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1章 盗賊ゴブリンとの戦闘

 肌が焼けるようだ。太陽が高く、気温が高い。あれが太陽かどうかは怪しいものだが……。

 

 つい先ほど森の中で目を覚ました。遠くで獣の鳴き声がしたから、慌てて走り出した。


 5分ほど走ると森を抜け、すぐに街道には出れた。

 見渡す限り道は続いていて、人里らしきものは見えない。

 

 困ったな。オレは自室で死んだはずでは?


 どこだここは。現代日本ではない気がする。

 こんなに土地が余っているなら日本の不動産事業も少しは改善しているはずだ。

 

 うーん、さっきからの暑さとのどの渇きを考えると夢ではないのかもしれないな。

 嘆いていても始まらないが、とりあえず水場の確保をしなければ。

 死んだはずが生き返って「脱水で死ぬ」なんてあまりにもったいない。

 

 ん、街道を何かが走っている。馬車だ!助かった。何とか頼み込んで乗せてもらおう。

 交渉によっては水も分けてもらえるかもしれない。


 馬車はどうやら、急いでいる様子だ。岩陰から様子を伺うことにする。


 馬車には御者と護衛の騎士。幌馬車という奴だろうか。中に人を乗せているのだろう。


 馬車の少し後ろから、馬賊か。武装し、騎乗した者たちが3名。馬に乗った彼らは不自然なほど小柄に見えた。

 

 緑色の小柄な人に似た者たち。亜人かな。オレの知識だとゴブリンが一番近いんじゃないかな。

 

 こりゃ完全に現代日本ではないぞ。ファンタジー世界のモンスターとして有名であるゴブリンじゃないだろうか。

 あまり強くない扱いをされているけど、武器を持った集団であればオレは近づきたくない。


 馬のほうが早いのか、馬車は追いつかれつつある。

 騎士は短槍を持って近づいてくるゴブリンを追い払おうとするが、小柄なゴブリンは真正面から騎士に立ち向かおうとはしない。

 一匹が騎士の気を引きつつ、馬や御者に攻撃を加えていた。

 

 騎士の奮戦むなしく、矢が突き刺さった馬はこらえきれず、馬車は転倒した。

 

 転倒した幌馬車からは、少女がはい出てきた。

 身なりの良い服を来ている。貴族の令嬢といったところか。


 騎士は、自分も転倒して馬車から転げ落ちているだろうに主人の無事を気にしていた。


「ミア様、ご無事ですか!」

「ええ、私は大丈夫。怪我はない?」

「私は、この程度の傷なんともありません。ですが……」


 騎士は倒れた御者に目を向ける。

 御者は刀傷や矢傷にまみれ、クビが変な方向を向いている。


 オレから見ても死んでいるように見えたが、少女は巻いてあったスカーフを広げ、御者をその上に持ってくるとなにやらつぶやいている。

 スカーフにはなにやら文様が書かれている。文様は魔方陣か何かで、彼女は魔法が使えるのだろう。

 呪文を唱えると、彼女を中心として白く発光した。

 この状況であれば、回復呪文なんだろうな。


「――ごめんなさい」


 回復呪文は効果がなかったようだ。死んでいるのか。

――剣や魔法の出てくるファンタジーな世界にいるみたいだが、死だけはいやにリアリティを持っていた。

 

 死ぬなんて冗談じゃないぞ。


 彼女が詠唱している間、騎士はゴブリンの接近を防いでいたが、騎乗したゴブリンのロープによって転倒した。

 馬2頭での見事な連携のロープワークによって騎士の足をからめとった。

 ゴブリンは奇声を発し、転倒した騎士の兜を取る。


「やめなさい!私が相手です」


 少女がゴブリンに正対する。

 これはまずいことになった。馬車のヒッチハイクや水をもらうといった計画がぶっ飛んでしまった。


 くそ、騎士がやられたらおしまいだぞ!あの少女には大して戦闘能力はなさそうだ。どうする、逃げるか?なんとか、足音を立てずに逃げ出せるか。


 ゴブリンは3体。少女を2体が追い詰めているから、残りは……オレの目の前にいた!


「ギャーーーーーー!!」


 衝動的に叫んでしまったため、完全にここにいることがばれてしまった。

 クソ、こうなったら!


