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4章 紅蓮の剣士「ヘルガ・ロート」

前回のあらすじ

ギルドマスターと戦うことになりそうです。

門前から離れたところに決闘にちょうど良い広場があった。

 広場というよりコロシアムのほうが近いか?


 観客席があって、中央に舞台。舞台は広めに作られている。

 観客席と、客席の間には柵がこしらえてあって、舞台から観客席側へ抜けられないような構造になっている。

 奴隷と獅子などを戦わせても大丈夫なつくりである。

 

 観客席にはオレ達を囲むように、騎士や魔導士の姿。

 天幕の中よりだいぶ増えてるじゃないの。

 警備、というよりは娯楽を心待ちにしているような気配が伝わってくる。

 

 彼らが心待ちにしているのは、先ほど魔族の疑いをかけられたオレと冒険者ギルドマスターの黒髪女子との決闘である。


 気が乗らないが、勝たなければベケットの町へ入場は難しい。

 門番から舞台に上がるよう指示され、舞台中央まで進む。

 舞台上には、先ほどの黒髪女子。赤い服が良く似合っている。


「準備はいいか?レベル3の武芸者さん」

「聖石の内容、見せてくれないか。初めて見るんだ」

「フフ、旅の武芸者が聖石判別をするのは初めてか」


 オレの所作を細かいところまで見ているようだ。


「なんだよ、初めてで悪いっていうのか」

「――いや、ベテランの武芸者ほど、自分の能力を把握しているものだからな。これは失礼。どうぞ、ご自由に」


 放り投げられた聖石をなんとかキャッチする。

 あたふたしている姿すら観察しているようだ。

 武芸者であれば、うまくキャッチできるとでもいうのか。


【ステータス】

名前:葉山リク

種族:ヒト族

年齢:30歳

外見的特徴:中肉中背。黒髪。

レベル:3

使用可能魔法:無属性魔法【トリート】髪などの物質・状態に変化をもたらす。

スキル:【全員攻略】この世のすべてが攻略対象となる。対象への干渉を妨げられない。

【命中率アップ】命中する。


 何度見ても、即死魔法・蘇生魔法が使えると書いていない。

 どういうことだ?

 オレが使える魔法は【トリート】のみで、【全員攻略】【命中アップ】で効果を高めた。

 ということに間違いはないとすると……。


「準備はどうだ」

「……名前くらい教えてくれないのか」


 決闘というものは双方名乗るものである。

 そして、決闘を望んだほうから名乗るべき。これはロマンであるので譲れない。


「フフ。生憎魔族に名乗る名は持ってないんだ、すまない」

「オレは人間だよ」

「……ヘルガ・ロート。前回の魔族との大戦で、最も魔族を斬った剣士『紅蓮の剣士』といえば、貴殿にも伝わるか」

「ふ。黒髪に赤い装束。『紅蓮の剣士』がこんな辺境にいるとはな」


 当然知らないが、流れに乗っておく。

 最も魔族を斬った剣士というのが本当ならば、魔王領出身として知らないのはおかしいからな。赤い装束が紅蓮の剣士の由来ってのもビンゴだったようだ。


「フフ。魔王領にも届いているのか。私、ヘルガ・ロートの名前が」


 なんだかすごいドヤ顔してる。すごい自己顕示欲だな。とりあえず、乗ってホメるという選択肢で良かったんだろう。

 しかし、かなりの使い手なんだろうな。

 最も魔族を斬ったっていうくらいだ。オレは即死魔法が使えるから、勝つだけならできるんだろうけど。クソ、ミアに魔導士ですって言ってれば今頃楽勝だったのに。


 勝利すればいいってもんじゃないからな。

 殺せば魔族。負ければペテン師。

 殺さずに、武芸者らしく勝つ。うん。基本方針は定まった。


 それに、さっき聖石判別を見せてもらったからな。【後ろ髪よ、伸びろ】

 オレの能力をうまく使えば何とかなるはずだ。時間があればオレの能力を検討しておきたい。

 

「リク・ハヤマだ。紅蓮の剣士ほど名の通った名前は持っていないが、武芸者の端くれとして、全力で挑もう。あなたほどの剣士であれば、改めて確認するまでもないが。決闘に勝てば私の願いを叶えてくれると考えていいんだな」

「フフ、もちろん褒美はある。町への入場を認めよう。だが、いいのか。負ければクビを切り落とし、貴様の体内の魔石コアを奪うぞ。魔族であればコアさえ生きていれば再生の可能性があるからな。死ぬのは怖いぞ?レベル3では私に勝てはしまい。怯えてしっぽを出すなら、今のうちだぞ。魔族だけに。――ま、魔族だけにしっぽ。アハハ、ヒィヒィ」

