21章 錬金武術高温高圧法
前回のあらすじ
アースドラゴンを倒しました。
アースドラゴンのみじん切りが、その場を埋め尽くした。
あー、緊張した。オレの魔法の効果範囲を検証したことないんだよな。
前に冒険者たちを眠らせたときにしか、範囲を意識してないからな。
何にせよ、能力の検証は必要そうだな。
「な、何が起きたんですか……」
ミアが呆然とつぶやいた。
「ドラゴンが、消えた?」
「このみじん切りはなんなん?」
ラウラ達はドラゴンが消えたと思っているようだ。
そのみじんぎりの肉がアースドラゴンだけどね。
あ。戦うので必死で武闘家するのを忘れていた。
今更感が漂うがやっておこう。みんな、なんとなくこちらを見てるからな。
「ハアアアアアアアアアアアア!」
【閃光と煙を頼む!】
ピカピカ、モワモワしている。
「奥義、水鏡!」
辺りを煙が漂っている。取って付けたようにフウ、ハアアと呼吸を整える。
「リク様が、アースドラゴン全てを倒したのですか?」
「ああ、手加減できなかったからな」
「何が起こったか、何も見えんやったよ?」
「相手が強ければ強いほど、効果を発揮する秘奥義だ。鏡の名を関した秘奥義の3つ目。自分と相手とを相対化し、相手の攻撃を力に変えることができる。アースドラゴンが強かったからこそ、大きな破壊力を生む技だ」
ウソは言ってない。相手の魔力がデカければデカいほどエナジードレインですごい魔力を行使できるからな。
「信じられんけど、ドラゴンがおらんくなっとるもんね」
「とりあえず、長居は無用だ。フリオも疲れているだろう」
「……助太刀、感謝する。この御仁はラウラが連れてきてくれたのか」
「うん。旦那さまだよ」
「……へ?……は?」
ラウラも空気を読めよ。
兄弟の感動の再会に、いきなり旦那を紹介するな。
「そ、そうだったのか。少し寂しいが、オレを倒せるものしか嫁にやらんとか兄ちゃん言いたかったぞ。ただ、アースドラゴンを倒したから文句も言えないな」
気持ちはわかる。オレもフリオの立場なら妹が欲しいならオレを倒せ! とか言いたい。
「まあ、つもる話もあるでしょうけど魔石を持って帰りましょう。ドラゴンの肉も利用価値がありそうですが、こんなに細切れだと役に立ちますかね」
ミアは割としっかりしてる。驚きながらも金勘定ができる女だ。頼もしいぜ。
魔石を拾って、一か所に集めておく。持てるだけ持ってあとはミアの指示で回収班を出すらしい。
みんなでわあきれいとか言いながらドラゴンの魔石を拾っていた。
後から思えば、完全に油断していた。その場にあって大きな脅威を排除したとこだったので、みんな緊張の糸が緩んでいたのだろう。
そうじゃなければ、ラウラやフリオが気付いていたと思う。
オレは、アースドラゴンが眷属を引き連れている可能性を完全に忘れていた。
ドン!
腹部に衝撃があった。
腹部に鋭利なツメが突き立てられており、完全に貫通していた。
や、ばい……
ブツン、と意識がなくなった。
☆★
目の前に小川。
アースドラゴンが手招きしている。
あんなに笑顔だったっけ?
「おい、早く来いよ。リク、待ちくたびれたぜ。」
オレとアースドラゴンは少なくともそんな仲じゃなかったはずだ。
その周りにはネコたちがいる。
「リク様、蘇らせてくれてありがとうございました。少しの間だったけど、ネコ族のみんなとあえて楽しかったです」
いや、ゾンビにしてしまったのを感謝してもらっても困る。
「早くこっちに来ましょうよ、こっちはかゆくて、何も考えられなくて、気持ちい、いですよ、うぁー、かゆいかゆ・・・」
手や足がもげだしたネコたちがオレにまとわりついてくる。
や、やめろ、やめろ!オレが悪かった!
アースドラゴン殺したのは仕方ないけど、他のネコ達ゾンビにしたのは謝る!謝るから!
そのネコたちをかき分けて現れた二匹のネコが、オレをネコ地獄から引っ張り出してくれた。
「ラウラちゃんをお願いしますね。リク様」
「フリオに、怒ってないって伝えてくれますか」
ラウラ達の友達かな。
「助かったよ。ラウラとフリオに伝えておく」
「早く行って、僕たちが抑えておくから」
「振り向かないでね、ダッシュで走り抜けて!」
「わ、わかった!」
オレは振り返らずに走り出した。
夢かなって思ってたけど。
振り返るなって、絶対ここ黄泉路じゃねえか。ヨモツヒラサカだっけか?
冗談じゃない、死んでたまるか!何があっても振り返らないぞ!振り返ったら戻れないからな!
