3章 はじまりの町ベケット
前回のあらすじ
伯爵令嬢と仲良くなりました
ベケットについた。
この世界での初めての町だ。
町に入るには門前で本人確認が必要らしい。
ミアは伯爵令嬢だし身元確認など必要のない気がするが、魔族の一部などは人間に変化できるものがいるので顔パスってわけにはいかないらしい。
とはいっても、ミアやトーマスはこの町からの出発なのでチェック項目が少ない。
オレは新規なので後回しにされ、だいぶ遅れての入場手続きとなった。
手続きとして、まず「聖石判別」。
聖石という種別・職業・スキルなどがわかる石に手を乗せる。結果はあとで教えてもらえるらしい。
トーマスに聞いたところによると、「スキル」や「使用可能魔法」がわかるので、職業適性なんかもわかるらしい。
少し楽しみだ。
次は、門番からの審問。出身や目的などを答えるらしい。ミアはすぐ終わると言っていたが。
「魔王領の山奥の出身で武芸修行のため各地を放浪している」
と門番に説明したところ、魔族の疑いをかけられ急遽入念な面接をされることとなった。
ミアがオレから離れてくれないもんだから、魔王領出身っていう設定を守らなきゃいけなかったんだよね。
門からほど近いところに天幕があった。
門番に案内され中に通される。
着席を促され、お辞儀をして座った。
オレの席の後ろに、抜刀した騎士に魔導士。
今にも攻撃可能なほど準備されているように見える。
ヘタな真似するなよという警戒にしても物騒だ。
「リク・ハヤマ。旅の武芸者だ」
顔を上げると3人の面接官。
左から、黒髪で赤装束の女性、派手な衣装であるがキツ目の美人。
人のよさそうな老人。
そして、ミア。
ミアと目が合うと、ウインクをしてきた。
私に任せて、とでも言ってるのだろうか。
正直ミアがいないほうが設定を守らずに済むので説明が早いのだが……まあ、しょうがない。
魔王領出身の旅の武芸者という設定で行くしかない。
怪しまれたら、ミアが何とかしてくれるかもしれないしな。
伯爵令嬢だし。
「魔王領の山奥からカリギュラを通ってベケットへやって来た、旅の武芸者リク・ハヤマ。フフ、これだけ聞くと魔王領からの間者だとしか思えないな。門番が慌てて私を呼ぶのもわかる。ミア様、――この方がミア様を助けた、と」
黒髪の女性は、ジロリとオレを嘗め回すように見た。
「ええ、リク様がいなければ危ういところでした」
「私も武術の心得があるから、体を見ればどれくらいの腕前かはわかる。とても鍛えているとは思えない。『聖石判別』の結果は?」
「ここにある」
老人から、石の板を受け取る。
「ありがとうございます。町長」
黒髪の女性が石の板を読み上げる。石の板は魔力を使った装置のようだ、弱く発光している。
「葉山リク。ヒト族。クラスなし。使用魔法――無属性魔法:【トリート】 スキル:【全員攻略】【命中率アップ】レベル:3」
「「「レベル3!」」」
オレ以外の全員に動揺が走る。
「貴殿の精神を疑うぞ、ごまかしとしてもこれじゃ下手すぎる!」
黒髪の女性が叫んだ。
「クラスなしのレベル3なんて子どもでもそうそういない。ベケットの人間は10歳ごろから木剣を持つ。大人でレベル10以下なんて深窓の姫君でもいやしないぞ」
おお、異世界基準だとオレすごく弱いらしい。まあ、文化部だしな。
「な、なにかの間違いよ!リク様は、目にもとまらぬ速さでゴブリン3匹を倒したのよ。レベル3だなんて」
ミアが動揺している。疑われてもなんとかしてくれるんじゃなかったのか?
「しかも、聞いたことのないスキルだな。『全員攻略』。私は冒険者ギルドリーダーとして、メンバーのスキルは全員把握しているが、見たこともないレアスキルだな」
眉をつり上げるヘルガ。
「そして、魔法は無属性魔法のトリート――そもそも無属性魔法は戦闘用じゃない。生活魔法がほとんどだ。能力偽装するなら、少しは考えるんだな!『トリート』はただの散髪魔法だ。町の美容師がハサミ代わりに使っている、それが『トリート』だぞ。戦闘などに使えるものか」
責め立てるような口調でオレをにらみつけている。
「ふむ、ミア様がウソを言っているとも思えない。ただ、聖石をごまかすことのできるものなどおらぬはずじゃが。いや、聖石に祝福をかけた魔力以上のものをもっておれば別かもしれぬな」
町長がオレから目線を外さず、問い詰めるように話す。
「聖石への魔力付与は、聖教会から派遣されたAランク以上の神聖魔法使いが行っているはず」
ヘルガがミアに問いかける。
「はい」
ミアがうなずく。神聖魔法のことは詳しいのだろう。
「聖石の魔力をごまかせるものがいるとすると、Aランク以上の……魔族」
ヘルガの呟いた可能性に思うところがあったのか一斉にオレを見つめる町長とミア。
ざわめく騎士たち。剣や槍を握りなおす音がする。
「フフ、可能性があるというだけの話だ。Aランク以上の魔族がレベル3の人間のフリをしているという……みなが警戒することではない。まあ、いい。腕試しをさせてもらおうか、魔族の方。それとも、怯えてしっぽを出すか?」
口角を上げて挑発的に笑う。
オレを怒らせたいのだろうな。
激昂して正体を現すとでもいうのか。
「オレは魔族じゃない」
「フフ、ついてこい。魔族じゃないというのならば」
黒髪の女性は立ち上がり天幕から出ていった。
ついて来いってことね。立ち上がってついていくことにする。
ミアが心配そうにこちらを見ている。
心配するな、と手を振って出ていく。
どう切り抜けたものかな。
即死させたら、まあ、魔族っていわれそうだよな。
負けたら、魔王領を渡り歩いた武芸者って設定が崩れる。
負けた場合は、魔族に取り入った間者ってくらいに落ち着きそうだな。
残された選択肢は――武芸者として、勝つしかない。
刺すような日の光を浴びて、外に出た。
魔族の疑いをかけられました