表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/38

29章  ヘルガの部屋で、ふたりきり

前回のあらすじ

 シュミット商会とダイヤの商いについて話がまとまりました。

 ダイヤが売れるようになって良かった。シュミット商会を後にする。

 試作品のダイヤと、加工したアクセサリを売ってくれることになった。


 そのお金で、ラウラ達奴隷を解放してもなお余るとのこと。


 これで、ネコ族も安泰だろう。

 

 余ったお金で、お屋敷でも買おうかな。いつまでも町長の家にいるわけにいかないし。


 ちなみに、凄腕のダイヤ加工技術者はなにを隠そうオレである。

 ダイヤを加工するにはこの世界は科学技術が足りないらしい。

 魔法で、パパっと作った試作品で奴隷全員分だとのこと。

 

 原価はゼロ。加工はオレ。

 

 なんとも理想的な商売である。

 作り過ぎたら価格が下がるかもしれないが、それまでに荒稼ぎさせてもらおう。


 一仕事終えたので、さっきヘルガが急に怒りだしたことについて聞いてみるか。

 ヘルガによれば、次の目的地までだいぶかかるみたいだし。


 横をみると、ヘルガと目が合った。


「なあ、ヘルガ」

「なに、リク」


 大通りから少し外れて人どおりの少ない道へ。こっちはたしか、スラムだったか。


 慣れた足取りで、スラムを進むヘルガ。

 ここは、ヘルガの庭だったのだろう。


「あのさ、ネコ族が家族ってどういうこと?」

「えっとね。私ね、お母さんが亡くなってから一人で過ごしてたんだけど、その時に孤児院に少しだけいたの」


 ヘルガの母は幼いころに亡くなったと聞いていた。

 その後、孤児院にいたのか。


「そのときは、小さなとこに30人くらい住んでて、私はすぐに冒険者として稼げるようになったから出ていったんだけど」

「……入った時のチビ達のこと気になってたから、ちょくちょく来てたんだよね。様子見に」


 思い出すようにゆっくり語るヘルガ。

 オレも急いでないので、自分のペースで話してくれていいよ。


「その時は、狭かったしご飯もなかったし、辛かったなあ。私はみんなより大きかったから、外に獣を採りに行ったり、おつかいの依頼を受けたりしてたんだよ。それでご飯を買ってみんなで食べたり」

「そうか。その子たちは今何しているの?」

「えっとね、悪い武闘家さんにみんなまとめてぶっ飛ばされた挙句、リーダーはムリヤリお嫁さんにされたみたいだよ。マリーって言うんだけど知らない?」


 楽しそうに笑うヘルガ。そうか、長い付き合いだったんだな。

 マリーたちヴァルキュリアと。


「こらこら、人聞きの悪いこと言うな。その武闘家さんにもきっと理由があったんだと思うよ?」

「ふふ。いまでもね、あの子たちとはその時の話をするんだ」


 マリー達の忠誠心はヘルガと長い時間を共に過ごしたことによるものか。


「いまでも顔出すんだね」

「今、私が場所を借りてるんだよね。孤児院の。先生の給料も私が出してるし。あ、それでね、今の孤児院には獣人の子たちもいるんだよ。孤児院にいないと、奴隷にされちゃうからね。いてもさらわれて奴隷にされたりするからね。もちろん助けにいくよ」

 

 控えめに話しているが、実質孤児院はヘルガが経営してるんじゃないか?


「お金けっこうかかるんじゃないの?」

「そうだよ、かかるんだよ。でも私しかできない依頼とかあるからそこでお金はもらってる。もう少し安くしてもいいんだけど、今はきちんと高い報酬にしてるよ」


 さすが、Sランク冒険者だな。


 しかし、服をあまり持ってないのは孤児院経営の事情もありそうだな。

 収入が多くても使えばもちろんなくなるわけで。


「ねえ、リク。私、仕事頑張るから、孤児院は続けていいかな」


 下を見ながらしゃべるヘルガ。オレに悪いと思ってるのかな。

 ヘルガは報酬が高いし、自分がお世話になった孤児院に恩返しって言うのも、とても素晴らしいと思う。


 あとは金だけど。

 実はアースドラゴンの魔石はとんでもない高級品なので、あれだけで暮らしていける。

 ダイヤもメドがついたし、何の心配もないな。


「うん、仕事はしなくていいし、続けていいよ。さっき見せたダイヤも高く売れそうだしね」

「ごめんね、リク。私、できるだけ孤児院の分は稼ぐようにするからね」

「いいんだって。夫婦なんだから」

「……ありがとう。今はね、少し広くなってきれいになってるんだよ。スラムにあるんだけどね、頑張ってこの周りはきれいにしてるんだよ」


 古い教会についた。

 子供が走り回る声がする。


「あ、ヘルガ。」

「ヘルガ様だー」


 小さいのがわらわらと出て来た。お、ケモノミミの子たちもいた。


 ヘルガに抱き着いたり、遊んでとせがんだりやりたい放題している。

 あれが幼児ってやつだな。


「はいはい。そのくらいにしてね。ヘルガ様一歩も動けないじゃない」

「イルマ、久しぶり」

「おかえりなさい、ヘルガ様」


 イルマと呼ばれた少女は小さな子たちをあやしながら、ヘルガに挨拶した。

 10歳くらいかな。服は清潔で、きちんとしたものを食べているようだ、とても健康的である。

 小さな子たちもみんな元気。

 ヘルガはきちんとした環境を作ってあげているようだ。


「あ、ヘルガ様!」


 動きやすい服装をした中年女性がほほえみながら近づいてきた。


「アンナ」

「今度は長くいれるのですか、ヘルガ様」

「そうだね。……今度ね、私、結婚するの」

「ええ。ええ!存じております。そうですね、そうなればあまりこちらへは来られませんね。子爵様のご子息様とのご結婚ですものね」

「アンナ、私ね、子爵様の息子さんとは結婚しない」

「……え?」

「婚約は取りやめる。それでね、」


 オレのほうを見るヘルガ。


「私、リクと結婚するの、この人がリクだよ」


 手を引かれた。


「……子爵家との破談ともなれば、面倒なことがたくさんだと思います」

 

