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8章 美女を30人ほど用意しました、あの子を諦めてもらえませんか

前回のあらすじ

ヘルガはリクと一緒にいたいそうです。

 ヘルガと一緒に空中散歩をしてきた。サキュバスの翼というのは大したもので、人間一人くらい問題なく運べるらしい。

 ヘルガに抱き着いたまま上空を飛んでいたオレは夜景を楽しみにしていたが、町にほとんど明かりはなく、月明かりのほうが眩しいくらいだった。この暗さもいいものだけど、けばけばしいイルミネーションが懐かしくなるのは贅沢ってものだ。


 二人での夜空の散歩を楽しんだが、すぐに切り上げて町長の屋敷へ戻った。そもそもオレもヘルガも決闘してへとへとなんだ。

 使用人が起きてきて部屋を案内してくれたので、ヘルガを部屋に連れて行った。あとは、使用人に頼もう。オレが着替えさせるのはあとでヘルガが恥ずかしがるだろうしな。

 

 ヘルガを部屋まで見送った後、書斎から出てきた町長に話かけれらた。


「少しよろしいですか、リク様」


 気が重いが、町長と話を詰めておく必要がある。頷くと、先ほどの広間へ案内され、町長手ずからお茶を入れてくれた。豊潤な香りの甘みを感じるお茶だった。

あまり詳しくないが、ハーブティーのようだ。


「このお茶なんだか落ち着く」

「良かったです」


 町長が嬉しそうに笑った。一流の人は笑顔で人を安心させると言う。

 いい笑顔のオヤジなので思わず気を許しそうになる。

 ただ、気を許してはいけない。

 なんたって町長からしたらオレは、「娘みたいに可愛がっていた女の子を婚約者がいるにも関わらず強引に奪ったヤツ」だもんな。


「さて、リク様をこのベケットの町に迎え入れるにあたって事務的な話をさせてほしいのです」

「なんだ、監視の件はヘルガが担当するってことで落ち着いただろう。ヘルガが忙しいときは、冒険者ギルドから他の奴が来ればいい」


 町長は呆れた様子で、オレをにらみつける。


「本当に、抜け目がない人ですね、リク様。監視役をモノにするなんてとんでもない悪党ですよ。表向き監視役となっているヘルガを側に仕えさせることで、我々の監視から外れることが出来ますからねえ」

「……ヘルガは優秀だからな。公私混同せずにちゃんと報告すると思うぞ」

「ヘルガのあんな嬉しそうな顔初めて見ましたからね。あの子が惚れたあなたを裏切って私や冒険者ギルドに報告できるはずがない。かといって、ウソの報告もできないんでしょうけど。腹芸なんてできるタイプじゃありませんからね、あの子」

「まあ、そんな器用なタイプじゃないのはわかるけど、ヘルガのいいところじゃないか」

「そうですね。みんなリク様みたいな油断できないタイプだったら嫌ですし」

「嫌ってなんだよ」

「ハハハ」


 きっと不器用でまっすぐな子だから、町長は気にかけてたんだろう。


「では、表立っての監視は諦めます。『大事』であればヘルガの顔を見ればわかります。あの子はウソをつくのは苦手ですから。では、リク様。この話し合いのメインイベントであります子爵家との縁談について話を詰めましょうか。嫌とは言わせませんぞ。」


 町長が詰め寄ってくる。ウーン、気迫がすごい。大事なヘルガのためでもあるからな。町長と話をつけておくべきだろう。

 子爵家と戦闘にでもなりそれがヘルガの耳に入ったとしたら、ヘルガは自分さえ我慢して子爵家に嫁げば、と考えてしまうだろう。それはオレが許さない。


「まずは、縁談を解消するか、しないかですが。リク様。そそられる美女を30人ほど用意しましたから、ヘルガのことを自由にしてやる気持ちはないですか。おい、お前たち!」


 どこから用意したのか、半裸の女性が30人出てきた。


「リク様―、こっち向いてー」

「私を抱いてー、リク様―」


 30人の半裸美女たちがくねくねとしなを作って誘惑してくる。

 ふん、オレは淫魔サキュバスの誘惑にも耐えた男だぞ。

 それぐらいに反応するかと言いたいところだが、若干反応している。

 オレも男なんだししょうがないじゃないか。

 

 【収まれ、息子!】すっと収まった。ふん、誘惑に負けるものか。


「残念だが、ヘルガはオレのものにさせてもらう。別に奴隷にするわけじゃない。少なくともヘルガには幸せになってもらいたい」

「……そうですか。それでは、縁談を断る方向で進めましょうか。おい、お前たち、もういいぞ。謝礼はきちんと支払ってやる。もう帰れ」

「「「はーい。」」」


 半裸女性たちはぶつぶつ文句を言いつつ帰っていった。


「もともと、ヘルガのためにはリク様みたいな人と一緒になるのがいいと思ってるんですよ。武芸家の嫁ならばヘルガは本当にいい嫁になると思います。でも、ヘルガは貴族の生まれではありますが、長いことスラムで冒険者として暮らしていますからね。貴族の妻には向いていないんじゃないかと思っていたんです。貴族の妻ともなれば、政治的なことを求められますからね。社交界でのパーティーなどあの子がうまく立ち回れるのかと」

