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18章 好きだよリク様、さよなら

前回のあらすじ

 みんなで協力してゾンビを倒しました。

 ミアにエネルギーを注入し、ゾンビたち全員をターンアンデッドすることができた。

 

 死亡者や重病人は出ていないが、亡くなった肉親や友達たちの姿をしたゾンビたちと戦わせることになってしまって本当に申し訳ない。

 

 ただ、ラウラの父、エミリオを蘇生できたことは良かった。

 やはり、死んでからある程度の時間でないと蘇生は出来ないみたいだな。

 魂の劣化が進んでしまっていて、ゾンビにしかならないのだろう。


 それにしても真夜中に起きたゾンビパニックだったので、みんな疲労困憊だ。

 特に防御障壁や回復魔法を使い続けたミアの疲労は大きかったため、部屋に連れていき休ませてある。

 

 ネクロマンサーは取り逃がした、と長老には報告した。

 すべて話すわけにはいかないからな。


 オレはみなが寝静まった後、ゾンビにしてしまった死体たちを埋葬し直しているところだ。

 みなには埋葬作業は明日にして早く寝ろと伝えてある。

 やはり肉親や近しい友達の死体など見たくないだろうからな。

 この作業だけは、みなが寝て起きてくる前に済ませたかった。


 ゾンビパニックを起したオレのせめてもの罪滅ぼしだ。


 まあ、魔法でやるので簡単だ。


 【そこのゾンビよ、埋まれ、静かにな】


 と繰り返している。うるさくすると、だれか起きてしまうからな。


「リク様」


 ラウラがオレに近づいてきた。


「よくこんな暗闇なのに明かりもなく歩けるな」


 オレは明かりをつけている。


「あたしは、ネコ目があるけんね」


 そうか、ネコ族はネコの特徴を持つ。夜中でも視界を確保できるのだ。


「それで、どうした?疲れてるだろうから寝てなよ」


 ラウラからは【エナジードレイン 】したので疲れているはずだ。


「リク様と話がしたいっち思ったんよ」


 ラウラはオレに寄り添ってきた。

 オレの腕に体を預けてきたが、ぽよんとする。当たってるぞ。


「リク様、お父様のこともそうやけど、ありがと」

「なにが」

「みんなが起きる前に片付けてるんやろ、ゾンビになった子たちのこと」

「そうだけど、気にするなよ。もう終わったしね」


 オレがやるのが速いからやっただけだ。

 オレのせいだしな。


「ねえ、リク様。あたしと、少し話をしてくれん?」

「ん。そうだな。もう終わったしいいよ」

「ちょっと歩くと池があるんよ、夜はホントにキレイやからそこでいい?」

「そうだな、歩こうか」


 オレは夜目がきかないので、ラウラと手をつないで歩いた。


「ねえ、リク様」

「ん?」

「あそこにおった冒険者たちみんなリク様が倒したっち言いよったけどホント?」


 眠らせたのを倒したと言って良ければ。


「本当だ」

「強いんやね。お父様でもあの数だと敵わなかったのに」


 きらきらとした目でオレを見てくる。

 ラウラの目は夜なので光って見える。顔立ちは幼いラウラだけど、夜のほうが色っぽいな。

 夜空と、水辺を二人で歩いているっていうシチュエーションもあるかもしれないけど。


「……殺したの?殺したら、リク様町から追い出されるんやないと?捕まったり……」

「いや、殺してないよ」

「……え?じゃあ、またあいつら来ると?」


 ラウラが震えている。無理もない、あやうく奴隷にされるところだったのだ。

 震えが止まるように抱きしめてやる。


「大丈夫、あいつらはもう来ないよ。オレが話をしてラウラたちを買い取ったから」

「え?リク様が?」

「うん」

「……いくらなん?」

「1億5,000万ウェン」

「そんな大金……何でなんも知らん、あたしたちのためになんでそこまでしてくれると?」


 何でだろう?


「目の前にラウラがいて、襲われそうになっていて、かわいそうだったから」


 たぶん、それしかない。


「……リク様!」


 ぎゅっと抱き着いてきた。瞳はうるみ、涙がこぼれている。


「ありがとう、リク様。あたしは、あたしたちの村はリク様がしてくれたことに対して、大して恩返しも出来んよ。でも、ありがとう。……リク様、私、リク様のためだったら、なんでもできるよ!」


 ラウラがしがみついてきた。


「……お人よしついでに、もう一個だけ、お願い聞いてくれん?」

「何?」

「だめやったら、いいけ。もうすでに諦めとるんよ、あたしも。でも、リク様やったら、お父様を助けてくれたリク様やったら、もしかしてっち思ってしまったんよ」


 下を向いて話すラウラ。


「何をすればいい?」

「……お兄ちゃんがドラゴンに捕まっとるんよ。早くせんと、助からんのよ」

「ドラゴンか」


 いわゆるファンタジーにおいて別格のモンスターをされることが多いドラゴン。

 知能が高く、魔法も使え、並みの武器、並みの冒険者では、歯が立たないって描写をされるが……

 ネコ族たちはドラゴンに追われて移動してきたって言ってたな。


「リク様でもドラゴン相手は難しいっち思うよ、ドラゴンに捕まっとるお兄ちゃんを助けようとすると、ドラゴンと戦闘になるかもしれんし。ドラゴンと戦うことになったら、ネコ族だけやなくて、人間の町、ベケットの町も襲われるかもしれんやろ。ドラゴン相手に勝った人間も魔族もおらんっち言うし」