 ヘルガのことを見つめて淡々と話すアンナ。


「でも、今日会ったヘルガ様をみて一目で、この方のことを好いておられるのだとわかりました。」


 アンナはヘルガを見つめている。


「思いを寄せる人との最後にお別れに、思い出の場所に来たのだとばかり思っていましたが……」

 

 秘めた恋っていうのは、オレ達の世界にだってあった。

 この世界ならなおさらだろう。


 自分の恋心を秘めたまま、想い人とは違うところへ嫁いでいく。

 オレは嫌だな。


 マリーのことが気にかかった。

 

 ヘルガはもちろんのこと、ミアやラウラは望んでオレのヨメになろうとしているが、マリーはどうなのかな。

 正直、マリーの身柄をもらったのは、ヘルガの安全のためだからな。実は想い人がいますとか言われたら、困るな。

 マリーとはしっかり話をしよう。


 決闘に勝ったとはいえ、いやいやって言うのも良くない。


「きっといろいろ大変だろうけど、リクと頑張っていくよ」


 ヘルガはアンナに伝えた。


「イ、イルマは賛成です!ヘルガ様が好きな人といるといいと思います!」


 おお、イルマはオレ達のことを応援してくれるようだ。


「おめでとうございます、ヘルガ様。想いを抑えて生きていくことも人生ではございましょうが、そんな笑顔のヘルガ様をお止めできません。リク様」


 アンナは姿勢を正して深々と頭を下げた。


「一緒になってやってください。婚約されている身として面倒なことも降りかかってくると思いますが、何とぞお二人で幸せになってください」

「……はい」


 アンナの礼を真摯に受け止めた。

 ヘルガは、泣きそうになっているのをこらえていた。


☆★


 ヘルガの部屋に案内された。

 ん?執務室って言うより、ホントに住んでるようだが……


「ここ、何?」

「え?私の部屋だよ、ギルドにも寝る場所あるけど、防犯上の理由とかで宿直してるだけで、私の家はここだよ」

「そうか。ギルドに住んでるのかと思ってた」

「違うよ。あ、リクはこれからおウチどうするの?宿屋?ずっと町長の家ってわけにもいかないよね」

「家を買おうかな」

「いいね。頑張って貯めようね」

「そうだな」


 それにしても、女の子の部屋だって思うと興奮して来たな。

 ヘルガはベッドに腰掛けていた。

 オレも隣に座った。

 ヘルガが手をベッドに投げ出しているので、その上にオレの手を絡めるように重ねた。


「私の部屋に、リクがいるって何だか変な感じだよ」

「そうだな」


 鼓動が速くなっていくのを感じた。


 ヘルガが、ベッドに体重を預ける。オレも同じようにする。

 二人で天井を見上げる。子どもの声がしてうるさいはずなのだが、オレの耳にはヘルガの心臓の音しか聞こえない。


 ちょうど同じタイミングで向き合ってしまった。

 思いのほか、二人の顔が近くにあって面食らう。

 みるみるヘルガの顔は赤くなり、赤い目になってしまった。


 バサっとヘルガの肩口から黒翼が生える。

 サキュバス化してしまったらしい。

 燃えるような赤い目に、紅潮した頬。

 潤んだ瞳にはオレだけが映っている。


 ヘルガの黒髪を頭から腰まで撫でていく。 


「……髪はきれいにしてあるよ」

「うん。触ると気持ちいいよ」


 艶のいい黒い髪の手触りを楽しむ。

 ヘルガは髪に触れられるのに耐えているが、身体を震わせると同時に吐息の混じった小さな声をあげる。


 や、やばい。もうこれ止まらないぞ。


「リク、目と翼を戻してよ、リク」


 ヘルガは、力なくオレに元に戻してくれと頼むが、オレは何やら完全にネジが飛んでしまって全く止める気にならない。

 ああ、オレは誘惑されているのか。ヘルガが人間であれ、オレの理性は飛んでしまいそうなのにオレはヘルガのパッシブ能力【誘惑】を完全に食らってしまっていた。


 オレの理性にお前は黙ってろと一括して、ヘルガに覆いかぶさり、唇を奪う。


「ん……ぅ」


 ヘルガは、オレを押し上げ、両手で顔を隠した。


「……ダメだっていってるじゃない……」


 吐息混じりのヘルガの声にオレの嗜虐心が刺激され、オレはヘルガの服に手をかけた。


 そのとき、扉が力強く開けられ、豪華な服を着た貴族らしき男が部屋に入ってきた。


「ヘ、ヘルガさん!」


 貴族と、オレとヘルガの目が合った。

 

 ……【テレポート】


 オレとヘルガはその部屋から逃げ出した。


リクは、間男になりました。


※良ければブックマーク、感想、評価ポイントなどお願いします。


 更新の励みになります。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