「町長、ヘルガがオレについていくのは反対なんじゃないのか」

「反対したい理由は、仕事上での、政治の上でのことですよ。子爵家を敵に回しかねない。……婚約者を奪われたなんて面目丸つぶれですからね。でもね、この町にとっての政治的な課題を作ってでも、あの子の笑顔が見たいと思ってしまっただけですよ」


 町長も覚悟を決めたようだ。


「よし、踏ん切りがついたようだな」

「ええ」

「つぶすか、子爵家」

「ええ?短絡的ですよ!そんなことしたらミア様のお父上伯爵様にご迷惑が掛かります。」

「でも、どうするんだ?というか、決闘に負けたから奴隷になりました、じゃダメなの?」

「リク様が構わないのであれば、それでも止めはしませんが。魔族の疑いをかけられた男に婚約者が奴隷にされてると知ったら子爵家の息子さんはどうしますかね」

「そりゃあ、軍隊率いて討伐してくるな」

「そうでしょう?」


 うーん。どうしようか。


「子爵にヘルガに幻滅させて向こうから縁談を壊すように仕向けるしかありませんかね」

「そんなにうまくいくのか?どうするんだ?」

「魔族化させたヘルガを見せる、これしかありませんかね」


 貴族が魔族を血縁に迎えることに抵抗があるなら、うまくいきそうではある。


「……問題が二つあるな」

「何でしょう?」

「子爵家の子息が魔族化したヘルガに危害を加える可能性」

「そこは、そうでしょうな。警戒する必要があるでしょう。貴族っていうのは血に誇りを持っておりますゆえ、魔族と血縁関係を結ぶことが許せないという方もいるでしょうから。」

「もう一つ。魔族化したヘルガを見た子爵の息子が、それでもかまわない結婚してくれって言ったらどうするの?」

「そうなれば縁談が成立してしまいますな。リク様。諦めてくだされ」


 ヘルガを認めてくれる人が、オレの他にいるなら。

 オレは身を引けるのだろうか。


 ……嫌だな。


「却下だ。ヘルガはオレのものだ、決闘に勝ったからな。嫌だって言ったってオレのものだ」


 子供みたいに強情を張る。


「はいはい。では、あと一つお願いを聞いていただけますか?これは、町の防衛のためのことです。リク様は怒られるかもしれません。ただ、これはリク様のためでもあるのです」

「どういうことだ?」

「……さきほどの決闘を引き分けだったことにしていただきたいのです」

「それは勝敗をうやむやにし、ヘルガをオレにはくれないってことか?」


 そんなことは認めない。ヘルガはもうもらったのだ。


「いえ、そうではありません。結果は結果として当人たち同士では勝敗をつけておいて構いません。ただ、周りの人には引き分けだったと、『健闘したリクをヘルガが認めた。』そういう形にして欲しいのです」


 頭を下げる町長。

 

「お願いです、この町を守るためなんです」

「町長とりあえず顔はあげてよ。でも、どうしてそんなことをする必要があるんだ?」


 町長は土下座から座りなおして語りだした。


「凄腕の冒険者ってのは、存在するだけでその町の平和の象徴なのです。魔族だって、町のギルドマスターの顔と名前くらいは頭に入れていると聞きます。ヘルガが、この町ベケットの象徴なんです。得体のしれないヤツに敗れてしまうとなると……。冒険者の質が高いことで有名なベケットの町の安全神話が揺らいでしまうのです」


 町長がオレを得体のしれないヤツ呼ばわりした。傷ついた。


「ヘルガがオレに、レベル3のオレに敗れたとなると魔族がこの町にちょっかいかけてくるってわけか」

「おそらく。ヘルガが大戦で武功を上げる前は、ちょくちょくちょっかいを出されていたんですよ。最近は魔族もそれこそおとなしくなっておりますが」

「わからない話ではないけどな。ただ、オレのためでもあるっていうのはどういうことだ?」

「それこそ、この町で一番強いともなれば、ひっきりなしに魔物退治に呼ばれますよ。昼夜関係なしにモンスターは出ますからね、町長以下行政ラインと冒険者が一丸となって町の防衛を行っておるわけです。寝る間も惜しんで、ヘルガはギルドマスターの職を務めてくれておりました。一番強い人にはそれこそ義務も共にあるのです。」


 町長は、ヘルガのすばらしさを説いているつもりだろうが、オレからしたら、そんなブラック企業でヘルガを働かせておけない。


「町長その話を飲んでもいい。だが、条件がある。」

「条件とは?」


 少なくとも、オレが仕事から帰ってきたらヘルガには家にいてほしい。

 オレは思いのほか、古めかしい男みたいだ。


リクと町長は政治的な話をしました。

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