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24章  不可視の拳士

前回のあらすじ

 リクは手袋を拾ってしまい、決闘することになりました。

 マリー・シュナイダーは自室から出て行った。

 アゴで指図する。「こっちへ来い」ってとこか。


「さっさと来い、リク・ハヤマ」

「は?なんでだよ。決闘を受けた覚えはない」

「は、語るに落ちたな。白手袋を拾う、これ以上に『決闘の受諾』を意味するものはあるまい。ヒト族であれば、町民から貴族までみな知っているぞ。それこそ、頭を撫でることが『求婚』を意味するようにな。知らないものは、フフフフ、違う種族しかあるまい」


 あー、やってしまった。拾ったことを知っていれば決闘許諾。

 知らないと言えば、魔族。

 くそ、決闘が決まってしまった。


 マリーの後をついていく。銀髪をなびかせて歩くマリーに見惚れている場合ではない。

 

 なんとかならないかな。そうだ、さっき受付嬢のフリーダから聞いたことを思い出す。


「なあ、マリー」

「呼び捨てにするな、魔族」

「マリー・シュナイダー、ギルドメンバー内の決闘は禁止ではなかったか」

「ああ、それのことか。大丈夫だ。例外的にメンバー同士の闘争が認められる場合がある。ついたぞ、入れ」


 大きめの部屋の中へ。組手を取っているものや、剣術指南をしているものなどが、マリーに気づくと敬礼をした。


「今から、特別に『昇格試験』を行う。悪いが、稽古を中断し、この場を立ち去ってくれ」

「は!」


 稽古場はざわついたが、そそくさと稽古を中断し皆出て行った。


「マリー様、質問をお許しください。」


 その場にいた女剣士が尋ねた。


「何だ」

「今から行われる昇格試験、どなたが行われるのですか」

「お前も知っているだろう、武闘家ハヤマ・リク」

「……え。ヘルガ様と渡り合ったという、かの武人ですか」

「そうだ、相手は我々ヴァルキュリアが出る」

「ヴァルキュリア全員ですか!」

「そうだ、それほどの相手だ」


 会場が揺れた。


「コイツは見逃せねえな!おい、一階の奴らも呼んで来い!」

「ヴァルキュリアが出るのか!」


 野次馬があっという間に集まった。

 冒険者たちなので荒事は好きなのだ。

 それに、上位者の戦いは参考になるんだろうな。


 マリーが近づいてくる。


「これは、昇格試験という形をとるが、決闘だ。互いの主張の正しさを、決闘の流儀に乗っ取り戦わせる場だ。お前も、お前の望みを言え。……私の欲しいものはヘルガ様の身柄だ!ヘルガ様は断じて魔族におもちゃにされていいお方ではない!私があのお方をお前という魔の手から救い出す!」


 マリーはヘルガが好きなんだな。

 だから、助けようとしてるのか。

 オレから助けるために。

 だから、オレを精いっぱい挑発して、決闘を受諾させたのか。

 

 ――ヘルガには心を預けられる人がオレの他にもいたんだな。


「何を笑っている?」


 そうか、オレは嬉しいのか。


「……マリー、お前さ」

「マリー様、だ」

「うるせえ。大事な話だ、黙って聞けよ。……ヘルガのことだ。」

「……なんだ」

「あいつの秘密を知っているか」

「どういうことだ」


 いぶかしむマリー。


「……オレは魔族ではないが、ヘルガは魔族だ」

「ハハハハ、何をバカなことを!最も魔族を斬った剣士ヘルガ・ロートが魔族だと?笑わせるな、そんなデマ、だれが信じるというんだ。悪質なデマだろう」


 デマか。

 オレとヘルガの決闘でヘルガが魔族化したことを機密としたが、ウワサとして流れているらしいな。

 

 そして、マリーはヘルガが魔族であることを信じない。デマであると思い込む。

 信じたくないからだ。


「正確には、魔族化することがある、だ」

「バカバカしい、そんなウワサ……」


 マリーの肩をつかむ。


「あいつの笑った顔を見たことあるか。泣いた顔を見たことがあるのか」

「それと魔族と何の関係があるんだ」

「感情が激しくなると魔族化するんだ。あいつはサキュバスになってしまう。だから、それを必死で押し殺して生活しているんだ。泣かないように。笑わないように」

「……ウソだ」

「お前も、子爵家も魔族であるヘルガを認めないだろう。だから、オレが奪うんだ」


 マリーの肩を持つ手に力が入る。


「い、痛いわ」

「マリー、お前に邪魔はさせないぞ。ヘルガが魔族だと、魔族でもいいんだと、お前が認めない限りな。オレの望みは、お前がヘルガと金輪際近づかないことだ」

「……なんだと、そんなこと認められない!」

「フン。負けなければいいだろう。そうだな。オレは優しいから他の提案もしてやろう。お前もオレのものになれ。二人とも仲良くオレが可愛がってやるぞ。クハハハ」


 正直、別にマリーが欲しいわけじゃない。

 人に決闘を望む以上、マリーも覚悟を見せろって話だ。


「私は負けるつもりはない、ただ、ヘルガ様から離れることは私には出来ない……。その時はお前のものになろう。私が、お前のはけ口となれば、ヘルガ様が一時でも安らかであれるだろう」


