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2章 即死と蘇生

前回のあらすじ

みんな死にました

 ゴブリンは死んだ。少女と騎士も死んだ。

 

 ――みな同じようにクビを折られて――


 何でだ、どうしてこうなった?訳がわからない。


「何でだよ。何で死んでるんだよ。【生き返ろよ!】」


 オレの声だけが響き渡る。生きているものはオレしかいなかったからだ。

 ――だが、


「う」

「ガハッ」

「無事か!」


 少女と騎士が動き出した。

 呻きをあげた少女の手を握る。


「もう、大丈夫だ」

「う、後ろ」


 少女は後ろを指さす。


「何があるんだ?」


 ゴブリンが立っていた。え?

 ゴブリンは全員倒したはずだ。新手のゴブリンか?


 ゴブリンたちの死骸に目をやるが、そこには何もなかった。

 ということは?あれか?ゴブリンが生き返っているっていうのか?

 

「てめえら!【死ね】っていっただろうが」


 ゴキゴキゴキ。

 ゴブリンは死んだ。少女と騎士も死んだ。

 同じようにクビを折られて。


 ――さすがにオレでもわかった。

 このとんでもない状況を引き起こしているのはオレらしい。


 即死魔法の類いが使えるのか?

 加えて、蘇生魔法まで使えていたぞ。


 オレが叫んだら、死んだ。因果関係はそうなっている。

 しかし、何て言ったっけ。たしか、「みんな死んじまえ」って言ったんだよな。


 え?そういうこと?「みんな」って「みんな」なの?


 じゃあ、これでどうだ。よし、オレは【人間よ、生き返れ!】って叫ぶぞ。


「う、うーん」

「ガ、ガハッ」

 

 少女と騎士から声がする。もしかして、叫ぶ必要はないのかもしれないな。

 「意思」だけでいいのかもしれない。

 はは、しかし、なんだか疲れたな。あれ、目が回る。


「武闘家様!」


 オレはぶっ倒れた。


 ☆★


 ん、どこだここは。体を起こす。疲労感が消えないな。魔法の使い過ぎかな。ははは。蘇生と即死を何人分も使ったらこうなるか。

 

「ここは」

「馬車の中ですよ。武闘家様」


 ん?……ああ、少女と騎士の馬車か。


「無事だったんだな」

「おかげさまで。ミア・グラフと申します。よろしければ、お名前を教えていただけますかしら」

「葉山リク……リク・ハヤマというものだ」


「リク様……素敵なお名前です。リク様とお呼びしてもいいですか?私のことはミアとお呼びくださいます?」

「はあ、まあ」


 ミアは目を輝かせた。


「ありがとうございます!……リク様」


 ミアがオレの近くに来てしなだれかかる。

 一気に心の距離をつめられて動揺してしまう。

 間近でみると、上品なたたずまいの中に幼さが残っている。

 

 質の良さそうな身なりなのに化粧っ気がない。

 整った顔に大きな碧眼。

 表情の読みやすい顔からすると、まだ少女と呼ばれる年なのだろう。


「そんなに見つめられると、照れてしまいます」

「ああ、すまない」

 

 ミアは日本でいうと高校生くらいだろうか。

 鮮やかな青いドレスは華美な装飾ではないが、ツヤの良い生地を使っており、ミアに良く似合っている。

 

 ブロンドの髪を肩まで伸ばしている。

 それはそれで似合ってるんだけど、オレは金髪ヒロインならば縦ロールを押したい。


「お嬢様、そろそろハヤマ様に私をご紹介願えますか」

「そうだね、待たせてごめんね、トーマス」


 ミアがトーマスを紹介してくれた。ミア付きの騎士でトーマス・ミュラーというそうだ。また、トーマスはミアのことも教えてくれた。

 ミアはこのあたりの領主グラフ伯爵家のご令嬢とのこと。

 これから向かう街もグラフ領だ。領内の港町カリギュラから内陸の町ベケットに向かうところだったらしい。


「それにしても、リク様の体裁きすごかったですね。私が瞬きする一瞬でゴブリンを倒してしまいました」

「ええ、私も一瞬目をつぶっていたのですが、その間にゴブリンが倒れてましたから」

「ああ、ははは」


 瞬きする一瞬……二人が三途の川を渡り終えて戻ってくる時間のことだろうか。結構な時間たってたんだけどね。死んでいた時間は自分では自覚できないのだろう。

 まあ、そう勘違いしてくれてるならそれでもいいか。

 

