20章 ドラゴン殺し
前回のあらすじ
ラウラの兄を助けにドラゴン退治に来ました。
ネコミミ族のラウラの兄は剣闘に勝ち、歓声を得た。
ドラゴンたちは満足そうに雄たけびを上げる。
8体ほどのドラゴンたちの咆哮で小石が飛んで行った。
ラウラはその叫び声を聞いて委縮してしまっている。
動物は強いものに逆らえないというから、ネコ族であるミアも本能的に恐怖を感じやすいのだろう。
「ラウラ、まだ動くなよ。8体以上いそうだからな、隙を見つけよう」
ラウラが気圧されないように目を光らせ体を震わせているので、落ち着かせるために声をかけた。
「う、うん」
ラウラの震えはまだ収まらない。ミアがラウラの手を握ってあげた。
「大丈夫だよ、ラウラちゃん。お兄ちゃんはリク様が助けてくれるからね」
「う、うん」
「リク様、抱きしめてあげて」
ラウラを胸の中で抱きしめた。体温が伝わるように震えが収まるように強く抱きしめる。
「兄さんがまだ生きててよかった。絶対助けるぞ」
「……うん」
普段は絶対など強い言葉は使わないが、ラウラを落ち着かせるためだ。
自分に言い聞かせているのもあるけど。
「ミア、あのドラゴンのこと何か知ってるか」
「体表の色を見ると、アースドラゴンのようですね。醜悪なる豊穣神などと呼ばれます。土を司っており、ドラゴンが坐した大地を肥沃にするなど、いわば神扱いされています。アースドラゴンが来ると豊作になるので、基本的には喜ばれます。知恵もあるので、対話は出来ると思います。ただ、人間や亜人を好むのに、というか好み過ぎてといいますか、捕まえて、生きたまま皮をはいだり、殺し合いをさせたりするという伝承が残っています。」
「現にいま殺し合いをさせてたからな」
「あいつら、遊び半分で殺すんよ……赤ん坊でキャッチボールとか……友達はお湯の中に突っ込まれて煮られたんよ……」
ラウラが言い淀みながらも話してくれた。ゆっくりと立ち上がった。
支えようとしたが、断られた。自分でしっかり立てるならそれでいい。
「こちらを害しようとするタイプなら、対話に臨むリスクが高い。オレが、気を引いてお兄さんを連れてくるから、その間に逃げろ。あのさ、ミア。逃げられそうになかったらドラゴンって殺しても構わないよな?」
「ドラゴンですからね、そうそう、死なないでしょうけど……リク様ならもしかしたら……殺すと不作になると言いますね。餓死者も出るかもしれません。厄介なモンスターですが、土魔法やらで土地を肥沃にしているのは事実です。領主であるお父様は、殺してほしくないでしょうけど……」
「地域経済の話よりオレはラウラのお兄さんを助けたいかな」
「リク様らしいですね。政治的課題はお父様に任せてしまいましょう。きっと何とかします」
ミアは父である伯爵を信頼しているようだ。
「なあ、ミア。ドラゴンにも魔石ってあるのかな」
「もちろん。モンスターですからね、規格外の大きさでしょう。小型の翼竜のものなら見たことはありますが、もちろんアースドラゴンは見たことありません。というか、見たことある人はいないでしょうね」
「じゃあ、魔石を取れば」
「ええ、ドラゴンといえど死ぬでしょうね。まあ、魔石を取れるような状況であれば、すでに倒しているでしょうけど」
よし。頭の中でドラゴンを殺すイメージを固めておく。首を折っても死ななそうだからな。
体表をぶち抜いて魔石を引きちぎって奪う。
よし、助けに行くよ、ラウラ。
? どこだ?……ラウラ!
