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32章  あなたのすべてを教えて

前回のあらすじ

 町長の屋敷で騎士たちとハンスが暴れていました。

 町長の屋敷へテレポートで戻った。

 騎士たちはヘルガが制圧したのだろう。地面にたたき伏せられ無力化されていた。


「リク」


 ヘルガはコリンナを支えていた。

 オレも近寄って声をかける。


「大丈夫だったか」

「いまは気を失っているだけだよ」


 ヘルガがオレを見つめる。


「コリンナは、さっき心臓が止まってたんだ」

「もう一度動き出してよかったな」


 ヘルガは悲しそうにオレを見つめる。

 直視できなくて、コリンナのほうを見た。

 顔に赤みもある。とりあえず大丈夫だろう。


「ハンス様と、どこに行っていたの?」

「闘技場で……二人で話をしてきた」


 ヘルガがオレの表情をじっと見つめている。


「それで、ハンス様はどうしたの?」


 ヘルガはコリンナを寝かせると、オレの近くに来た。

 

「オレがもう一度謝罪をしたのを受け入れて、帰っていった」

「……本当に?」

「ああ」

「闘技場だね、わかった」


 ヘルガが走って闘技場へ向かおうとする。


「待て、ヘルガ。闘技場にはもう、何もない」


 ヘルガは足を止めた。


()()()()?」


 振り返ったヘルガの目には涙がたまっていた。


()()()()()()、じゃないんだね……リク」


 ヘルガはオレにしがみついてきた。


「……ハンス様を殺したの?」


 オレは何も答えられなかった。


 ☆★


 【テレポート】してオレの部屋のベッドに腰かけた。

 ハンスのことを話すには、広間はまずい。


 ベッドでもヘルガはずっとオレにしがみついていた。


「……あのさ、」

「ごめんね、リク。ハンス様のこと辛かったね。婚約してた私が、リクの側にいたいって思ったから。それはとても悪いことなのに」

「悪くなんかない」


 ヘルガの瞳に溜まった涙が零れ落ちる。

 

「私がハンス様を止めなきゃいけなかったのに、ごめんねリク」


 どうすれば良かったのだろうか。

 オレの手の中で震えるヘルガ。

 悲しませたくはなかった。


 ヘルガはオレと話すために少し距離を取った。


「それと、コリンナのことなんだけどね、リク何かしたの?完全に心臓が止まっていたから」

「あれは……」


 宙を見ながら考え込む。


「私、リクのことずっと見てるからわかるようになってきたよ」


 優しくオレを見つめるヘルガ。


「何がわかるの?」

「今、なんて言おうか考えている。どうやってウソをつこうかなって」

「……ウソじゃない」

「リクは、ハンス様のことだってそうだけど、私に教えてくれてないことがいっぱいだよね」

「それは……」

「ドラゴンだって楽勝で倒せるのに、モグラにはやれらたり、コリンナのことだって……リクのことがわからない。……ねえ。寂しいよ、リク」


 ヘルガはオレを見つめる。


「ねえ、リク」


 ヘルガは赤い瞳になった。黒い翼もはためいていた。


「リクには私のこと、全部教えてるんだよ」


 ヘルガがオレの手を取った。


「リク、あなたのすべてを教えて」


 ヘルガの体温が伝わってきて。

 不意に涙があふれた。

 

 きっと、オレも寂しかったんだ。

 


 それから、オレはヘルガにこの世界に来てからのことを話した。


 異世界からこの世界に来たこと。

 ゴブリンと戦ったこと。

 その時に即死魔法と蘇生魔法を使えることに気づいたこと。

 ミアと出会ったこと。

 ミアに知らずに求婚してしまっていたこと。


「あー、異世界から来たから知らなかったの?リクってほんと人前で頭撫でるよねって思ってた」

「え、ダメなの?」

「ダメじゃないけど、周りがギョッとしてると思う」

「じゃあ、するのやめる」

「やだ。して欲しい」


 頭を撫でてあげた。


「あ、でも知らずに求婚したことミアに言うなよ」

「どうして?」

「ミアはいい子だし、結婚したいって思ってるから、最初に知らなかったって聞いたら悲しむだろ」

「そうだね。リクはミア様のこと大切に思ってるんだね」


 ミアもいい子だからな。


 そして、

 街に入る際に魔族の疑いをかけられたこと。

 ヘルガを魔法で倒したこと。


 その後、ミアと薬草採取に行って、ラウラを助けて、ドラゴンと戦って、マリー達ヴァルキュリアと戦って、コリンナを蘇生して――


 ヘルガはオレの話に頷きながら、手を握ったり、笑ってくれたりしていた。


 ウソをつくっていうこともオレには疲れることのようで、スッキリした気分になった。

 オレも話を聞いて欲しかったんだ。

 

「魔族じゃなくて異世界の人だったんだね」


 ヘルガ目を丸くして驚いている。


「いつまで魔族だとおもってたんだ?」

「えーとね、ついさっき」

「何でだよ」

「だって、蘇生するしワープするしドラゴン倒すし、リクめちゃくちゃなんだもん。そりゃあ、魔族だって思ってもおかしくないよ」


 ヘルガは力説していた。


「なんだ、魔族のヨメになる気だったのか?」

「うーん?えっとね、リクなら人でも魔族でもいいよ。あ、でも魔族って、二つあるって聞くから私大丈夫かなって心配したりはしたけど」

「……何が二つなんだ」

「し、知らない」


 顔を赤くしてうつむくヘルガ。

 おい、照れるなら言うなよ。

 

「ねえ、リク。蘇生って、だれでもできるの?」

「ラウラの村のゾンビの話はしただろ?だいぶ時間がたつと無理らしい。オレが試した中では、ラウラのお父さんのエミリオが一番長かったかな。当日中くらいがリミットなのかな」

「……ねえ、ハンス様ってさ、生き返せる?」


 ヘルガは真剣な顔でオレに尋ねた。


「ダメだ。ヘルガがハンスに斬られようとしてたからオレが殺したんだ」


 ヘルガの肩をつかむ。


「オレはヘルガが大事だ。ヘルガに危害を加えるような奴は、生かしておけない」

「ありがとうね。でもね、ハンス様に悪いってこともあるけどね。どう解決するかを思いついたんだ」


 肩に置いた手をヘルガがぎゅっと握った。


「それにね、私、ハンス様に許されようとしてたんだよね。ねえ、リク。リクは私のこと好き?」


 オレをじっと見つめて問いかけるヘルガ。


「当たり前だろ」

「私を、他の人にあげるの嫌?」

「嫌だ」


 というか、それが嫌で殺してしまっている。


「そうなんだよ、許せるわけないんだよ。だから、謝ったら出来ることはそれで終わりなんだ。謝ったって、許してくれないし、私はリクと一緒にいたいから、死んであげたりできない」

「そうだ。だから、婚約破棄が気に食わなくてオレとヘルガにハンスが向かってきたときは」


 二人の息はピッタリだ。


「決闘だ!」


 だって、オレもヘルガも冒険者なのだ。

 主張が食い違った場合、互いの主張の正しさを、決闘の流儀に乗っ取り戦わせる。

 それが冒険者ってものなんだ。


 オレもヘルガも自分が悪くないなんて思ってない。

 それでも、人を傷つけてでも一緒にいたいだけなんだ。


リクはヘルガに全てを打ち明けました。


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