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22章 おはよう、ヘルガ

前回のあらすじ

 ドリルモグラに殺されかけました。

 ダイヤは女性陣に好評だった。

 こんなキレイなもの見たことない! とのことだったので、儲けること間違いなしだ。

 しかも炭から出来るので仕入れは実際ただみたいなものだ。


 ドラゴンの魔石もあるし、ダイヤもあればしばらく気楽に暮らせるだろう。

 しかし、嫁が3人いるのだ。

 稼がなければいけないのだ。養っていくのは大変なのだ。


 コトン、コトン。

 

 街道が馬車を揺らす。

 ネコ族の町からベケットの町へ。


 ミアもラウラも疲れて寝ている。


 こっちにミア、オレ、ラウラで座って、反対にトーマス。

 トーマスが広々使って偉そうだ。


 しょうがない。

 ラウラもミアもオレの隣を譲らなかったのだから。

 

 ふわわ。オレも疲れたなあ。

 なんだかんだ戦闘続きなので、正直ゆっくりしたい。

 

 小気味いリズムで揺られながら、もたれかかっているミアとラウラの温かさを感じた。

 

 少し重たいが、この重さを愛の重さとして受け止めようじゃないか。


 ☆★


 ベケットの町長の屋敷へ。

 

 正直くたくたでご飯はいいや。

 皆賛成したので、とりあえず仮眠だ。


 寝てしまってもいいのだが、ミアが夜にもヘルガが目を覚ますといっていたので、すこし仮眠を取ったら起きておこう。

 

 使用人に酸味の利いたお茶をリクエスト。

 目が覚めるのでちょうどよい。


 ふぁあ。

 お茶を飲んでもやっぱり眠いな。


 ☆★


 ――ん。あら、寝てしまった。

 いつの間にか毛布が掛けられている。


「……リク、起きたの?」


 少し会ってないだけなんだけど、すごく久しぶりに感じる。

 決闘の時よりも随分柔らかな声だ。

 落ち着いた声。本来の話し方なんだろうな。


 ゆっくりと振り向く。

 ヘルガだ。

 ……病み上がりだというのに、ヘルガはきちんと紅を引き、朱色の装束に着替えていた。

 凛とした姿のヘルガ。

 

 決闘した時のまんまだ。

 

 こいつ起きてからわざわざ着替えて、化粧してオレが起きるの待ってたのか。


「ヘルガは……」

「……何、リク」

「オレに会うから、化粧したのか」

 

 上目遣いでオレを覗き込むヘルガ。きっとヘルガなりにきっと頑張ったんだろう。


「……私、がんばった」

「ははは。偉いぞ、ヘルガ」

「なんだか、子ども扱いしてない?」


 ――ごめん、ごめん、むくれないでよ。オレと正面の前の椅子に座った。


「そんなことないってば。その服似合ってるよ」

「……これね、私がデザインしたんだよ」


 くるりと回るヘルガ。

 基本の動きが、身のこなしが洗練されており、ちょっとした動きでもヘルガは舞っているように見える。


「案外、器用なんだな」

「案外は余計。……お母様が教えてくれていたんだ。貴族でなくても生きていけるように」

 

