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5章 淫魔サキュバス

前回のあらすじ

ヘルガは魔族の力を持っていました。


 ヘルガの背中からは、漆黒の翼が生えていた。


「……ハハッ、魔族はあんたじゃないか、ヘルガ。淫魔サキュバスの娘なんだろ」

「人聞きの悪いことを言うな!父も母も人間だよ。フフ、信じられないだろうけど」

「……先祖帰りですね。何代も前の血縁でも、魔族の血が強く現れることがあるそうです」


 ミアが魔族の先祖帰りについて教えてくれた。魔族化したヘルガを見て、騎士たちが騒いでいる。知らなかったのだろうか。


「フフ、【誘惑】からの【エナジードレイン】は効いただろう?あんたも男なら逆らえるわけないんだ。若い頃は、コントロール出来なくって随分トラブルを起こしたからな。もう立てないだろ」


 ヘルガはオレに近づいた。


「もう、剣も握れないだろう。降参したらどうだ?」


 なるほど、先ほどの意趣返しか。しかし、さっきのオレにも言えることだが、刺せるときにはとどめってのはきっちり刺しておくべきだな。


「残念だったな。お前は勝つためのたった一回のチャンスを棒に振った」


 エナジードレインか。なるほど、魔力にはそんな使い方もあるんだな。

 念には念を入れて、倒させてもらう。少し時間が空いたから、少しだけ魔力は戻っていた。


 【オレの体よ、飛べ!】【ヘルガと距離を取って構えなおせ!】


「な、なぜ飛べる!フフ、しかし、それで体力と魔力を使い果たしたんじゃないのか」

「かもしれないな」


 ご名答。現在、魔力・体力を使い果たした。


「いや、オレはまだ戦えるぜ。かかって来いよ」


 ヘルガには唇を奪われた落とし前はきっちりつけさせてもらう。


「どうした、剣も握れないのか」

「減らず口を!全力で行くぞ!【紅魔爆炎破!】」


 ヘルガが奥義をぶつけてくる。オレも本気で行くとしよう。

 

【この場のみんな、オレに魔力を分けてくれ。ヘルガ以外の全員からエナジードレイン!】

 某有名漫画を思い出してしまった。

 良し!魔力が相当集まったぞ。

【ヘルガの奥義を爆発だけ残してダメージ無効化しろ!】

 爆発を煙幕替わりに利用する。【煙幕を上げ続けろ!】


「な、何が起こってる?」


 と騎士たちが騒ぎだした。

 さて、煙幕も張り終えたしヘルガには、本当のことを伝えておきたいが。


「ヘルガ、オレは魔族ではない」

「どうだか。私と平気で遣り合えるレベル3の人間がいるってほうが信じられないな」

「じゃあ、オレが武闘家ではなく、魔法使いだって聞いたら信じられるか?」

「何を言ってる!あれだけ動ける魔法使いがいるものか!」

「あれはそういう風に動く魔法だ。オレがオレを操作した」

「そんな規格外の魔法あり得ない!冗談もたいがいにしろ」


 結局、人は信じたいものを信じる――ということだな。


「じゃあ、オレの魔法を信じさせてやるよ。お前にキスをしておまえの力を奪ってやる」

「バカな。サキュバスの力を使えるっていうのか」


 【ヘルガの翼をしまえ。】【赤い目も戻せ。】


 急に魔族化から戻って動揺しているヘルガ。

 魔族の疑いってだけで、これほどまでに警戒される国での暮らしは魔族へ先祖帰りした少女にはさぞつらいものがあっただろう。


「これで信じたか。オレは、お前が魔族になっても戻してやる」

「え?どうして……。」


 信じられないといった様子だ。


「先祖帰りってだけで大変なのに、サキュバス化は大変だったな」

「お前に何がわかる!私は、私は」


 ポロポロと涙を流すヘルガ。赤い目になった。


「また、魔族化しちゃった」

「大丈夫、オレがそのたびに戻すから」

「ありが……礼を言うぞ」


 感極まって魔族化するヘルガ。オレはそのたびに人間に戻してやる。

 

「わ、私のせいで、お母様は大変な思いをしていたんだ!私が10歳かそこらのころだったかな。その頃は感情のコントロールなんか出来なかったから。ほんと、ちょっとしたことで魔族化していてたんだ。テストが良くできたねって家庭教師の先生に褒められたんだ。私は嬉しくって、飛び上がって喜んだよ、そしたら……ふふふ、私が無自覚に【誘惑】を使っていたんだろうね、押し倒されて……」


 震えているヘルガを抱き寄せる。


「お母様がちょうど気づいてくれたから、大事には至らなかったんだけど。でもそんなことが1回だけじゃなかったんだ。家庭教師や使用人が私に襲い掛かって……いつもお母さんが気にかけてくれていたから、守ってくれていたんだけど。周りの人たちは、何ていやらしい娘なんだ、サキュバスの親もサキュバスだ、淫売だ、とお母様を罵倒して……いつもいつもそんなんだから、私は男の人と会うのが怖いんだ。また、襲われるんじゃないかって……フフ、でもね。それは全部、私のせいなんだ」