オレがイメージトレーニングしている間に、ラウラはオレの側を離れ、ラウラの兄のところへ走りだしていた。
比較的小型のドラゴンが突如、兄へ飛び掛かるのが見えたのだろう。
ドラゴンは何の気なしに尾や、爪をふるい、ラウラの兄へ攻撃する。
ネコ族である兄はさすがの身のこなしで直撃を避けていた。
「お兄ちゃん!」
ラウラが兄のもとへ駆け寄る。
「……ラウラ、ラウラか!」
兄は跳躍し、かばうようにラウラの前に立つ。
ドラゴン達もラウラに気づいたようだ。
「ほお、ネコの娘。なあ、フリオ。お前たち、ネコ達の残りは何人かな」
一番体躯の大きなドラゴンが言葉を発した。低く、うねるような声。
ラウラ達を見つめているようだ。
「答えろ。無視は良くないぞ、フリオ」
フリオと呼ばれたラウラの兄は、問いかけたドラゴンを睨みつける。
「答えろ、今、ネコは何人いるんだ」
「……お兄ちゃん、他の子たちはどうしたと?マルコや、カロリーナもお兄ちゃんと一緒におったんやろ?……ねえ」
「……」
フリオはラウラから目を背けた。
拳を握りしめ、体を震わせているように見えた。
「ゲハハハハ!フリオ、可愛い妹が聞いているのだ、答えてあげてはどうだ?」
「……」
「そうか、フリオは答えたくないほど、妹のことが嫌いなのかな?ゲヒャヒャ、そんなに嫌いならワシが殺してあげようではないか!ネコの娘、ワシのところに来い。フリオがお前を殺せと言っているんだ」
ゆっくり顔を近づけるドラゴンに対し、ラウラはじりじりと後ろに下がった。
「やめろ!」
ラウラの前に立つフリオ。
「ラウラ」
フリオは、両の目に溜まった涙をこらえることができなかった。
「……オレが殺したんだ。マルコやカロリーナも、オレが殺した。あいつらは逃がしちゃくれなかった。来る日も来る日も人間や、亜人たちと試合をさせて、マルコとも、カロリーナとも……。どちらかが死ぬまで試合を終わらせなかった。拒否したら二人とも殺された。拒否したやつらの親族もついでに殺された。戦わなきゃならなかった。逃げられなかった……なんども、負けようと思った。こんなにつらい思いをして、仲間を殺しながら生きるのは耐えられないと思った……それでも、お前に会いたかったんだ……ラウラ」
フリオが絞り出すように叫んだ。
「お兄ちゃん……」
「ギャハハハ!フリオは泣き虫だよなあ、いちいち戦いの後に泣く。ハッ!そこが可愛いところだがな。でも、ちょうどいい相手が見つかって良かったなあ、フリオ」
ドラゴン達が、近づいてくる。
「な、なに?」
ラウラがフリオをかばうように周りを警戒した。
「ゲハハハ!ちょうど、一匹来てよかった。せっかくだからもう1試合見ようではないか、皆の者」
ドラゴン達が円陣を組んだ。これから、ラウラとフリオの殺し合いをさせようってところか。
――残念だったな。試合をするのはお前らと、オレだよ。
近くに来てくれてありがとうな。一応オレの魔法にも効果範囲ってものがあるんだよ。
倒すのは躊躇してたんだがな、外道どもめ。一匹も逃がさねえぞ。
【ラウラとフリオをテレポート!】
【アースドラゴン達からエナジードレイン!】
【アースドラゴン達から魔石を引きちぎれ!】
ラウラとフリオをオレのところに呼び寄せ、ドラゴン達の体に風穴を開け、魔石を飛び出させた。
「ガハッ!な、何が起こった?あれは、まさか、我らの魔石か?」
しぶといな、魔石を抜いても、すぐには死なないのか。
ただ、さすがドラゴン達から【エナジードレイン】をしただけあってオレも魔力が余っている。
【アースドラゴン達を切り刻め!】
玉ねぎのみじん切りをイメージした。念には念をだ。
ドドドドドド。
アースドラゴンのみじん切りが、その場を埋め尽くした。
リクは怒りを抑えられなかったようです。