17章 ターンアンデッド
前回のあらすじ
ラウラの父、エミリオはゾンビになっていませんでした。
ラウラの父、エミリオの無事を確認した後、ミアのところへ。
「しつこいんだよ!」
トーマスがゾンビを切り払い、ゾンビの侵攻を食い止めており、ミアは傷病者へ向けて絶え間なく回復魔法を使っていた。
これでは消耗戦になってしまう。朝を待てば、ゾンビの動きが鈍るためこちらの勝利であるが、スタミナという面で見れば無限のスタミナを持つゾンビの有利である。朝までこちらの体力が持たなければ……みなゾンビの餌だ。
トーマスが大技をくらわしてゾンビを撃退したが、小型のゾンビが数体走り込んできており、ミアの周りの子どもたちへ向かっていった。
「お母さん、お父さん!」
「危ない!」
あー、もうミア。体張るんじゃないよ、ホント。
【ゾンビの動きを止めろ!】
子供たちを守ろうとしたミアに襲い掛かるゾンビをなんとか、止めることができた。
しかし、ホント、継続的な魔法は厳しいな。あっという間に魔力が尽きる。
いつもはエナジードレインして補っているから気にならないが、もう少しレベルを上げようかな。
ヘルガと戦ったとき、レベルが上がったみたいだから、あいつが元気になったら修行をお願いしようかな。
あ、目の前がくらんできた。
「トーマス、オレひとりで抑えるのも限界があるぞ、早く加勢に来いよ!」
「すみません、すぐ行きます!」
トーマスが駆け付け、動きを止めたゾンビたちを一刀両断にしてくれた。
助かった。少しは時間が稼げる……。
気を抜いてしまったのか、疲労がのしかかってきてオレは倒れてしまった。
「リク様!」
ミアが駆け寄って来て、古語を詠唱しだした。回復魔法なんだろうけど。
クソ、カッコ悪いな。ミアに加勢に来たつもりだが、手を煩わせちゃだめだな。
クソ、口の中が鉄の味がする。
あー、しんどい。ゾンビは即死もできないし、エナジードレインできないみたいでホントしんどい。
トーマスとか、エナジードレインもなしに、ミアのためにずっと頑張ってたんだな、ホント偉いわ。
咳込むと血を吐いた。あらら。
ミアの回復魔法が発動。痛みが取り除かれ、血が止まった。
「ミア」
「リク様!」
「よく今まで持たせてくれたな、ありがとう」
「いえ。リク様こそ、ご無事で、良かった」
ミアに膝枕され、手をぎゅっと握られている。
こんな小さな手の少女が、この場を持たせてたんだな。
「早く、片付けないと」
オレが蒔いた種だからな。
というか、種も実も花も、今回の件は、100%オレのせいだ。
負傷者など出したら、ネコ族にお詫びのしようもないよ。
「無理しないでください、リク様」
「そんなわけにいくかよ。ミアは自分だけ隠れてろって言われたら、その通りにするのか?」
「しないですね、私に出来ることがあるのなら」
ミアは口角をぎゅっとあげ笑った。本当によく頑張ってくれたね。
さてと、これ以上働かせるわけにはいかないな。
「ミア。アンデッドを消滅させるにはどうしたらいい?」
「神聖魔法で昇天させるのが一番でしょうね。ただ、すみません、私の力では全部を消滅させるのは無理そうです」
ミアは神聖魔法使いとしては優秀な方だと思う。
ただ、あまりにもゾンビの数が大きすぎるのだ。
でも、単なる魔力の不足なだけなら、なんとかできると思う。
「ミア、全員集めてくれ」
「え?」
「戦えないものも含めて、全員だ、早く!」
「わ、わかりました!トーマス、みんなを呼んできて!」
トーマスがこの場にいるものをすべて近くに集めてくれた。
ネコ族の者たちが集まってくる、
けがをしているものも多いかった。なおのこと早く解決しないとな。
「いいか、お前ら。今から、ミアがゾンビを消し飛ばす。そのためにここで祈れ。あとはオレが、いやオレたちが何とかする」
「え、全部は無理ですよ、私の魔力じゃ、ゾンビ全部はとても無理です……」
「ミア、オレを信じろ」
「え?」
頭を撫でてやる。
「……あ」
「なんだよ、旦那の言うことが聞けないのか」
我ながら、膝枕されながら言うセリフではないと思う。
「ふふ、リク様。私、信じてます。リク様なら、どんなときでもなんとかしてくれるんだって」
「ゾンビ退治の魔法を詠唱しろ、絶対なんとかする」
「わかりました!」
「トーマス、その間、ミアを守ってくれ。ミアが呪文を唱え終わったら、オレ達の勝ちだ」
「わ、わかりました。ネコ族の戦士たちよ、持ち場を離れるな、あと少しだけ、この場を持たせろ!」
戦士たちの咆哮が響く。ミアは大きく息を吸い込んだ。
【我らが神よ、現身たる精霊よ、参列したる天使たちよ。神の落とし児の箱庭を脅かす者どもを、一条の光を持って排除せよ、死者葬送!】
オレはミアの呪文詠唱に合わせ、その場の皆から【エナジードレイン】をし、呪文発動と合わせて、ミアの唇から押し込んだ。その場の皆から集めた魔力を漏れ出さないよう、オレの唇はミアの唇を通じ、口腔の奥へ奥へと魔力をねじ込んでいく。
「ぅ……ぁ、は……あぅうう!」
ミアの体を魔力の奔流が貫き、あたり一面は光に包まれ、そして…‥
命亡きものはみな土くれへと帰っていった。
「よく、がんばったな。ミア」
「……ぅ、うぅ……リク様のばか、ばか、ばか!」
ミアは、自分を通り抜けた魔力の大きさに平静を保っていられない様子だった。
リクとミアが協力してゾンビを追い払いました。