 こいつは、オレをどんな性欲モンスターだと思ってるんだ?

 オレけっこう優しいんだぞ。なんだか傷つくな。


「来たか。ヴァルキュリア達」


 オレの手を振り払うマリー。

 いつの間にか、武装した女性冒険者たちがマリーの横に整列している。

 みな容姿端麗。ひいふうみい、9名もいるんですが。


「あの、決闘って1対1じゃないの?」

「ヘルガ様に認められたお前を、一人で相手できるわけないだろう。ヘルガ様には10名でかかっても敵わないくらいだ」

「何か卑怯じゃない?」

「うるさい!負けるわけにはいかないんだ!……そろそろはじめようか。判定はAランク冒険者ヒルト殿にお願いしてある。平等な判定をするはずだ。実況は、Bランク冒険者フーバー殿にお願いしてある。昇格試験は、貴重な勉強の機会でもあるからな」


 ヘルガの時にも思ったけど、こいつらエンターテイメントとして見てやがるな。

 まあ、他のエンタメ少なそうだからな、この町。


「リク、お前何やってんだよ!」


 先ほどご飯をごちそうになったルーカスが声をかけてくれた。


「おれは何も悪いことはしてないんだが……逆恨みされてるって言えばいいのか……」

「昇格試験に真剣使うなんて聞いたことねえぞ!ヴァルキュリアのやつら、リクを殺す気だぞ。おかしいぞ、これ。昇格試験なんてもんじゃねえよ!」


 ルーカスは心配してくれてる。いい奴だな。


「でも、しょうがない。あいつらにも譲れないものがあるんだろう。見ててよ、負けないからさ」


 もう、戦うしかない。

 実況のBランク冒険者フーバーが小さな石に魔力を込めた。拡声器だ。


――さあ、今から行われるリク・ハヤマの昇格試験! 異例中の異例! 一人の武闘家に対し、Bランク以上の女性10人で構成されるヴァルキュリア。そのヴァルキュリアが全員で挑むッ! これを異例と言わずして、何が異例か! そこまでさせる相手、リク・ハヤマ!


 歓声が沸き起こった。どうやら、オレは有名人だったらしい。


――あの決闘でヘルガ様に認められた、一夜にしてスター街道を駆け上がった男! リク・ハヤマが冒険者ギルドに舞い降りた!


 あまり派手な紹介は照れるんだが。


――対するのは、全員がBランク以上、全員が美女! モンスターすら魅了する、我らがベケットの町が誇るチーム:ヴァルキュリア! 紅蓮の剣士ヘルガ・ロートの手足となり、高難度依頼をいくつも成し遂げている! ヴァルキュリア筆頭、ヘルガ・ロートの右腕マリー・シュナイダーのこの試合にかける意気込みは尋常じゃない! 殺す気で挑む! そう言っていたマリー・シュナイダー!


――両者見合って、先に仕掛けたのは、ヴァルキュリア! 四方八方から、剣、槍、矛で襲い掛かる! これは、リクも防ぎきれないか?


【煙幕】

【テレポート】


――激しい攻防に煙が舞い上がった! リクはあの攻撃を耐えられたのか?

 

「どこに消えた!」


 突き出した剣の先にいると思っているマリーの裏に回って、


「ここだよ」

「な、なにぃ!」


【奥義の1 大鏡!】(ヴァルキュリアを上から押しつぶせ!)


「あああああああああああ!」


――な、なにが起こった? ヴァルキュリア全員、倒れている! リク・ハヤマは堂々と大地を踏みしめ、右手を上げた。勝者は、リク・ハヤマ! あいつの動きが見えたものはいたか? あいつは見えない、あいつの動きが見えた時にはすべてが終わった後だ! 不可視の拳士、リク・ハヤマ! お前らは、伝説の始まりを見た! 今日という日を、誇るがいいッッ!


 割れんばかりの歓声に包まれた。


リクの伝説のはじまりです。

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