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あの感動は、誰のもの?



『もらって嬉しい贈り物。』





そんなキャッチコピーに触れたら、ふと想い出した。

ものすごく、ものすごく嬉しかった贈り物のことを。




私が中学1年の時だから、もうかなり遠い昔の事。

私は、社会科の先生が大好きだった。

クラブ活動の顧問でもあり、よくその先生とは話をした。

先生は当時28。奥様がいた。

その頃の15の歳の差は大きかったなぁ。

ものすごく大人にみえたっけ。

今想い出すと、先生はけっして男前ではなかった。

なぜ好きになったのか、今は想い出せない。なんでだろう?

だけど、とにかく好きだった。

同じクラスに小学校の6年間ずっと好きだった男の子がいたのだが、いつの間にか私の中の特等席はその先生に入れ替わっていた。

気がついたら好きだったのだ。

その頃の恋とはそういうものかもしれない。


そんな私が、何かのはずみで先生とある約束をすることになった。

1学年の間、社会のテストで90点以上をとり続けたら先生がご褒美をくれるというのだ。

そんな事が他の生徒や先生にバレたら大変な事になっていたろうが、上手い事誰にもばれずに私達だけの秘密を持つ事が出来た。



それからの私は、とにかく猛勉強した。

ただひとり先生に認めてもらいたいために。

何かは知らされていない、魅惑のご褒美を先生からもらうために。


11月に入り、テストもあと数回になった。


あと数回。これを乗り切ればご褒美がもらえる。という時に、私は病気で2ヶ月近くも入院をしてしまった。

もうダメだ。。。そう思うだけで、涙が出て止まらなかった。

案の定、約束は守れなかった。


落ち込んで目もあわせられない私の肩を、先生が叩いた。




「・・・仕方がないな。でも良く頑張ったから、これをお前にやるよ。特別だぞ。」




そう言って、色褪せた8冊の文庫本を私に手渡した。岩波文庫の海外の長篇小説だった。




「オレが大学の頃読んで、感動した本だ。これをお前にやるから、大切に読めよ。」




嬉しかった。もう羽根が生えて飛んでしまうかと思うくらい嬉しかった。

正直、『ああ無情』のような路線の話を8冊に渡って読むのはしんどかったが。(苦笑)

それでも必死に読んだ。

ようやく8冊目を読み終え、何気なくあとがきに目を通していると、一番最後のページに鉛筆でなにやら書き込んであるのを見つけた。

ドキドキしながら、その文字を指でなぞりながら読んでみる。



 『昭和○○年、暮秋。

    この感動を、貴女に贈る。』


複雑な気持ちだった。

子供な私にでも、そこに書かれた名が奥様の名前である事は察しがついた。

よせばいいのに、後日「あれって奥さんの名前?」って茶化すように聞いて、「そうだ」と言われてしまった。バカだなー。


今、先生と同じような年齢になって、まっ先に考えてしまうのは、



(あの本は奥様に贈ったらしきものなのに、それを教え子にあげたりして、もめたりしなかったのだろうか?)



と言う事だ。

私だったら・・・やっぱり、嫌だよな〜。

そんな角度で考えてしまうのは、私が歳をとったということなのかしらねぇ。


でもやっぱりなんだかんだ言っても、あの本は私にとって忘れられない贈り物ですよ。

ねっ、先生!



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