「ゴブリンめ、なんという狼藉を!それにしてもピンチだな!助太刀に来たぞ!」

「貴殿、いままでどこにいたのです」


 騎士の目線が冷たい。


「そんなことはどうでもいい!そんなことより今大事なことは、ここを脱出することではないか。そうだろう!」

「武闘家さま、ご助力感謝いたします」


 少女は感謝してくれているようだ。なるほど、オレを武闘家と勘違いしているが、オレがTシャツ短パンだからだろうな。

 騎士は納得してないようであるが、優先すべきことはこの場を切り抜けることだと思ってくれたようだ。


 しかし、少女とオレだけじゃあ、この場をなんとかできそうにない。

 頼りの騎士は重武装のまま地面にひっくり返っている。

 現状、ゴブリンに騎士を人質にするようなそぶりは見えない。

 そこまでの知恵はゴブリンにはないんだろう。

 

 オレが気を引いている間に騎士を戦線復帰させれば、なんとかしのげるだろう。


「なにか、攻撃魔法は使えるのか?」

「光魔法を目くらまし程度、でしょうか。神聖魔法では、魔力による殺生を禁じられておりますので」


 なるほど、神聖魔法とやらが回復魔法を使える系統で、神聖魔法には攻撃手段が限られているのか。

 目くらましには使えるなら、その隙に騎士を戦線復帰させよう。


「では、頼む」


 少女は、光魔法を詠唱して、ゴブリンへぶつける。ゴブリン2匹は顔を抑えて落馬、一匹離れたところにいたゴブリンには効果が薄かったようだ。

 

 馬に乗ったまま、オレの方へ向かってくる。


「早く騎士のところへ」

「はい!」


 一匹のゴブリンを何とかオレが相手できれば問題ない。

 少女は騎士のほうへ駆け寄り、回復魔法を唱えている。

 

 オレは拳を固め、ゴブリンと間合いを探りあった。

 ゴブリンは馬で旋回しながら、オレに射掛けてくる。

 オレがよけているというより、当たっていない。騎乗での弓矢の命中は難しいという話だしな。


 ゴブリンは時折矢を射ながらオレの周りをまわっていたが、騎士と少女のほうに駆け出した。まずい、今そちらに向かわれる訳には行かない!


 オレはゴブリンを追った。少女はまだ騎士の回復途中である。

 クソ、ゴブリンめ。詠唱中から先につぶすっていうくらいは知恵があるのか?


 ふと、ゴブリンは円を描いて、オレのほうへ突撃してきた。

 しまった。少女のところにいくのがフェイクか!賢いじゃねえか!


 体制をくずしながらも、ゴブリンの馬での突進をすんでのところでよけた。

 

 オレに突撃したゴブリンは旋回し、もう一度突撃してくるといった様子だ。

 その奥に、今にも立ち上がろうとするゴブリン2体が見えた。

 

 ヤバイ!目くらましの効果が切れたのか!詠唱は終わったか?少女のほうを見やるといまだ詠唱中。クソ、いつまで詠唱してるんだ!


 ……ああ、もう助かるヴィジョンがない。クソ、死んじまうのか。

 ゴブリンは「キャギャ」と奇声を発した後、オレのほうを見据えた。


 来る!

 ゴブリンの突撃に、こぶしを固め構えるが、オレに何ができる?

 武術なんてしたことないんだ。


 ツゥと血がにじむ。ああ、これが血か。さきほどの突撃を交わした時にゴブリンが振り回した剣がかすめたのだろう。

 

 ふと、死んだ従者のほうを見やる。刀傷、矢傷、折れ曲がったクビ。

 そこには確固たる死のイメージがあった。

 

 ――死にたくはない。


 ゴブリンが鼻先に迫った時、オレは叫んだ。


「【てめえら、みんな死んじまえ!!!】」


 ゴキゴキゴキ!何かが折れるような音がした。

 

 突撃してきたゴブリンは落馬。

 奥のゴブリンたちも立ち上がる様子はない。


 落馬したゴブリンを見ると――あの従者のように――クビがあらぬ方向を曲がって死んでいた。

 確認したが、他の2体のゴブリンも同様である。


 少女たちは、どうなった?駆け寄ると。


 二人ともクビが変な方向に曲がっていて、白目を向いて――死んでいた。


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