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002 グール

「あ、ああ……?」


伊作が目を覚ましたのは車道の真ん中。

体に痛みはなく、頭もはっきりとしている。


(さっきのは夢か?妙にリアルだったが……)


奇妙な体験に困惑しつつも周囲を見回すとすぐ後ろに横転したバスがあった。

そこで伊作はバスの中で正体不明の何かを見た後バスが大きく傾いたことを思い出す。


(なんで俺は道路で寝てたんだ?バスから投げ出されたのか?)


バスから燃料が漏れていないことを確認してから車窓を覗く。


「誰かいませんかー!?」


何度か大声で呼びかけるが返事はなく、返事ができない状況の者も見当たらない。

他の乗客は逃げたのか、しかしこの規模の事故で救急も消防も警察も来ていないことがあるのかという疑問を抱く。


「誰かいませっ――ってなんだこりゃ……」


バスをよく見ると巨大な爪痕のような痕が残っており、さらにアスファルトに広がるまだ乾いていない新鮮な血液が確認できた。

携帯電話を取り出して通報しようとしたが、どこにも繋がらず電波もなければネットにも繋がらない状態だった。

腕時計を見て時間を確認する。


(8時30分、バスに乗った時間を考えると事故からそれほど経ってない)


とりあえず学校へ向かって歩き、道中で公衆電話か人を探す。


(なんで誰もいないんだよ……なんだあれ?)


伊作が注目したのは歩道の脇に落ちている金属。

近づいて確認するとそれはボロボロのロングソードとそれを握る篭手ガントレットだった。


「なんでこんなものが……は!?」


ガントレットを手に取った時に気づく。


(これ……中身入ってやがる……)


篭手の中にはまだ少し水気が残っている手が入っており、なぜこんなものが歩道に落ちているのかという疑問を抱いた時だった。

伊作の前方に動く何かがいた。


(犬?猪?)


最初はなんの生物なのか分からなかったが、すぐにその全身をしっかりと見ることができる距離になった。

それの体長はおよそ140センチ、頭部は犬のような形で全身がゴムのような質感をしている。

ひづめのようになっている足先、短めの鋭い爪がある両手を地面につけて猿のように歩いている。


「グールルルゥ……」


その初めてみる異様な生物に恐怖を抱いた伊作は手元にあるガントレットが握るロングソードをゆっくりと手に取る。


「えーっと、僕の言葉分かりますか?」

「グルァァァァァ!」


明らかに好意的ではない返答を聞いた伊作は逃げようとしたが、走ってくるそのモンスターの速度を見て自分の足では逃げ切れないと判断した。

まず最初は大きく息を吸って可能な限り大声を出す。


「すぅーッ……うおおおおおおおああああああ!」

「グルアアアアアアアア!」


威嚇のつもりだったが、モンスターは全く気にすることなく伊作へ向かって一直線に走る。


(来るな来るなくるんじゃねぇ!)


今起きているあらゆることを理解できない状況の中で、唯一理解できているのは相手が言葉の通じない存在だということ。

頭を整理する暇もなくモンスターがロングソードの届く距離に入る。


「おらァ!」


ロングソードの柄と刀身の根元を持ち、モンスターの頭を目掛けて剣先を思い切り突き出す。


ガリッ!


「グァッ!」

「うおっ!?」


剣の先端は確かにモンスターの頭部を捉えていた。

しかしその朽ちた刃はモンスターの硬い頭蓋を通ることができなかった。

頭皮を僅かに裂き、骨に弾かれて鈍い音を出すだけ。

多少のダメージは全く気にしないモンスターは伊作を押し倒し、首元を目掛けて大きく口を開く。


「くっそォァ!」


ロングソードの柄を持つ手を前に突き出してガードをモンスターの口に突っ込む。


「グルァッ!ガルァ!」


(あァ?こいつ)


鋭い爪のある手は刀身を掴み、鍔を咥えたまま噛み付こうとしている姿を見た伊作はこのモンスターのことを理解する。

まず頭が悪いこと、そして筋力は伊作よりも弱いこと。


「オラァ!」


思い切り押しながら体を捻る。


(見た目にビビっちまってたが、体重だって俺より軽い!)


全力で左側へ押すとモンスターは簡単に体勢を崩され、伊作はマウントポジションを取る。

咥えられているロングソードを取り返せないので、逆にロングソードに体重をかけて押し込む。


「グルアェッ!」


モンスターは鍔で喉奥を刺激させ反射的に口を開けた。

ロングソードを取り返した伊作は迷うことなく即座に鍔で眼球を突く。


「グギヤャャ!」

「い”っ!」


眼球を潰させらモンスターは悶絶して暴れ、その結果モンスターの爪が伊作の脇腹に刺さる。

慌ててモンスターから離れ、すぐにロングソードの刀身を握ってモンスターを攻撃する。


「しっ!おらっ!」

「ギャッ!グギャッ!」


モンスターが体勢を整える暇を与えないために、ロングソードをハンマーのようにして何度も振り下ろす。

次第にモンスターはもがくのをやめ、僅かに体が動くだけになった所で剣先をモンスターの胴体の真ん中に突き立てた。


「はぁはぁ……これはいったいなんなんだ……いてぇ……」


完全に動かなくなったモンスターを見ても安心はできなかった。

数秒倒れているモンスターの死体を見ていると、死体から赤黒いドライアイスの煙のようなものが湧き出て消えた。

そして次の瞬間、伊作の体に赤黒い煙が流れ込む。


「うおっ!?なんだ!?」


その現象はすぐに終わり体にはなんの異常もなく、むしろ謎の爽快感がある。

しかし困惑と恐怖と痛みで冷静になれない伊作はしばらくその場で深呼吸を繰り返し、少しだけ落ち着きを取り戻す。

伊作はモンスターの死体に刺さったままのロングソードを引き抜きすぐにその場を離れる。


(傷は痛いが普通に動ける程度だ、とりあえずどこかで傷を洗おう)


先ほど殺したモンスターは非常に強い悪臭を放っており、そのため不衛生な印象を抱いた伊作はすぐに洗わないと何かしらの感染症になるのではないかと考えた。

それは冷静でない状態の伊作がとにかくなにかをして落ち着きたいという思いから出てきた目的。


(そういえば学校行く途中に病院あったな)


とりあえず逃げ込めそうな施設を思い出し、道を歩く。

道中はまったく人に出会うことはなかったが、そんなことが気にならないほど奇妙な光景を目にする。


(なぜか人が見当たらず、なぜか落ちている武具、謎の生物ときてお次はこれか)


伊作の記憶では病院と駐車場が存在していた場所には、緑豊かな森が取って付けたように広がっていた。

状況を理解できずただぼーっと森を眺めていると、右側に新たなモンスターがいるのに気づく。


(あれは……カエル?)


体長2メートルほどの大きさがあるヒキガエルのような体型、灰色の肌、顔面にはピンク色の短い触手が蠢いている。

そのあまりにも不気味で生理的嫌悪感を抱かせるそれがゆっくり歩いていた。


(カエルは触れるがアレは駄目だ、逃げ――)


気づかれないうちに逃げようとした時、左側から聞き慣れない音が聞えて振り向く。

伊作が歩いて来た方向に馬とそれに乗る西洋の鎧を身に着けている騎士のような者がいた。


(次から次へと意味わかんねぇぞクソが)

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[一言] 拷問蛙えぇ......。
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