16章 襲来!ネコゾンビ
前回のあらすじ
ネコ族の村へ訪問すると、ゾンビが襲ってきました。
しかし、ゾンビって死なないんだなあ。どうしよう。
急に現れたゾンビを目の前にして混乱が起こっていたが、ミアの激励により集団での対応が徐々にできつつある。
オレは、ゾンビを即死できないので、対応を思案しつつ、防御障壁の周りに近づくゾンビたちを粉砕していた。
【掌術、風通し】ゾンビに風穴を開けて、遠ざける。
死ねと言っても死なないが、さて、一般的にアンデッドってどう倒すんだろうか。
防御障壁のほうを見やる。ミアがアンデッドへの防御障壁を展開しながらも戦えない者たちを安全地帯へ誘導し、女子どもへの声掛けを行っていた。
ミアは優秀だな。混乱した状態でも、領主たる振る舞いが自然とできるのだ。
トーマスが、ゾンビを大剣で打ち払いながらこちらへ走ってくる。ミアの護衛に来たんだろう。
これでオレも持ち場を離れられるな。
「トーマス」
「ああ、リク様。すみません、ミア様を守っていただいていたんですね。ちょっと武装するのに手間取りまして」
トーマスは騎士であり、重武装での戦闘が得意なので急ぎ武装したのだろう。
「ここ任せていいか」
「ええ。もちろん、私は役目的にミア様の側にいなくてはなりませんので。リク様はネクロマンサー本体の捜索ですか?」
「そうだな、数が増えてきてはないが、さすがに朝までゾンビと戦い続けるのは嫌だからな。じゃあ、頼んだぞ」
「はい。お気をつけて」
防御障壁近くの守りをトーマスに任せ、人探しをすることにする。
そもそも、この事態を引き起こしたのはオレだが、そのお目当ての人の蘇生に成功しているのかを確かめたかったのだ。
あたりの剣戟音に混じり、言い争う声が聞こえてきた。
様子を見る。ラウラか。ネコ族の男性と揉めているのか。
「おい、何してるんだ。今は揉めているような時間はないぞ」
「リク様」
ラウラの奥に、あの場で死んでいたネコ族の男。
獣人の男は頭を抑えてぐったりとしている。ケガをしているのか。
ラウラはその男をかばうように守っている。ラウラとその男をとりまくように、ネコ族の中年男達3名。メイスのようなものを持っており、血がついている。
そのメイスでケガをした男を殴ったのではないだろうか。
「リク様、お父様が亡くなったと思っとったけど、生きとったんよ。お父様は、ゾンビなんかやない!生き返ったんよ!」
「ラウラ、お前の気持ちはわかる。だがなあ、ワシらは死んだエミリオを確認しとるんじゃ。いっぺん死んだ者は生き返らん。生き返ったように見えるものはゾンビじゃ。あの世に返しちゃらないけん」
「お父様は他のゾンビと違い、みなを襲ったりしとらん。ゾンビやない。ひどいことせんでよ!」
死んだ者は生き返らないこの世界において、一般的には獣人の男たちの対応が正しいんだろう。
ゾンビなどの対応で肉親の情に任せてトドメをさせないと集落全体の被害が大きくなる。
ただ、ラウラの父、エミリオという男はゾンビにはなってないんじゃないか。
「私が確認しよう」
男たちの前に出る。
「リク様」
「これでも、各地を渡り歩いてる武芸者の端くれだ。ゾンビかどうかは見ればわかるし、死人から生き返ったものも見たことがある」
「おお、それなら」
「お前たちもエミリオ、とかいう男を殺したいわけじゃないだろう。ゾンビなのかそうでないのかオレが確かめよう」
「わかりました」
男たちが道を開ける。
ラウラと男の側に行く。
「ラウラ」
「リク様、お父様はゾンビやない」
「わかってるよ」
ラウラの頭を撫でようと思ったが、やめた。
危ない、また求婚するところだった。頭を撫でるのはこの世界では求婚を意味する。
気を付けないとな。
「オレは武闘家で魔法使いでも聖職者でもないが、体内を流れる【気】の操作を行うことができる。自分だけでなく、他のものの【気】も操れる。この【気】を操作することで、エミリオがゾンビかどうか確かめよう。ゾンビには【気】が注げないからな。むしろ、ゾンビであれば消滅するだろう、生命エネルギーを注ぎ込むわけだからな」
「おお」
「なんと」
「ラウラ」
「はい」
ラウラは父親であるエミリオから離れようとはしない。
「父上のためにお前の生命エネルギーを貸してもらえるか」
「はい。お父様のためやったら」
ラウラは健気に答えた。
「手を出して」
左手でラウラの手を握る。
もう片方の手を、エミリオのケガしている部分に触れる。
「リク様」
「心配するな。必ず助ける」
「は、はい」
目をつぶった。ラウラの体温を感じた。左から右にエネルギーを受け渡すイメージをすれば完了するが、やっぱり奇跡の演出ってのは必要だなあ。詠唱するか。
【オレの体よ、発光しろ】
「リク様が光っている!」
「リク様、これって」
ラウラは戸惑っている。
「すべてを委ねなさい。ラウラの体が拒めば、【気】を取り出すことができない」
「は、はい」
まあ、もちろんそんなことは無い。ムリヤリエネルギーを奪うこともできる。
だが、何となくそういう演出がしたい。要は気分の問題だ。
【神魔の精霊たちよ、気血に混じりて人の体を巡り、正者に活力を与えよ。気血宗巡してエミリオの体内を推動せよ!】
ラウラからエネルギーを吸い取り、エミリオに渡す。それと同時に、傷を治しておく。
エミリオの顔に生気が戻っていく。傷も癒えた。
「エミリオ!」
「お父様!」
ラウラがエミリオに抱き着いた。
「……ここは?私は死んだはずでは?」
エミリオが自分の体の刀傷等を確かめる。
「リク様が、助けてくれたのよ」
「ラウラのエネルギーを使っただけだ。それと、この場にいる皆に伝えたいのだが」
「は、はい」
姿勢を正してオレの言葉を待つ。
「今回のことをよく知らないものが見たら、オレに蘇生能力があると、誤解してしまうものが現れるかもしれない。そもそも今回のことは、エミリオ自体が死にたくないとの気持ちがあり、体内にまだ【気】が残っていたことから、ラウラの【気】を注ぎ込んだ結果、気力が回復し、傷も癒えただけに過ぎない。オレは【気】の操作を行う特殊な武芸を伝達されているが、政治利用をされないために、わが一門は武芸を秘匿している。できれば、今回起こったことは皆の心の中にとどめておいて欲しい」
「はい。わかりました!」
いい返事だな。
「それとエミリオ」
「はい」
「ラウラに体力はもう残っていないだろう。お前もいったん死んだようなものだ。二人で安静にしておくようにな。お前たち、その間面倒をみてやれ」
「もちろんです。リク様!」
みなが平伏している。
「じゃあ、オレは他のゾンビたちを片付けてくるから」
「リク様、ありがとうございました!」
みなが、息のそろった感謝を述べてくれた。
エミリオはゾンビになってなかったようです。