23章 あなたに決闘を申し込むわ
前回のあらすじ
ヘルガは目を覚ましました。
遅く起きた朝だ。
ドラゴンは結構強かったので、ゆっくり眠る権利くらいあるみたいだ。
ウチの嫁たちはぐーすか寝てるオレを放っておいて各自働きにでるくらい働き者だ。
なぜ、オレが町長とサシ飯しなきゃならんのだ。
くそう、もうちょっと早く起きてみんなとご飯食べたかったのだ。
まあ、いいか。亭主が寝てても自発的に働いてくれる嫁ばかりで助かる。
しかし、町長とも仲良くやっておきたい。
なんたって、オレは居候なのだ。
おまけに嫁は3人もいて部屋をいっぱい使う。
だんだん朝飯のクオリティが下がってるのはとっとと出ていけというサインだろうか。
食卓にマメしかないんだが。
ちくしょう、早く家を買おう。
起きると、ミアからの手紙が置いてあった。
「ラウラちゃんには貴族のヨメたる立ち振る舞いを学んでいただきます。あと、お父様がうるさいのでいったん帰ります。その間、健康に気遣ってください。女遊びはほどほどにしてくださいね。あ、あと私が戻ってきたらデートに行きましょうね」
要約するとそんなことがつらつらと書いてある手紙をもらってしまった。
読めないので、町長に読んでもらったのだ。
なんとなく気分悪いので、あとでミア本人から読んでもらおう。
手紙のメッセージはとても愛情のこもったものだったからね。
ミアはオレの嫁の中で一番年下なのだが、一番偉そうだ。
「私が、お二人に貴族のヨメとはなんたるかを教えておきますからね!」
いや、別にそんなのはいいのだが。
ヘルガもラウラも、貴族のふるまいなど知らないだろう。
まあ、ヘルガに関しては、小さい頃のことなので覚えていないだろう。
「リク様もこれから貴族としてふるまっていくのですから、ヨメにも奥様たる振る舞いがいるのです!」
と力説してあった。
いや、正直貴族の世界は知らんのでミアが教えてくれると嬉しいが。
ヘルガもラウラもいい子なので、あまり口うるさいのは勘弁してほしいな。
町長との朝ごはんを早々に済ませると、冒険者ギルドへ行くことにする。
フフ、やっぱり冒険者ギルドは心躍るものだ。
町長の屋敷は奥のほうだが、冒険者ギルドは比較的町の真ん中、町の関所に近いほうにある。
モンスターの侵入にいち早く対応するためらしい。
この小さな町ベケットにも高い壁を作らなきゃならないほど、この世界はモンスターの脅威に晒されているのだ。
冒険者ギルドの質は、町の防衛の質であると、町長は言っていたな。
常設の警備はほぼ門番しかいないらしいからな。
ギルドへ到着。扉を開けて、中に入る。
右手は、酒場か?食堂も兼ねているのか、広めの作りになっていて、食事を済ませているものもいれば、エール片手によろしくやっているものもいた。
朝っぱらから飲むとはご機嫌だな。
1階奥には、何やら人が集まっているが、左手にカウンターがあり、受付嬢と目が合ったので、まずはそちらと話そう。
「はじめての方ですよね」
「……そうだ」
「では、ご説明いたします」
受付嬢は、フリーダ・ベッカーと名乗った。
笑顔の素敵な子だ。
とても丁寧に、冒険者ギルドのシステムについて教えてくれた。
まず、冒険者登録。
登録すると、ランクが定められそれに応じた依頼が出来るようになる。
依頼は掲示板を見てチェック。受付嬢に話して依頼を受ける。
依頼は難易度に応じて、報酬も変化する。
ランクは活動実績によって昇格できる。
S、A、B~Fまである。新人はFかららしい。
Cランクがベテラン。A、Bランクは町に数名、Sランクは国に一人いるかいないかであるとのこと。
ヘルガはSランクなので、個人としては最強戦力である。
ヘルガは頑張り屋さんだなあ。
とか思いながら、受付嬢の説明をボケーっと聞いていた。
まあ、わからなければ後でヘルガに聞こう。
「では、冒険者登録をしますので、お名前をお願いします」
自分で書くのかと思ったが、違うみたいだ。そもそもオレはこっちの文字は読めない。ただ、これは多くの冒険者も同じらしい。識字率は相当に低いだろう。
オレの知り合いの中で、字が書けるのはミアと町長だけだ。
「リク・ハヤマ」
「え?……あなたがリク様でございましたか。ヘルガ様をお呼びします。」
受付嬢から食堂で待っているように言われたので、その通りにする。
腹が鳴った。町長の家でマメしか食べてないからな。
「あんた見ない顔だな」
「最近ベケットに来たからな」
「それで腹を空かしてるのか」
町長の出してくれたご飯がマメだけだったからな。
「……今、なんだか珍しい肉が大量に食堂にあるらしくてよ、精力がつくって言うんでみんな頼むんだ。すげえ安いしな」