 ヘルガの頑張りを、案外って言葉で終わらせたのは悪かった。


「お母様譲りか。ヘルガのためになることを教わってたんだな」

「一人で何でもできるようにね。ふふ、そんな私が、誰かと一緒にいたいって思うなんてね」


 一緒にいればいいと思う。それは別に、オレでなくても。

 ――まあ、やっぱりオレと一緒にいるのがいいよ。


「とても似合ってていい服だと思うけど、戦闘中以外は他の服着たらどうだ?」

「……この服以外、持ってないの」

「へ?持ってないことないだろ」

「もう……リクに見せたい服がないの」


 ヘルガはなじるような視線を送ったあと笑ってくれた。

 少しふくれたような仕草を見せながら、それでも怒ってないよないと伝えてくれる。

 ヘルガは誠実に自分の気持ちを伝えたいのだろう。

 それが嬉しいので、オレも笑いかけてやる。


「私に服なんて必要ないって思ってたから可愛いのがないの。そりゃ、パジャマとか作業用の服はあるけど。そんなの着たくないよ」


 仕事一本って感じだったものな。

 この服は戦闘用の服だけど、ヘルガの一張羅だったんだね。


「じゃあ、明日さ、服を仕立てに行こうか、オレもローブだと熱いし」

「ほんと?家用の服とか、町用の服とか、いっぱい欲しいんだ」


 オレもいくつか仕立てておこう。

 町長に借りたローブは動きづらいし、何しろ武闘家っぽくないからな。


「あ、でもギルドに行ってからでいい?仕事が溜まってると思うから」


 冒険者ギルドのギルドマスターともなればそれなりに大変だろうけど。


「うん。じゃあ、終わるころに迎えに行くよ。オレも冒険者ギルド行きたいし」


 せっかくなので冒険者登録したいし。


「うん、おいでよ。仕事はそれなりに多いけど、みんないい人だよ」

「病み上がりなんだから、無理するなよ」

「わかってるよ。でも、ミア様の睡眠魔法に薬湯までいれてもらったから、調子はいいよ」


 グルグル肩を回してアピールしてきた。


「あれ、風呂も入ったの?」

「うん。リクが寝てる間に入ったよ。リク結構長い間ここで寝てたんだよ」

「そっか、オレも一緒に入りたかったんだけど」

「……私、リクのものだけど。まだダメだよ。ちゃんと子爵家との縁談、断ってくるからね」


 ヘルガはとことこと歩いてきて、隣に座って、オレの手をぎゅっと握った。

 

 目をつぶってみる。


「もう……ダメだよっ、て今言ったんだよ……もう」


 と言いながらもキスをしてくれた。

 

「あ、そうだ」


 ヘルガは何かを思い出したように離れる。


「ミア様と一緒にお風呂に入った時に話したんだけど」

「うん」

「ドラゴン倒したり、ゾンビ倒したり大冒険だって聞いたよ」

「そうなんだよ。のんびり薬草を採りに行くはずだったんだ。ピクニック気分で外に出たのに、冒険者と戦って、ゾンビと戦って、ドラゴンと戦って、死にかけて大変だったよ」

「……リク。私、リクが死にかけたって言うのは聞いてないよ」


 ヘルガが強く抱きしめてきた。

 

「リクがすることについて、私は何も言わないけど、危ないことはやめてね。冒険者としての仕事だって危ないのはダメだよ。私もお仕事頑張るから、簡単な仕事だけにしてね」


 ぽたぽたと涙を流すヘルガ。


「危ないのは、私が様子を見に行くよ。リクの奴隷なんだから。だから、危ないことをするときに置いてくのは、なしだよ。どこに行くのも一緒だよ。……ひとりは嫌だよ」


 大きな瞳いっぱいに涙を溜めているヘルガ。

 自分を抑えていたのだろうが、瞳の色は深紅へと変化している。

 黒翼も生え、どこから見ても魔族のヘルガ。


 その姿を見て、愛しいって思うのはヘルガがサキュバスであるからだけではないと思う。


「ごめんね。ドラゴンと戦っているときに油断しちゃったんだ」

「……ドラゴンと戦って油断したらダメじゃない」


 ホントはモグラにやられたんだけどさ。

 オレもなんとつまらない見栄を張るものだ。


「でも、オレもヘルガに危ないことはさせられないから。オレの奥さんになるんだから」

「……奥さんにしなくても一緒にいるけど、いいの?ミア様もリクのこと好きみたいだよ」

「うん。二人とも奥さんになればいいじゃない」

「……私はいいけど、ミア様が嫌じゃないかな」

「いいの、オレが決めたの」


 子どもみたいにダダをこねてみる。


「結婚しようよ、ヘルガ」

「……好きにしたらいいよ。私をどうするかはリクが決めていいって話でしょ」

「嬉しい?」

「……嬉しい」


 満面の笑みで体重を預けてくるヘルガを抱きしめた。


「あ。でも、さっさと婚約破棄してくるからそれまでは待っててね」

「……そうだな」


 ヘルガを立ち上がらせる。


「明日も早いからもう寝ようか」

「うん」


 ヘルガの部屋まで連れていく。部屋に入っちゃダメと言われたので大人しく部屋に戻る。

 

 ……でも、子爵家との婚約破棄はそれなりにもめる可能性があるんだよな。

 だから、ヘルガを守る必要があるし、そのためには金もいる。

 

 出来るだけのことはしておこう。


ヘルガが目を覚ましました。リクは決意を新たにしたようです。

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