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15章 ネコ族の村へ

前回のあらすじ 獣人奴隷たちを商人から買い取りました。ただし、ツケです。

 商人アルベルト・シュミットをベケットへ届けた後、ミアと共にさきほどの戦闘地域へと【テレポート】してきた。

 

「え?瞬きしている間に、先ほどの場所では?」


 ミアはキョロキョロしている。そう、先ほどの場所に来たよ。


「一瞬でつきましたけど?」

「【縮地】といって、我らにのみ秘匿される武芸だ。瞬時に、訪問したところへ移動できる歩行法だ」

「歩行法だったんですね、【時空魔法】かと思いましたが。まあ、【時空魔法】なんて【魔女】じゃあるまいし、歩行法だったのであれば、納得ですね。へえ、歩いただけなんだ、さすがリク様ですね!」


 テレポートを歩行と言い切っても、ばれないのが不思議だな、どう考えても魔法だと思うが。


「……オレにとってはただの歩行法だ。そんなことより、急ぐぞ。」

「は、はい!」

「でも、どこなんだろうね」

「リク様、場所をご存じなのかと思っておりました」

「いや、知らないな。飛び回ってればわかるかなと」

「では、私の出番ですね」


 ミアがハンカチを広げる。その上に木の棒を立てる。

 原始的な魔法だなあ、まじないっていうか。


【光の精霊に問う、トーマス・ミュラーの場所を指し示せ】


 木の棒がパタンと倒れた。そちらのほうへ何回かテレポートすると。

 布で作られた簡素な家がいくつか点在しているのが見える。


「あのあたりだな」

「さすが、光の精霊さんですね」

「さっきのも神聖魔法?神聖魔法にも回復以外あるんだな」

「ええ。結構便利な魔法系統ですよ。実は攻撃魔法もあるんです。禁術ですし、私は使えませんけどね」


 そんなことを話していると、その集落の中央に、人の輪ができている。中央にはトーマス。

 顔が赤い。だいぶ飲んでるな。


「トーマスのやつ」


 まあ、獣人奴隷たちを解放してくれたお礼の宴なんだろう。

 酌を断るわけにもいくまい。


「何者だ!」


 村の衛兵に気づかれる。

 無警戒だったな。


「あいつの仲間です」


 トーマスを指さした。


「あ、リク様」


 獣人たちの目が一斉に集まる。


「こちらへささ、どうぞどうぞ」


 中央へいざなわれた。


「えー、ネコ族の方。私はこちらのリク様に指示され、みなさまを連れて帰りました。悪徳商人から、みなさまを救い出す。そう決断され、全員をぶちのめしたのはこちらのリク様でございます!」


 少しのどよめきの後、歓声で迎えられた。


「リク様」


 老いた獣人がオレの前で平伏する。


「この度は、さらわれた娘たちを奪還いただきありがとうございました。貧しい村でありますので、その大恩に報いるだけのことはできかねますが、宴を用意させていただいております」


 獣人たち皆が平伏している。


「顔をあげてください。別になにかお礼が欲しいわけじゃない。みなさん、とりあえず、今日は宴を楽しみましょう」

「なんとお心の広い……」


 町長は感極まっている。


「みなのもの、最大級の感謝を!」

「ありがとうございました!」


 獣人たちが声を振り絞るように叫んだ。


「みなのもの、明日以降のたくわえなど知ったことか、今あるすべてをリク様に差し上げろ!」

「は!」


 皆が、家から食材を持ち寄ってくれた。

 日も暮れかけていたので、火を起こして料理を作ってくれているようだ。


 オレとミアとトーマスを取り囲むように酒席が用意された。

 けして豪華な晩餐ではないけれど、炊き込みご飯のようなものはとてもおいしかった。

 あとは、濁ったお酒などはすごく飲みづらいがまあ、ガマンしよう。

 

 獣人族はネコ族というらしい。

 もともとは山のほうに住んでいたらしいが、ある日やって来たドラゴンに故郷を追われたと町長が話してくれた。

 

「リク様、お酒もう飲めん?」


 先ほど襲われかけていたネコミミ少女がお酒を持ってやって来た。

 動きやすさを重視しているためかミアと比べると随分、肌色多めの格好をしているため、目のやり場に困ってしまう。とはいってもオレはいい大人なのでまじまじと見るわけだが。ミアがこちらを見ているがあえて無視する。見たいものは見たいのだ。


 うん、胸のあたりはミアとはずいぶん違うな。もともと曲線の多い体系の上、メリハリがあるので自然と見惚れてしまう。


「いや、頂くよ」

「これ、ウチが作ったんよ」


 少女がついでくれたものは果実のお酒だった。

 このお酒も少女のお勧めのようだ。お弁当の時のミアみたいに「自信作やけ、食べて」と書いてある。 ショートカットにネコミミが良く似合う。顔は童顔だが、体はとっても色っぽい。小麦色の肌に茶色の髪が健康的な美しさを醸し出している。


「かわいい」

「……ニャッ?」


 少女は驚くとニャッというらしい。


「いや、美味しい。いやーおいしいよ」

「山ブドウの香りですね」


 ミアが欲しそうにしていた。


「若奥様にもつごうね。これ、おいしいんだよ?」

「ふふ、若奥さまですって、リク様」


 ネコミミ少女がミアに果実酒を注いだ。

 ミアは気分良く酔っぱらっている。


「キレイな色……おいしい」


 ミアの目はトロンとしてきた。


「リク様。あの子たちのこと、助けてくれて感謝しとるよ。もちろん、私もやけど」


 少女は感謝の意を示す。

 

