鞄の中から
20歳の頃、密かに好きだった人と二人だけでお食事のチャンス!
もう、内心ドキドキしながら、一生懸命お洒落をしていそいそと待ち合わせの場所へ。
約束の時間に、指定の書店へ入るともうすでに彼は来ていた。
すらりと背の高い彼は、沢山の本を読む人達より、頭ひとつ出ていた。
雑誌を手にする彼の後ろ姿に妙な違和感。
なんだか、小旅行にでも行ってきたかのような黒い大きなトートバックを肩から下げていたせいだった。
その姿がちょっと不自然だったが、彼はまだ大学生だったのできっと色々と必要なものが入っているのだろうとすぐに思い直した。
そして、私に気付いて振り返った瞬間の、あの優しげな笑顔にすぐに有頂天になって、バックの事など一瞬で忘れた。
「おいしいお店があるんですよ」
と連れて行かれたこそは、食堂に毛が生えたようなこ汚いお店・・・。
でも、その店のおばちゃんが感じよくて、出てきた焼き魚定食もおいしくて、なにより憧れの人とお食事できるだけで最高だったの。 (若かったなぁ)
すると突然、彼が照れくさそうに
「プレゼントがあるんですよ。」
と大きなバックに手を入れてそこから取り出したものは
なんと、黄色いチューリップの花束。
嬉しいのより先に、『なんで花束をバックの中に入れていたの〜?!』っていう思いが私の中ではぐるぐる。
それでも、彼が好きっていう気持ちがあるうちは 『大好きな人から花束もらった=これは脈あり?』 ってひとり勝手に喜んでいたけど。(苦笑)
彼と自然に連絡をとらなくなってから、風の噂で聞いた話。
実は彼はずっと好きだった人の車のフロントグラスに毎日バラの花を一輪、 こっそりおいていたらしいとのこと。
結局、その人は「花を贈れば自分になびく」という方程式がずっと前から出来上がっていた、ということだったのね要するに。 (その彼女にはストーカーと思われていたらしい。)
心ときめいていた自分がおかしいやら、哀しいやら。
そんな昨日の黄色いチューリップのお話。