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34章 うれしくって抱きあうよ

前回のあらすじ

 婚約破棄と、結婚を知らせる手紙を大量に作成しました。

 闘技場で書いた書類の整理などは町長がしてくれた。

 

 オレはずっと手をつないだままのヘルガと一緒に夜道を歩いていた。

 書類作成などで時間がかかり、すっかり日が暮れた。

 早く帰りたいところだが……


 せっかくヘルガと手をつないでいるので、夜道を歩いて帰ることにした。


 夜のベケットは、暗くて通りを過ぎる人の顔はだいぶ近づかないとわからない。

 ヘルガは有名人なので、昼間はジロジロ見られていたが、夜はそんなことはない。


月明かりに照らされるヘルガを見つめながら帰るのもいいものだ。


 少し歩くと、妙に明るくなった。

 いわゆる繁華街かな。


 マジックアイテムによるきらびやかな照明に照らされており、上機嫌な話声が聞こえてくる。


 色っぽい女の人が何人も外に立ち、道行く男たちにウインクを送っていた。


「見ちゃダメ」


 とヘルガに言われたので、今日は大人しくしておこう。


 喧騒を抜け、また少し歩くと町長の屋敷。


 さて、部屋に戻ろうかな。

 ん?ヘルガが動こうとしない。


「リク。今日は私の部屋に、来て」


 ゆっくりとオレに伝える。声が少し震えていた。

 つないだ手に力がこもっているのがわかった。


 月明かりの下でもわかるほど、ヘルガのほほが紅潮している。

 瞳も赤くなっている。

 

 ヘルガの翼が今にも飛び出しそうだったので、【元に戻す】。


「……ご、ごめん」

「謝ることないよ、でも、部屋まで我慢できる?もし、また魔族化しそうになったら止めるけど」


 ヘルガが首を振った。


「……ムリ」


 ヘルガから翼が飛び出した。


「ん……うー!」


 月夜に照らされたツヤのある漆黒の翼が、大きく羽ばたいた。


「う……」


 ヘルガは、ゆっくりと宙を飛びまわっている。

 自分でコントロールできないみたいだ。


 オレは、月夜に照らされたヘルガに見とれてしまっていた。


 ヘルガが、オレに飛び掛かってくる。


「あ、ふ」 

「わわ、ちょっと……」


 オレに馬乗りになるとヘルガは、嬉しそうに体を震わせてオレの唇を奪った。


「……ぷは」


 ヘルガは体を起こすと満足そうに微笑み、舌なめずりをした。

 体をくねらせているが、オレから目線を外そうとはしない。


「き、て」


 ヘルガが手招きしている。

 全身がだるくなって、もう目の前のヘルガのことしか考えられない。


 コツコツと聞こえてるが、足音か?


 ……誰か来てるのか。はは、見て行けよ。オレとヘルガの愛の営みを……


 ――っておい!


「ま、魔族が出たぞ!」


 誰かが走り込んできた。


【テレポート】!


 ☆★


 ヘルガの部屋にテレポートしてきた。


【魔族化を解け】!


「う……あれ、私……」


 ヘルガを元に戻した。

 

 ――危ない。あんな街中で――サキュバス丸出しで――愛の営みを繰り広げたらヘルガの討伐命令が出てしまう。


「大丈夫か、ヘルガ」

「……うん、ごめんね」


 髪も服も乱れに乱れているので、ヘルガは真っ赤になっていた。


「あんなふうになっちゃうんだね……」


 ヘルガがぶるっと体を震わせた。


「何があったか覚えているの?」


 ヘルガが恥ずかしそうに答えた。


「うん、覚えているし、何をしてるかはわかってるんだけど、自分では止められなかった……体が熱くて……ずっと抑えて生きて来たんだけど。でも、リクといるときはガマンしたくなかったから。笑うのも、泣くのも」