 ふと、外に目を向けると、御者が慣れた手つきで、馬を走らせていた。

 え?あの御者も死んでなかったっけ?元気に馬を動かしているけど。


「御者も無事だったのか」

「ミア様は神聖魔法の使い手でございますからな。回復魔法が効いたのでしょう」

「いえ、回復魔法じゃなくて蘇生魔法です。一度も成功したことは無かったのに、テオが助かって良かった」


「「蘇生魔法!!」」


 トーマスと御者テオが驚いている。


「わ、私死んでいたんですね」

「しかし、蘇生魔法でしたか!魔法自体の伝承はされていても、成功しないと言われておりますが……」

「私もビックリです。法皇様でも成功していないとおっしゃっていましたから。それにテオは完全にクビが折れて死んでいるように見えましたから」

「テオ、これからミア様に足を向けて寝られないな!」

「トーマス様、もともとそんなことしてないですよ!でも、本当にありがとうございます。ミア様」


 和やかなムードである。しかし、やはりこの世界でも蘇生魔法はレアであるらしい。

 ここにいる皆がクビが折れて死に、蘇生されたなどだれも思うまい。

 そんなことがばれたら偉いことになる。オレがさらっと即死魔法と蘇生魔法使ってるなんて。

 

「まずいな。オレがクビを折って即死させ蘇生したのがバレるととんでもないことになる」


 ん?視線が集まっている――


「いま、なんとおっしゃいました?」


 まずい。思っていることが口に出てたか。


「いや、さすがミアだな。といったのだ。偉いなあ!ミアは」

「!ありがとうございます」


 頭を差し出してきたので、ごまかしがてら撫でてやることにした。ミアは顔を真っ赤にしている。


「ただ、法皇が使えない蘇生魔法を、年端もいかない少女が使える。この事実が意味することは良いことだけではないんじゃないか。ミアは直接の戦闘能力が高いわけではなさそうだ。まあ、伯爵家の娘に手を出す奴は多くはないだろうが……」


 沈黙。どうやら、度の過ぎる力が招く災いに対する危機意識っていうのは、こちらの世界でも変わらないらしい。

 

「蘇生魔法を使えるってのは、黙っておこう。ミアの安全のためだ。いいな」

「私のためを思ってくれているんですね、リク様」


 その場にいた4人はミアが蘇生魔法に成功したという「真実」を公表しないことにした。

 これで、少なくともオレが蘇生魔法を使えるというのは隠せた。

 ミアが蘇生魔法を使えるということもおそらく漏洩はしないだろう。

 

「それにしても、珍しい服ですな。リク殿。この辺りでは見ない生地のようですが」

「ああ、私の故郷の服だ」

「故郷はどちらですか?」


 ミアは興味津々といったご様子。しまった。どうこたえるかな。異世界から転生してきました、だと怪しまれるよなあ。


「ミア、私の故郷が気になるのか?」

「そうですね。ゆくゆくはお父様に会っていただくんですから、リク様のこと知っておきたいですし」

 

 助太刀した感謝でもしてくれるのかな。伯爵への面会だなんて正直堅苦しそうで面倒ではあるけど。

 しかし、ミアに故郷のことをどう説明するかな。後で調べてもわからなそうなことを適当に話しておこう。


「――海を越えたところの山奥の生まれだ」

「まあ。どこの山かしら」


 もう少し深くまで聞いてくる気だな。山の名前まで知らないぞ。こうなったら!


「――そこで、生まれたものは一定期間、諸国を巡って武者修行することになっている。それで、あちらの大陸をあらかた周り終えたので、こちらの大陸を巡る予定だ」

「まあ、厳しい掟があるのですね。そちらの国、いや村なのかしら、お名前をなんというのですか。」

「ミア。すまないが教えられない」

「え?」

「私の流派の武術は一族にのみ秘匿されているものだ。それで私の生まれた場所はいわゆる隠れ里と言われるものだ。武術が悪用されないよう、場所と名前を伝えることはできない。」

「……わかりました。他に何か一族ならではの厳しい掟などありますか。もし、一族でしか結婚できないとかであれば、私、すっぱりと諦めます」

「いや、そんな掟はない。ないんじゃないかな。たぶん」


 何の気なしに答える。トーマスが真剣な面持ちで尋ねてきた。


「――カリギュラの奥の海を渡って向こうですか?ベケット側ではなく」

「ああ、そうだ」

「そうですか!そうだったんですね!いやあ、道理で強いはずだ」


 何かを納得した様子である。


「でも、一つだけ質問よろしいでしょうか。ハヤマ様は人間ですか」


 トーマスは何言ってるんだ?普通の人間だよ、オレは。


「人間だ」

「そうですか、魔王領諸国を巡って来られたということですから、てっきり魔族かと」


 え?……しまった。カリギュラ側の向こうは魔王領か。しかし、もう話してしまったものは仕方ない。その設定で行くしかない。

でも、魔王領諸国を渡り歩いた猛者になってしまった。随分ハッタリかましているものだ。ごまかせばごまかすほどハッタリが大きくなっている。大丈夫か、オレ。

 

「ベケットが見えてきましたよ」


 御者テオが到着を告げた。オレの冒険の始まりの街だ。


ベケットの町に着きました

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