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33章  悪いことなら二人で

前回のあらすじ

 リクは、ヘルガにいろんなことを話しました。

 闘技場にヘルガと二人でやって来た。

 ヘルガはいつもの朱の装束に身を包み、オレは黒のローブだ。

 頼んでる服早くできないかな。


「ハンス様は、どこにいるの?」

「んー、焼き尽くしたからなあ」

「リクって思い切りがいいよね」


 とりあえず、【ハンスよ生き返れ】


「あれ、ダメだな」

「魔力足りないの?」

「いや、一応ドラゴンの魔石持ってきてるし大丈夫じゃないかな。ちょっと段階を踏む必要があるな。たぶん」


 スモールステップでちょっとずつ行こう。


【ハンスだった塵よ、集まれ】


 塵が集まっていく。


「こ、これがハンス様だって言うの?」


 ヘルガが驚いている。


【塵よ、元の体に戻り、ハンスの魂を呼び戻せ】


 あっという間に、ハンスの体に戻った。

 土気色の顔に徐々に精気が宿っていく。


 ヘルガが、脈を診た。


「生きてるよ、リク」

 

【目を覚ませ、ハンス】


「こ、ここは?」

「ふん、オレの幻影の炎で焼き尽くされた気分はどうだ?」


 ハンスは自分の体を触る。


「オレは、焼き尽くされたはずでは?……幻術か!やはり魔族か、しっぽをだしたな、リク・ハヤマ!」


 オレはヘルガに耳打ちする。


「幻術使うと魔族なのか?」

「人間は 【神聖魔法】と【精霊魔法】しか使ってないよ。幻術の類いは、魔族が使う【混沌魔法】に多いから、リクが魔族だって言ってるんじゃない?」


 時間があるときに魔法系統についてヘルガとミアから聞いておこう。

 オレはこの世界について知らないことが多いな。


「ハンス、とりあえずさ」

「なんだ」


 ハンスは剣を構えた。


「ヘルガはオレのものだ。お前との婚約は解消してもらう」

「何を言ってるんだ、そんなことは認められない」

「すみません、ハンス様、私はリクと一緒に生きています」


 せーの、


「「婚約は破棄します。すいませんでしたッ!」」


 頭を下げたオレとヘルガの精いっぱいの謝罪だ。


「ふざけるなあ!」


 ハンスは叫んだ。


 オレはヘルガと顔を見合わせる。


「「よろしい、ならば決闘だ!」」


 オレはヘルガと手を握った。


「オレは、ヘルガとお前の婚約破棄を望む。ハンス、お前はどうする?」

「そんなこと認められない」

「認めろ」

「認めない」

「認めろ!」

「認めない!」


 子どもの喧嘩か。


「議論によって解決できない場合、古来から決闘によって片付けてきた。ハンス様、剣を持つ者同士、主張の食い違いがあれば決闘の流儀に乗っ取って決めるが道理、違うかッ!」


 オレのヨメのとっても可愛いヘルガちゃんではなく、紅蓮の剣士ヘルガ・ロートがそこにいた。

 こちらのヘルガもオレは愛している。

 ただし、オレを怒らないのであればという限定はつくが。


「2対1ではないか!」

「はっ!これはハンデだ。片手しか使わない。オレとヘルガの絆を断ち切れないってところを見せるため、あえて片手で戦ってやろう。オレはヘルガの手を離さない。お前にそう見せつけるためだ。オレかヘルガか、戦いたい相手を選べ」


