン!」
大蛇の悲鳴に驚いた馬が驚いて走り出してしまった。
一頭が走り出すと馬車で繋がっているもう一頭も走らざるおえなくなり、さらに危機を感じたアンゲーリカとそれに連れられたクレナイが馬車から降りていたことで手綱を握れる者がいなくなった馬車は全員を残したまま走り去った。
「うそ!?まってよ!フーゴ!ヤン!」
コレットが呼び止めるも二頭の馬は止まらず走り去り、とても足で追いつくことはできない。
「あっち側の森に逃げるわよ!走って!」
「走って逃げ切れる相手じゃないでしょうあれは」
来た街の方へ戻るよりは近いが、それでも人間の足ではかなりの距離。
コレットの提案は現実的でないと思ったが、コレットが黙って指した方向を見ると大蛇が目標を逃げた馬に切り替えているのがわかった。
「なるほど」
馬が囮になっている隙に走れば辿り着ける可能性があり、馬二頭で大蛇が満腹になって帰ってくれる可能性もある。
それを理解した全員は森へ向かって走る。
「フーゴ……ヤン……ごめんなさい!」
(あのヘビぶっ殺したらどんな物が手に入るんだろう)
馬たちに謝罪の言葉を呟きながら走るコレットと邪なことを考える伊作は位置関係的に一番森に近く、アンゲーリカとクレナイが一番森から遠い。
「はぁ!はぁっ……!」
体力がほとんど残っていないアンゲーリカはいつのまにかクレナイの手を引く側から引かれる側になっていた。
(マズい……中途半端に回復してた魔力が持ってかれてる……)
「クレナイちゃん、先に行って!」
「断る」
意外な言葉に驚き、自分の手を引くクレナイを見た時。
向こう側に攻撃的な表情でノコギリを持って走ってくる伊作を見て、自分たちのすぐ後ろに大蛇が迫ってきているのを理解した。
数秒も経たないうちに大蛇の巨大な影がアンゲーリカとクレナイを照らす日光を遮り、大蛇が至近距離にいるのを実感する。
(逃げられない……腕を使うしかな――)
「ア”ア”アアアアアァァァ!」
後方から再び悲鳴が聞えて振り向くと、顔面から血を流して逃げてゆく大蛇が見えた。
「なにが起こったんだ……?」
なにが起こったにせよ危険が離れて行った隙に全員は森へ逃げ込んだ。
「これだけ木が密集していればあの巨体はそう簡単に追ってこれないでしょうね」
とりあえず危機は去り、全員が乱れた呼吸を整えて休む。
「大丈夫か燈一?」
「ぜぇぜぇ……ちょ、いま……しゃべれないからっ……」
体が衰えている燈一は喋るのもつらい状態だったためダーグルに寄りかかって休み、ある程度喋れるくらいに落ち着いたところでダーグルに耳打ちをする。
「あのクレナイって子……あまり近づかない方がいい……」
「突然どうした?なぜ近づかないほうがいいんじゃ?」
あの場にいた者で起こったことを見ることができたのは離れた距離にいて全体を見渡せ、なおかつ緩やかな視界を持っている燈一だけだった。
「ヘビをぶん殴ったんだよ……あの子から出てきた化け物が……」




