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30章 婚約破棄って難しい

前回のあらすじ

 ヘルガの部屋で二人きりでイチャイチャしました。

 ヘルガとイチャイチャ中に貴族に乱入されたオレはとっさに【テレポート】を使ってしまった。


 孤児院である古い教会から抜け出し、アンナとイルマの前へ。


 ヘルガは訳も分からず、乱れた服を整えていた。髪も乱れている。


「ヘルガ様、服が脱げかけているよ?」


 イルマの純真な質問がオレとヘルガの心に突き刺さる。

 アンナは何も言わず、ヘルガの服と髪を整えるのを手伝ってくれた。

 

「ヴァイスブルグ家のハンス様が、訪ねてまいりました。『町でヘルガ様の良くないウワサを聞いた。彼女に限ってまさかそんなことは無いと思うが、確かめに来た』とおっしゃっていました。我々が止めるのも聞かず、ヘルガ様のもとへ……」

「アンナ、『我々はいなかった。ヘルガは町長の屋敷にいるのではないか』と伝えてくれ」


 頷くアンナ。よくわかっていないイルマ。

 ヘルガの手をつなぐ。


「行くぞ、ヘルガ。手を握って」

「う、うん」


 【テレポート】


☆★


 町長の屋敷のオレが使っている部屋へ。


「あー、びっくりした」

「……何が何だか」


 ヘルガはまだ混乱している。興奮した様子で、黒翼をはためかせている。まあ、落ち着こう。

 【魔族化を解け】


「……ここはどこなの?」

「町長の屋敷のオレの部屋だよ」

「へえ、ここにリクが寝てるんだ」


 ヘルガは、オレのベッドに寝転がる。


「アンナに整えてもらったのにまた髪が乱れるぞ」

「乱れさせたのはだれですか、リク君答えなさい」

「ふふふ、それは、オレだあ!」

「キャー」


 オレも寝転がって後ろからヘルガを抱き締めてごろごろする。

 ヘルガの細身の体であるが、抱きしめるとあるところにはあることがしっかりと伝わってくる。


 何をやっているんだ?オレ達は。

 そう、二人ともびっくりして現実逃避してしまった。


 でも、もう少しだけヘルガを抱きしめたままでいたい。


「……あれがね、ヴァイスブルグ子爵家のハンス様」


 そうだろうな。貴族だろうなって身なり。


「……私、剣士失格だよ。部屋の入口まで来てたのにわからないんだもん」

「オレも、武闘家失格だな」


 オレはモグラに後ろからやられる程度のインチキ武闘家なので気にしないが。


「ねえ、リク。どうやってあの時間でここまで来れるの?【転移魔法】かと思ったよ」

「【転移魔法】だよ」

「嘘だ。あれは魔女しか使えないって聞くよ」


 【空間魔法】の範疇である【空間魔法】は魔女しか使えないらしい。


「……あれは、【縮地】という我々に伝わる歩行法だ。精神と時を一つにして、こことは違う時間を歩く。一族の技だ」

「私との決闘のときも使ったよね。便利すぎるよ。なにそれ。流派の名前も教えてくれないしさ」


 ヘルガにはみなと違ってオレは魔法使いだって教えてあるんだけどな。なぜか信じてくれない。


「【気】っていうのを使ってるんでしょ?」


 我が流派は【気】の操作に長けた武術の一派だ。【気】を相手に直接叩き込むことで触れずに相手を倒すことができる――という設定だ。


 ヘルガに「リクは何で強いの教えて」って言われたので、そういう説明をした。

【気】って便利だな。


「まあ、【気】はおいといて子爵家をどうするかだ」

「うん」


 さすがに抱きしめながら説明するのはオカシイので、一緒に起き上った。

 ベッドに腰かけて話を進める。


「【縮地】のお陰で時間が稼げたので、オレとヘルガはあそこにいなかったことにしよう。アンナもうまく説明してくれるだろう。なあに、馬車より早い人間などいない。オレ達は町長の屋敷にいて、孤児院にはいなかったと、町長の家と周りを歩き回ってみんなを証人にしよう」

「え……ムリじゃない?それ。ムリがあるよ」


 ☆★


 町長の部屋の応接室。


「全くあきれましたな」


 町長は、深くタメ息をついた。


「二人で町に遊びに行くのはまだしも、服屋で怪しいものを買ったり、商人の家で抱きしめたりしているのは町の者たちが教えてくれましたが……」


 町の人を手なずけている町長にかかればこれくらいの情報は即日収集か。まったく恐ろしいものだ。


「まさか、最中に踏み込まれるとは。二人とも武芸者でしょうが、Sランクの。リク様は今はAランクですが、Sランク以上であることはヘルガ様の認める通りです。子爵の息子が近づいてくるくらい察知できないんですかねえ」