 ハンスは唇を噛む。


「ちくしょう、Sランク冒険者と魔族にかなうわけないだろうが!」

「じゃあ、ヘルガのことは諦めろ。決闘も受けず、婚姻破棄も受諾しないなどオレが許さん。そう主張したいのなら、あの世で言え。オレがいますぐに送ってやる」


 ハンスが後ろにじりじりと下がっていく。後ろを気にしているようだ。

【重力波!】 ハンスの後ろにクレーターのようなものを作り上げた。


「逃げられるとでも思うなよ」

「ちくしょうが!」


 ハンスは観念したようだ。うなだれながら、質問に答えた。


「オレが求めるのは、ヘルガとの婚姻と、リク・ハヤマの死だ」


 ハンスが剣を構えた。


「オレが望むのは、お前とヘルガの婚約破棄だ。書類にお前が記名、押印し、王都や諸侯へ配布する」


 町長が走って持ってきた。


「すでに書類は用意してある。お前のサインさえあれば、即日配布できるようにな。それと、お前が攻撃したコリンナに謝れ」

「誰だそれは。ああ、あの焼かれた女中か。なぜ私が、あんな下賤なもののために頭を下げねばならないのだ」


 地面にツバを吐くハンス。


「……お前、何様だよ」


 コリンナはオレの使用人だ。貴族かどうか知らないが、コリンナの価値をお前なんかに決められてたまるか。


「リク、オレがこの手で殺してやる。……お前ら、手を離さないのか」

「言っただろ、お前ごときに壊される絆じゃないんだ」


 握った手に力を込めた。

 ヘルガも握り返してくれた。


「殺してやる、殺してやるぞ、リク・ハヤマ!」


 叫んだので飛び掛かってくるかと思ったがハンスは魔法の詠唱を始めた。

 案外慎重な奴だ。


 剣ならまだしも魔法の詠唱は効果がわからなくて怖いので、潰させてもらうぞ。


 【ハンスの口を閉じろ】


「ア…グ…」


 コリンナにごめんなさいも言えない口なんかいらないんだよ。

 オレを一発殴らせた分、返してもらうぞ。


 【ショートテレポート】! 魔法は使わねえ。全力で殴ってやる!


 詠唱できなくて悶えているハンスに殴りかかる。

 ハンスはオレの拳を華麗に交わす。

 が、オレの拳に体が引っ張られハンスのアゴにクリーンヒット!

 足から崩れ、白目を向いて倒れた。


 ハンスは完全にのびた。


 ああ、そうか。オレって命中率アップスキル持ってたな。地味に良スキルじゃないか。


「良し、決闘に勝ったぞ!」

「さすが、リク。パンチ一発KOってさすがだね」

「ああ、武闘家だからな」


 ヘルガが、オレを見て行った。


「ふふ、だれもいないから武闘家って言わなくてもいいんだよ。『状態変化』の最強術士さん」

「そうだったな」


 二人で笑う。


「よし、じゃあ予定通りハンスの体を縛り上げて魔法で操作して書類作って送り付けるか」

「言葉だけ聞くと悪いことしてるみたいだね」

「まあ、そうだなあ。オレ達、何も知らない奴らからすると悪い奴らみたいだからな」

「そうだねえ」


 オレはハンスの体を操作して次から次へ書類を作っている。


 オレ達はずっと手を握っていた。正直動いたのもあって手は汗ばんでいる。

 それでも、ヘルガの手を離す気になれなかった。


 オレ達は悪人だ。


 ヘルガは婚約破棄をした。

 オレは婚約者のいたヘルガを奪った。


 非難されるべき罪を背負っている。


 だからこそ一人になってはいけなかったんだ。

 ヘルガとオレが、一緒になって謝って一緒になって戦わなきゃいけなかった。


 オレ一人でカッコつけている場合ではなかった。


「リク、随分、書くんだね。まだ終わらないの?」

「婚約破棄と、オレとヘルガの結婚式の案内も一緒に作ってるからな」

「えーーーーー!」


 ヘルガは驚いている。


「え、本当に送るの?」


 さっき作った一通目を渡してやる。


「うわー、ホントだ!作ってる、これ送っちゃうの?」


 ヘルガはピョンピョン跳んで驚いている。

 とても嬉しそうにはしゃいでいた。


 婚約破棄と同時に結婚報告も兼ねることにした。

 どうせ、文句を言われるのだ。

 一緒にまとめるほうが効率的だ。


 しかし、文章にするとリアリティが増すな。

 

 ――結婚するんだな、ヘルガと。

 

 ヘルガが、飛び上がって喜ぶのもわかる。


「よし、出来あがった」


 出来上がったものを町長に渡す。


「……はあ。ある意味こんなもの宣戦布告ですよ。子爵家にとっては」


 町長はぶつぶつ言っていたが、ハンスのしたことにはらわたが煮えくり返っているのでオレに協力してくれると言ってくれた。


 子爵家との話はすぐには片付かないだろう。

 ――待ってられるか。


 オレはヘルガと一緒にいたいんだ。


婚姻破棄と結婚報告のチラシが大陸中に送り届けられます。


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