「ドラゴンは人間を捕まえてどうするんだ?」

「今度来たドラゴンは根性が腐ったやつで、捕まえた獣人や人間、魔族などを互いに戦わせるんよ。あたしたちが、虫を捕まえた時みたいに。運よく戦いに勝って生き残っても、ドラゴンの子どものおもちゃになって、殺されるっち言うよ……」

「外道だな」


 外道と言うか、自分たちと同等の生き物だと思っていないんだろう。

 それこそ、オレ達が虫をみているのと同じように。

 

 奴隷制度といい、性悪ドラゴンといい、この世界も理不尽なことばっかりだな。

 

「早く助けにいかんと、お兄ちゃんが……」


 ネコ族は、人間からは亜人と呼ばれ迫害され奴隷に落とされ、ドラゴンからはおもちゃにされる。

 ネコ族は、ラウラは、この世界でいったいどこに行けばいいんだ?


「ラウラ」


 ラウラを力強く抱きしめる。


「オレもお人よしとラウラに言われる程だけど、お前のことを一生守ってやれるわけじゃない」

「うん」

「オレが守ってあげられるのはオレの手の届く範囲までだ」

「そうだよね、リク様も、もうすでに守ってあげなきゃいけない人がいるもんね」

「オレがついていかないなら、ラウラはどうするんだ?」

「……一人で行ってもどうせ何もできないから、帰って寝るよ」

「そうか。じゃあ、帰るか」

「うん。私、ここで少し空をみてから戻る」


 オレは帰ろうと村のほうへ足を向ける。


「ねえ、リク様」

「なんだ」


 ラウラがオレのほうに来た。


「若奥様には内緒にするけ、キスして」

「ラウラ」


 ラウラがオレの唇を求めた。ぷるんとした唇が温かい。

 

「……ふ……ぁ」


 少ししてラウラのほうから離れた。

 ラウラは覚悟を決めたような目で、オレを見つめる。


「好きだよ、リク様。……さよなら」


 オレは村のほうへ。

 ラウラは村とは反対の方向へ歩き出す。

 オレが見えなくなったことを確認すると、ラウラは全力で走り出した。

 

 バカヤロウ!

 たとえオレがついて行かなくても、一人でもドラゴンのもとに兄貴を助けにいくんじゃねえか。


【テレポート】して、ラウラの前へ。

 

「ニャニャッ!」


 全速力でラウラが来たので、ぶつかりそうになる。

 驚くとニャッと言ってしまうラウラ。

 ラウラの体をぎゅっと抱きしめるが、全力で走ってきたラウラの勢いを消しきれず、二人でごろごろと転がって、二人で池の中に落ちてしまった。


 ばしゃーん。


「げほっ」

「大丈夫、リク様」


 思ったほど、池は深くない。

 ただ、全身ずぶ濡れになってしまった。


「バカヤロウ、さよならなんて聞きたくねえよ。なんで一人でドラゴンのとこに行くんだよ。」

「……リク様」


 ぽたぽたと、オレの顔からしずくが落ちる。


「好きだって言った後に、さよならなんて言うなよ、なんで一緒に来てって言わないんだよ!」

「だって、リク様にこれ以上、何かしてなんて言えんよぉ……もう、いっぱいしてもらった、いっぱい助けてもらったもん……」


 崩れ落ち、こぼれるように涙を流すラウラ。


「オレだって、手の届く範囲までしか助けられない」

「……うん」

「ラウラ、何でもするって言ったよな」

「うん、リク様が望むなら、なんでもするよ」


 ずぶ濡れのラウラの唇を強引に奪う。


「……ん……ぅ」


 キスをした後、ラウラをじっと見つめる。

 ずぶ濡れで色っぽいラウラだけど、オレはじっとラウラを見つめる。


「そんなに見つめられたら、あたしのこと好きなんかな、っち勘違いするよ」

「……一人で行くなよ。お前はオレが買ったんだ。これからは、ずっとオレの手の届く範囲にいてくれ。そうしてくれたら、オレはドラゴンだろうがなんだろうが、オレが倒してやるから」

「……リク様。……それって」

「お前が好きだ。オレの嫁になってくれ、ラウラ」

「リク様!」


 ラウラが感極まってオレに飛び掛かるように抱き着いてきた。

 

 ばしゃーん。

 オレが下になって池に沈んだ。


「溺れるってば」

「リク様、今のウソって言ったって許さんけんね、絶対奥さんにしてもらうけんね!」


 夜空の下でびしゃびしゃになって笑うラウラは、世界一可愛い。


「嘘なんかいうかよ」

「リク様、あたし、……リク様のこと大好き」

「月がきれいだな」


 夜空に浮かぶあれを月と呼ぶのかは知らないが、本当にキレイだなと思った。


リクはドラゴンが相手でも、ラウラのために頑張るようです。

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