「……ドラゴンの肉とかか?」
「ん?……案外そうかもしれないな。みんな食ったことがないって言っててよ。まあ、珍しい飯だがうまい。おごってやるから食えよ」
ありがたい。目の前に置かれたのは、あのみじん切りだ。
そりゃ精力つくだろ。
結局あの大量の肉は食材にすることにしたのね。ミアの仕業だろうな。
仕事が速くて助かる。
「遠慮なくいただくぞ」
手頃な大きさにカットされた肉の横に付け合わせのマッシュポテトのようなもの。
ソースの作り方はよくわからないが、グレービ―ソースのように肉汁を有効活用してあるのだろう、肉を炒めた香りが食欲をそそる。さっぱりさせるため、柑橘系の汁も絞ってある。
鶏肉に近い感じで食べやすい。あっという間に平らげてしまった。
しかし、お金なにも持ってないな。
「お礼に、こんなものしかないが」
「え?宝石か、これ!」
ダイヤの小さなものがポケットに入っていたので渡す。こんなもの無限に作れるのであげてしまおう。
ごはん、おいしかったし気持ちが嬉しかった。
男は驚いている。
「おごってやったのに、飯より高そうなものもらえねえよ」
「なあに、これからも世話になるからな。オレはこの大陸に詳しくない。あんたオレより年上だろ。その年でしぶとく生きてるんだからベテランの冒険者だろ。狩場の情報など、教えてもらいたい」
「はは、世渡り上手だな。それなら、高すぎることもねえか。ルーカス・リヒターだ。クラスは、『狩人』。ほどほどに冒険者やっていく知恵は誰にもまけないつもりだぜ」
「たのもしいな。リク・ハヤマ。旅の『武闘家』だ」
「最近どっかで聞いた名前だな」
受付嬢が戻って来た。
「リク様。2階へおあがりください。ギルドのサブマスター『マリー・シュナイダー』様がお呼びです。」
「え?ヘルガじゃないの?」
「ヘルガ様は所用で出かけられているとか。マリー様がお呼びです」
「うん。わかった。じゃあ、また、ルーカス」
「ああ……いきなりサブマスターとご対面って何かやらかしたのか?」
「うーん、サブマスターに用はないんだけどな。登録できたから、ヘルガと仕立て屋に行きたいだけなんだけど。まあ、いいや。行くよ、フリーダ」
オレは、受付嬢フリーダの案内するままに、2階へ案内された。
☆★
フリーダがノックをする。ギルド幹部には個室が与えられるらしい。フリーダがノックをしたのは、ヘルガの部屋の隣。
「入れ」
中に入ると、サブマスター『マリー・シュナイダー』がこちらを睨んでいた。執務机から立ち上がり、こちらの近くへ。
腰まで伸ばした銀髪が映える長身の美人。黒を基調とした仕立ての良さそうな服が育ちの良さを思わせた。
「貴殿がリク・ハヤマか。ヘルガ様との決闘で、力を認められた、という話が流れているが。本当のところはリク、貴様がヘルガ様を倒し、ヘルガ様の身柄をもらい受けたと聞く」
「さあ、どうだったかな。入場許可はもらえたが、あとのことは知らない。町長か、ヘルガ本人に聞け」
「貴様ごときが、ヘルガ様を呼び捨てにするな!」
執務室の壁を怒りに任せて叩いた。相当怒っているらしい。
「どうやって、あのヘルガ様を倒したというんだ。レベルは、3、クラスもなしの人間が!どのような卑怯な手段を用いたのか。下衆が!毒か、罠か。それともレベルとクラスをごまかしていたというのか。答えなさい、魔族リク・ハヤマ!」
オレを完全に魔族扱いしている。
「ああ、可愛そうなヘルガ様!……誇り高いヘルガ様は決闘の後、ご自分を魔族に差し出したと聞く」
「魔族ってオレのことか」
「……代われるものなら私が代わってあげたかった。魔族の男に自分の体を弄ばれたヘルガ様」
「は?」
「……丸二日も寝込まれるような、屈辱を、凌辱を!お前が与えたのだろうが!決闘の夜にこの薄汚い魔族からどれほどの下卑た欲望をぶつけられたのか!ヘルガ様の愛しき清廉なる白百合を踏み散らした魔族を、リク・ハヤマを私は許してはおけない!……こんな体では子爵家には嫁いではいけないと、私に泣きながら語ってくれたヘルガ様の名誉を回復するために、私、マリー・シュナイダーはあなたに決闘を申し込むわ!」
パシィッ…
マリーはオレの足元に白手袋を叩きつけた。
ヘルガは決闘で疲労で寝込んだだけで、オレが弄んだから寝込んだわけではないぞ。
とはいっても、素直に聞いてくれるとは思えないが……
「おい、ちょっとは話を聞けって。オレとヘルガは」
話しながら、オレは手袋を拾う。
「拾ったわね!いい度胸だわ!リク・ハヤマ。決闘よ!」
リクはマリーと決闘することになりました。
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