 

 ヴァルキュリアをやっつけたので、マリーと同じAランクをもらった。冒険者ランクは3年で1あがるほどのもので、特別待遇だ。

 ねちっこくぐちぐち言われるので、町長の後頭部から、50本ほど髪を抜いておく。


【脱毛波!】 くらったものは髪が抜ける恐ろしい技である。


「痛い!なんでしょう、虫でしょうか」


 毛だと思うよ。


「まあ、やってしまったものは仕方がない。直にこの屋敷に向かってくるだろうからヘルガを正装させて話し合いをしよう。向こうも急な来訪だから晩餐などは求めないだろう」

「そうですね。お茶などでおもてなしをして、その時に、お二人でお話をできるようにしましょう」

「うん。頑張る。正直ね、少しほっとしてるんだ。どう断ろうかって思ってたけど、謝るしかないよね」


 ヘルガの目に覚悟が見える。


「ヘルガが魔族化するってことはやっぱり黙っておこう」

「納得しますかね」


 町長が腕を組む。


「しなくても、ヘルガが危険にさらされる可能性は少しでも低くしたいからな」


 すでに好感度は最悪である。いたずらに刺激することは避けたい。


「ありがとう。私、頑張るからね」

「遠くで見てるよ。町長、ミアは呼べないか」

「手紙を書いてみます。ただ、間に合わないでしょうね」


 子爵家の抑えとして、より地位の高い伯爵令嬢ミアの看板が欲しかったところであるが、無理なら仕方ない。


 ☆★

 

 町長の屋敷の庭。

 パニエで美しく広がったドレスのヘルガ。

 相対するは、ヴァイスブルグ子爵家嫡男ハンス様。こちらも金の刺繍の入った豪華な服装。


 とっとと本題に入りゃあいいのに、グダグダと話している。

 町長の仕切りなので文句は言えないが。

 

 おいしそうな焼き菓子をオホホって感じで食ってる。

 正装したヘルガは美しいが、服屋でおばちゃんと話してたヘルガのがいい顔をしていると思うぞ。

 

 なんだか、人のヨメにちょっかいかけられてるみたいで見てて腹立ってくるな。

 オレのほうが人の婚約者にちょっかい出してるやつなんだけどね。公式には。


 二人で、庭に立った。町長も席を外し、プライベートな時間ということだろうか。

 持って回ったようなやりとりにもヘルガは頑張って答えていた。


 【聴力アップモード】! すごくよく聞こえるようにした。


「それで、婚姻のときの衣装なのですが、」

「ごめんなさい!」


 ヘルガが突然頭を下げる。


「私は……あなたと結婚できません」

「……え?」

「私は、ハンス様とは結婚できません、すみません」


 頭を下げたまま、動かないヘルガ。


「やはり、噂ではなかったのですね」


 ハンスはヘルガに笑いかける。


「魔族と決闘に敗れたのち、その魔族に付け狙われているというのは……」


 オレはもう魔族扱いされるのに慣れてしまっている。


「さきほども魔族に言いようにされていました。あれは見間違いではなかったのですね」


 ハンスがヘルガの手を握った。

 あいつ殺そう。立ち上がろうとしたら、町長がオレの手を握った。

 おいやめろ。

 小声で話しかけてくる町長。


「いきなり殺すって野蛮人ですか、あんたは」


 どうやら、心の声が漏れていたようだ。


「あいつが10秒以内に手を離さなければ殺す。」

「わかりました。私が行きますよ」


 町長が急に立ち上がり、顔を出す。


「おや、真剣なお顔でお二人とも、どうしました?」


 ハンスが手を離し、ヘルガは後ろに下がる。

 

「町長、決闘の話は本当なのですか」

「どういうことです?」


 とぼけて首をかしげる町長。


「ヘルガが魔族リク・ハヤマに姑息な手で敗れ、魔族にいい様にされているという話です、あなたが知らないはずはない!」


 ハンスがいら立ちを町長にぶつける。

 しれっとした顔で受け流す町長。


「ヘルガ様は剣士ですからな、決闘の結果はなによりも優先される、彼女もそう答えるでしょう。そうでしょう、ヘルガ様」

「はい。ですから、あなたと結婚することはできません。私よりもふさわしい方がいらっしゃいます。ハンス様」


 ヘルガは頑張って芝居しているが、笑いたくなるほどの棒読み。

 

 ハンスがいやらしい笑みを浮かべる。

 

「私が、あなたを救います。ヘルガ様。私はあなたに剣の腕では及びませんが、集団で悪魔を殲滅するだけの力は持っているつもりです。お前ら!探せ、近くにリク・ハヤマがいるはずだ」


 突然、騎士が10名ほど入って来て家探しを始めた。

ハンスはリクを殲滅するつもりです。


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