 慰める言葉が出てこない。怖がらせないように、ヘルガをゆっくりと抱きしめる。他人に入ってきてほしくないので煙幕をもう少し出しておく。


「お父様は、いつも罵倒されているお母様をかばいもしなかった。お母様は、私を手放せばいいのにそうしなかった。それで、私とお母様はわずかなお金でこの町へ放り出されたよ。貴族の生まれのお母様だったから、親子二人生きていくだけでどれほど大変だったか……」


 オレはヘルガを見つめる。


「頑張ったんだな」


 頭を撫でてやる。それをゆっくり手で払いのけるヘルガ。


「ふふ。ほどなくしてお母様は亡くなったんだ。体も丈夫なほうじゃなかったから。お母様が亡くなってから、女一人で生きていくには体を売るか、剣を握るかしかなかった」

「それで剣を選んだのか」

「いら立ちをぶつけられるものが欲しかったんだ、剣士になったことは後悔してない。それに、私は女である生き方を選ぶことなんてできないんだ。ふふふ、女として生きるにはどうしても感情が揺さぶられてしまう。何も感じなくなるしか、私の生きる道など無かった。戦いの場に身を置いていれば嫌なことも忘れられるしな。フフ、感情を抑えることはもう出来るようになった。感情さえ抑えていれば魔族化することもないんだ」


 ヘルガは抱きしめられていた手を振りほどく。


「それで、男みたいな口調なのか。さっき、お母さんの話をしていた時はしっかりお前の言葉で話していると思ったぞ。感情を抑えていると言うが、なにも感じないようにしてるだけなんじゃないのか」

「……そんなとこはない」

「そうか、ヘルガ似合わないんだよな。男っぽく振舞うの」

「お前に何がわかるんだ!」


 真っ赤な目。翼もはためいている。


「ほら、感情のコントロール出来てないだろ」

「お前が怒らせるからだろう!」

「お前じゃない。リクって名前がある」

「……リク」

「どうしたヘルガ」

「私の目、真っ赤な目のまんまじゃない。早く戻してよ」


 ヘルガの目を見つめる。


「きれいな目だな」

「な、何」

「そう思っただけ」

「自分で良く見たことないから、そんなこと言われても困る」

「今、怒ってる?」

「そんなことないよ」

「じゃあ、何で目が赤いの?」


 目だけじゃなく顔も真っ赤だけどな。


「……知らない」


 オレはヘルガを抱きしめる。


「ほら、目を戻さないから誘惑されちゃったじゃない」


 左手でヘルガの髪を撫で、右手をヘルガのほほに添えた。

 ヘルガの髪色と翼を元に戻した。


「……なんてタイミングで元に戻すのよ」

「誘惑されたわけじゃないよって伝えたいから」

「……ばか」


 そっと、キスをした。唇からヘルガの体温を感じた。ずっとこのままでもいいけど試合中なんだよな。 他から様子は見えなくするために煙幕を上げているが、さすがに怪しまれそうだ。


 ヘルガがオレを見つめる。微笑みを浮かべ、剣を拾い、オレから距離をとった。

 戦うつもりらしい。

 

「ねえ、全力でいくわ。私のすべて受け止めてくれる?」

「ヘルガのすべてを見せてみろよ」


 【煙よ、消えろ!】……ご苦労だった。長いことありがとう、煙。


「煙幕が晴れた!」

「リクといったか、やるじゃねえか。ヘルガ様とやり合って、まだ立っていやがる!」


 騎士たちが騒ぎだした。さっきまでは煙しか見えなかったからね。


「行くよ、リク!」


 ヘルガは漆黒の翼で空に飛びあがり、剣で突撃してくる。

 もちろん、赤い目だ。とっても嬉しそうにしている。


 魔族で、サキュバスで、紅蓮の剣士の、人間の女の子――ヘルガ。

 

 ヘルガが自分のすべてで来てくれるならば、オレも全力で答えよう。

 これがオレの求愛だ。受け取れ、ヘルガ!


 ヘルガの突撃に合わせ、【ショートテレポート】してヘルガの背後に。


「いつの間に!」

「動きが見えない!」


 まあ、騎士たちにも動きは見えないよね。テレポートだからね。


 ヘルガの手をつかみ、【上空へ飛ばせ!】

 20メートルほど上空に飛ばし、【ショートテレポートでさらに上空を確保】

両手を組んで地面に向けてスマッシュヒット(した風に【テレキネシスで飛ばす】)


 【着地の瞬間を衝撃】を和らげて、その上から、【軽く圧力】をかける。

 ついでにあたりに【小爆発】


「な、何が起こった!」

「ヘルガ様は無事かッ!」


 煙幕が収まると――


「く、くはあ。」


 そこには、地面に大の字に転がされるヘルガがいた。


「参ったわ。降参よ」


 こうして決闘は終わった。


ヘルガは全力を出しきったようです。

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