「アーッハッハ」


 ヘルガ・ロートは自分のつまらないギャグで笑い、取り巻きの騎士も腹を抱えて笑っている。

 怒らせているつもりなんだろうが、ギャグがつまらないのも相まって本気で腹立ったぞ。


「こちらも命を賭ける以上、入場許可では足りぬな。勝利した場合、貴様を好きにさせてもらおうか」

「フン、魔族らしい下卑た望みだな。いいだろう、好きにしろ」

「そうだ、そうだー。ヘルガ様はヘッポコ魔族なんぞに負けないぞ!」


 ヘルガの挑発は許すとして、周りの騎士のヤジが本気でイライラする。【後ろ髪よ、縮め】


「はじめようか。剣士の力というのは、口数で決まるのではないはずだ」

「フン、上等だ!」


 聖石判別結果を見せてもらってから、すぐに試合が始まらなくて良かった。

 オレの能力の使い方を検証できたからな。ヘルガと話している間、後ろ髪を伸ばしたり、縮めたりしていたが、どうやら【トリート】は自分にも効果がある。

 

 無属性魔法【トリート】髪などの物質・状態に変化をもたらす

 スキル【全員攻略】この世のすべてが攻略対象となる。


 上記のこの二つの能力を合わせて、


「この世のすべての物質・状態に変化をもたらす」


 という能力となったのだろう。即死魔法も、蘇生魔法もすべてはこの能力の発露に過ぎない。

 先ほどの自分への髪の伸縮実験も終わり、自分への効果も確信が持てた。


 負けるはずはない。


「来ないのか?」


 後手からはじめたいので挑発しておく。


 ヘルガがじりじりと間合いを詰め、跳躍して切りかかってきた。

 ゴブリンよりだいぶ速い。だが――


【自己脚力強化!】【自己後ろへ跳躍!】【自己バク転!】ついでに【ヘルガの腹部に弱衝撃!】


 ヘルガは剣の達人と呼ばれる域にいるのだろうが、ヘルガが斬りかかるよりオレが頭を動かすほうが速い。


「ガハっ!」


 回避して小ダメージを与えることに成功した。


「あの攻撃を何事もなく回避するのか!」

「身のこなしがあり得ない!」

「しかもヘルガさん、ダメージを受けている?攻撃しているところが一度も見えない!」


 騎士たちが騒いでいる。よしよし、ある程度リアリティはあるようだな。


「ク、いつ攻撃をしたんだ。まったく素振りも見えない。……まさか、魔法の類いか?」


 勘がいいな。気付いたか。


「いや、違うだろう。この赤装束を着た私の魔法抵抗は、魔王ですら貫けなかったのだから。」


 そう勘違いしてくれたほうがいいから、オレは訂正しない。【全員攻略】の効果は「干渉を妨げられない」だったな。魔法抵抗などムダである。

 その後、斬りかかられては回避して攻撃を数度繰り返した。

 満身創痍のヘルガ。

 

「魔族に、負けるわけにはいかないんだ……【紅魔爆炎破】!行くぞォオオオオオ!」


 力を振り絞って突撃してくるヘルガ。剣から立ち上る炎。オレは、その突撃の真正面に立ち、そして、剣がオレの体に届く前に――


 【炎消化!】【ヘルガの両手に中衝撃!】【両手を剣が握れないほど痺れさせろ!】【ヘルガの両足に筋肉疲労をぶち込め!】

 

「ギァアアア!」


 衝撃に倒れこむヘルガ。


「くそ、魔族め……負けるわけにはいかないんだ……」


 悲壮な思いはオレにも伝わった。きっと、魔族にまつわる辛い過去でもあったのだろう。

 ただ、オレは勝たねばならない。感傷より勝利を優先する。


「ヘルガ、良く戦った。降参しろ。」


 オレは、ヘルガに近づく。


 ヘルガの目が宝石のような赤い目に変化していることに気づく。


「赤い目。ヘルガ、宝石みたいな目をしているな。」

「その目……」


 ミオが驚いている。

 オレは、ヘルガを抱き起す。


「おい!もう剣も握れないはずだ。降参しろよ。」

「フフ、リクと言ったな。貴様は強いよ。だが、私には唇があれば十分だ。」

「しゃべれるように喉は攻撃しないようにしたんだ。早く降参してくれ。これ以上いたぶる趣味はない。」

「……この手だけは、使いたくなかったんだけどな。」


 ヘルガは、オレにしなだれかかってきた。オレは両手の使えないヘルガを支えた。

 見つめあう形になって……ヘルガはオレの唇を奪った。ヘルガの赤い瞳が輝きを増す。


「な、何してるんですか!」


 ミオが飛び上がって叫ぶ。


 ヘルガの唇は柔らかい。

 ヘルガの口づけと匂いに取り込まれたオレは自分からヘルガの唇を求め、ヘルガの体をまさぐった。

 抱きたい、クソ、この女を抱けるなら、オレはどうなっても!……あれ?オレは何をしていたんだっけ。

 そうだ、試合をしていたんだ、何のために……?


 全身に力が入らない。力を持っていかれてしまったようで、その場に倒れこんだ。


「フフ、ご馳走様。」


 ヘルガは、満足そうに立ち上がる。

 腕を動かし、伸びをした。

 両腕は剣を握れない状態にしたはずだ。

 それに、なぜ、立ち上がれる?両足には疲労がたまっているはずなのに……。

 

「……サキュバス。」


 ミアは、ヘルガを見てそうつぶやいた。


油断をして力を奪われました。

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