オレは、足が動く限り走り続けた。
クソ、最近どこに行くにもテレポートしてたからとんでもなくキツイ。
畜生、鍛えてればよかったなあ。
周りからはいろんな誘惑が飛んできてた。
「リク、ごはんよ」
オカンはまだ死んでねえ!少なくともオレが死んだときには生きてたはずだ。
「リク様」
ミアやヘルガ、ラウラの声がしてきた。
「オレのヨメたちが待ってるんだ!死んでたまるか!」
☆★
がばっと起き上がった。ミアとラウラがベッドの側にいた。
「リク様!」
二人が手を握ってくれていた。
「……びっくりさせないでくださいよ……」
「ミア様、ずっと回復魔法を使ってくれていたんですよ」
「本当に、目を覚ましてくれてよかったです」
心配かけたな。
「ごめん。それで、オレに攻撃した奴は倒せたの?」
「うん、あたしが倒したよ。ドリルモグラ。」
モグラだったの?
「リク様、力を使い果たしていたんですね。アースドラゴンを倒した時に本当は倒れそうだったのに、私たちを気遣ってくれていたんですね」
ミアが勘違いして感動している。
「ありがとね、リク様。ドリルモグラにやられるくらいだから相当疲れてたんだね」
「あ、ああ」
ラウラの口ぶりから判断するとドリルモグラってそんなに強くないんだね。
オレの防御力ってスゴイひ弱なのかもしれない。文化部だからな。
「ふう、それにしても傷ひとつ残ってないけど、回復魔法かけすぎてない?ミアは回復魔法消極派だったよね」
「身体に穴が空いてたら、さすがに魔法使いますよ、それにドラゴンの魔石もありましたからね」
「ミア様、狂乱して必要以上に魔石使って全力で回復魔法使ってたんですから」
「ムダ使いしないように師匠からも言われてるんですけどね……いざ、自分の旦那様がケガをするといてもたってもいられなくて……」
「ありがとう」
ミアを撫でてあげる。ラウラがぴょこっと頭を出してきた。
平等にしないとな。
「よしよし」
「ふふふ」
「ニャ」
二人ともありがとな。
「ラウラ。友達に会ったよ。ラウラをよろしくって言われた。あと、フリオに怒ってないって伝えてくれって」
「……そっか」
ラウラにはそれだけで誰のことか伝わったはずだ。
「……いい話ですねって、リク様それ、死にかけてるやつじゃないですか!」
「うん、危なかったかも、アースドラゴンとかいたし」
「……もう、とりあえず、良かったですけど」
「まあ、ミアのおかげで体調もいいし、ベケットに帰るか。そろそろヘルガも起きてるんじゃないか」
「あ、ヘルガ様には睡眠魔法をかけてまして、ちょうど今日の夜くらいには目覚めると思いますよ」
「ヘルガ様?」
ラウラは知らないか。
「オレの嫁さんだよ」
「……ニャッ」
驚いたようだ。
「あ、私が一番目の奥さんですからね」
何を張り合っているんだミアは。
「どんな人なん?強い?ん?……ヘルガっち、もしかしてヘルガ・ロート?」
「ええ、ベケットの町が誇る、紅蓮の剣士ヘルガ・ロートですよ」
「ニャッ、えー、会えるん?」
なんだか嬉しそうだ。
「知ってるのか?」
「えー、有名よ?それに、ネコ族は戦士を尊敬しとるんよ。強い人好き」
知ってるなら良かったな。この様子だとうまくやってくれそうだ。
「じゃあ、帰る準備しようか。」
「はーい」
「あ、ラウラ」
「なーん?」
くるりと振り向く
「焚火の炭集めてくれない?」
「なにするん?肉焼く?ドラゴン?」
うまいのか、あれ。
「いや、ちょっとね。お金儲け」
「おー、リク様商売とかすると?旦那様はそんなセコセコせんでもいいよ。たまに狩りに行ってくれれば。内職はあたしがするけんね。旦那様はいざって時に守ってくれればいいんよ?」
アマゾンの部族みたいな価値観で生きてやがるな、この娘は。
まあ、いいけど。ドラゴンの魔石も売れるんだろうけど、家が欲しいんだよね。
金があるに越したことないだろう。
「リク様、もう起きたんですか?」
トーマスがふらっとやって来た。
「お前、心配してるのか」
「ドラゴン倒した人を心配するんですか」
まあ、モグラにやられたんだけど。
「リク様、持ってきたよ」
ネコ族が大勢で、炭を持ってやって来た。
それでは、働きますか。
「いまから、錬金武術を行う」
「なんですか、錬金術?」
トーマスが炭を見ている。
「錬金武術だ。有機物の中にある「C」に気を集めて、大きな「C」を作る」
「いや、言ってる意味がわからないんですけど」
オレも詳しくって言われるとわからない。
【錬金武術、高温高圧法!】
グッと拳を突き出した。
炭が木っ端みじんになった。
「す、すごい、なんだこれは!」
「トーマス炭のあとを探してみてよ」
トーマスがおそるおそる炭のあった場所を探る。
「これは、なんだ?光ってますよ」
わはは、ダイヤができた。
リクは黄泉路から生還しました。