「いや、だからオレが止めなきゃいけなかったんだけどね。ごめん、ヘルガを魔族化から戻さなきゃって思ってたんだけど、見とれてた。可愛かったよ、ヘルガ」

「うー」


 ヘルガが足をばたばたさせる。


「なんだか、すごいやらしい顔してた気がする。私、舌出してたよね」

「うん、魅力的だった」

「……ばか」


 恥ずかしそうにしているヘルガを後ろから抱きしめた。


「……うん」


 ヘルガは自分の前に来たオレの手に触れながら話しだした。


「闘技場から出た時から、ずっとドキドキしてたんだ」


 ヘルガがオレの手を持って。


「ほら、今もドンドンて音がしてるよ」


 ヘルガの鼓動が伝わってくる。

 オレもそうだ。

 オレとヘルガを邪魔するものは何もないから。

 このまま二人で手を繋いで寝るだけではないから。


「ほんとだ。オレもなんか緊張しててさ、帰り道、ずっと黙ってた」

「あー、そうなんだ。一緒だね」


 ヘルガがオレを見上げて笑った。


「私ね、小さいころからずっと誰のことも好きにならないって思ってた。でもね、そんなちっちゃなころの私に、そんなことないよって……素敵な人が現れるからね、って伝えてあげたくて。今日はリクと、この部屋が良かったの」

 

 ここで、一人でがんばってた小さなヘルガのためにも、大切にしてあげないとな。

 ぎゅっと力を込めて抱きしめる。


「もう……」


 ヘルガが、オレに体重を預けてくる。

 しっかりと支えるために力を込めた。


「ねえ、リク。時間をもらっていい?」


 ヘルガがくるりと回ってオレの手を取った。


「髪と服を整えたいんだ。さっき、ついサキュバスになっちゃったから」

「うん。いいよ、待ってる」

「ありがと」


 ヘルガがオレから離れ、髪を整えている。

 

 その間ヒマだな。

 オレはヘルガの部屋に目をやった。

 お、聖石がある。


「ヘルガ、聖石持ってるんだ」

「うん、ちょっと高いんだけど、日ごろのトレーニングの成果とか、どれが効果あったかわかるから。毎日見てるんだ。経験値とか見れるからいいよ。昨日のトレーニングより今日のほうが効率良かったなとかわかるし」

「オレも使っていい?」

「いいけど、リクの私にも見せてね」

「どうやって使うの?」

「石に触ってると反応するよ。あ、少し最初は時間かかるかも」


 じっと、石を触っておく。


「出た」


【ステータス】

名前:葉山リク

種族:ヒト族

年齢:30歳

レベル:55

使用可能魔法:「無属性魔法:トリート」髪などの物質・状態に変化をもたらす。

スキル:「全員攻略」この世のすべてを攻略できる。攻略対象へ干渉することを妨げられない。

「百発百中」絶対に命中する。


「前より成長してるかな」


 ヘルガが覗き込む。


「おー、レベルが一気に上がってる。前見た時レベル3だったよね」

「アースドラゴン倒したしな。ヘルガも倒したし。あ、それよりもう準備できた?」

「うん」


 ヘルガが、こちらを向いた。


 つやのある美しい黒髪はキレイに整えられており、腰あたりまで伸ばしている。大きな瞳に、赤い紅をひいた唇が凛とした印象を与える。

 

 いつもの朱の装束はすらりとしたヘルガに良く似合っていて、ヘルガの肢体のラインの美しさを強調していた。

 

「ずっと見てたら恥ずかしいよ」


 顔立ちは可愛いというより美人なほうであるが、照れている顔など仕草は落ち着いていおり、柔らかくて可愛らしい。

 

「可愛いよ。おいで、ヘルガ」


 ベッドに腰かけてヘルガを両手を広げて迎え入れる。


「どーん」


 ヘルガが近寄ってきて体重を預けた。


 特に抵抗もせず、二人でベッドに倒れ込んだ。


 そのまま、抱き寄せる。オレの胸のあたりにいるヘルガの髪を撫でてあげた。

 ヘルガの体に力が入っているので、しばらくこのままでいよう。


まだ夜は続きます。


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