「うん。奴隷にならなくてすんで良かったね」

「ねえ、リク様。私、ラウラ・フォルテア。ラウラって呼んでね。……あたし、今から踊ってくるけ、良かったら見てね。あとね、」


 ラウラがオレに耳打ちしてくる。


「奥さんが寝たら、また来るけんね」


 ラウラがオレに手を振っている。

 ミアが、オレに近づいて手を握ってきた。

 ラウラに見せつけているようだ。

 

 ラウラは舌をペロッと出して、

 踊りの輪に加わる。


 男たちが打楽器を打ち鳴らし、女たちが踊る。子供たちは歌っている。歌詞は何だかよくわからないが……

 というか、改めてなんで言葉が通じてるんだろうなあ。

 ミアに聞いてみよう。


「ミア、オレの言葉って通じてるの?」

「え?言葉って、今喋っている言葉のことですか?」


 ミアは不思議そうにしている。どういったらうまく伝わるんだろう。


「いま、オレはミアと話をして、意味が通じてるよねえ」

「そうですね、意思疎通が出来てると思いますよ、あ、もしかしたら言外に特別な意味をもつようなことを言っているのですか?暗号みたいな」

「いや、そうじゃなくてさ。オレ、ミアと話せるし、あの少女とも話せるのに、今歌っている言葉はわからない」

「ああ、そういうことですか。古語の話ですね。昔は、地域ごとに、種族ごとに、地方ごとに異なる言葉を話していたそうですよ」


 というか、オレはそういう世界から来た。


「言語が異なる理由は、結託して神に反逆することを恐れた精霊が起こした呪いだった、と闇魔法に通じるものはそう言ってますね」

「神」

「神っていうのは神聖魔法を使う私たちの神です。神が与えた試練を古英雄みなで協力して乗り越えた結果として、原初の罪は許され、異言語を話す呪いは解けたようですよ。あくまで神話の話ですが。その結果、我々が使っている文法は普遍文法ユニバーサルグラマーというのです」

「ユニバーサルグラマー」


 小さい子はすべての言語を使える可能性があるが、それが大きくなるにつれて使っている言語の可能性以外が閉じられていくから、人間の頭の中には普遍的な文法メカニズムがあるのでは?という考え方がある。

 あと、言葉が違うっていうのは「バベルの塔」に近いな。地球では、天まで届かんとしたバベルの塔が壊され、言葉がバラバラになったまでで話が終わっているが、それを乗り越えたというストーリーまでこちらは用意されているらしい。


「ユニバーサルグラマーは全種族共通ですから、知能あるものみなと会話が通じるということですね。古い人達、エルフやドワーフや魔族の中には古語で生活する方もいらっしゃるとか。あ、そうそう。魔法は全部古語ですよ。だから、だいたいみな一つしか扱えないのです」


 でも、この古語の歌を聞くと気分が盛り上がっていくな。

 普遍文法の歌詞ではイマイチ楽しくないのだろう。だから、歌の中に古語は残っているのだろう。


 打楽器のリズムを聞き、キレのある剣舞を見る。それにしてもネコ族はほんと、いい体の女の子が多いな。

 ラウラも生き生きと踊っており、剣舞の迫力に圧倒される。


 そうそう、そういえば昼間のネコ族の男はすごく強かったらしいな。

 一応埋葬するため、運んできたが、


【ネコ族の男よ生き返れ】

 

 そう祈ってみた。まあ、無理だろうな。だいぶ時間たったし。


「……ウオオオオオオオ!」

 

 地面を震わすような

 なんだか、すごい数のネコ族の男性が起き上がっている。


 体は腐り、目は落ち、腕は取れかけているのが大半だが。


 あたりは悲鳴に包まれた。


「父さんが、父さんが、変わり果てた姿で生き返った!」

「兄ちゃん、どうしたの、ボクの言葉が聞こえないの?」

「やめろ、お前は死んだんだ。噛むんじゃねえ、ギャアアアア!」


 これ、もしかしてオレがやったのか?

 ヤバイヤバイ。ミアは大丈夫か?


【祝福の天蓋セイクリッド・キャノピー


 ミアは神聖魔法で防御障壁を作っていた。とりあえず、その中にあたりの子どもたちを連れて入る。


 あたりは混乱に包まれた。クソ、【ゾンビよ、死ね!】

 ゾンビは死なないようだ、な、なぜだ?死んでるから死なないのか?


 ミアはゾンビの群れの中でも凛として立ち、ネコ族に呼びかける。


「子どもや、戦えないもの、傷ついたものはこちらです!戦えるものは、なんとか自分を守りなさい!ゾンビは死にません。なんとか、体を分割し、追い払うのです!この数では、消滅させきれないでしょう。朝が来るまで耐えなさい。できますね、みなさん!」


 ミアの激励に立ち上がるネコ族たち。

 ミアは、こういう時の決断力と行動力がすばらしいなあ。

 

「リク様!この中にネクロマンサーがいます!闇魔法の中でももっともおぞましい者、死者を冒涜する、侮蔑すべきものですが、相当に厄介です。リク様、なんとか皆をお救いください。私も、神聖魔法をたしなむものとして、皆を守ります!」


 ミア、そのネクロマンサー、たぶんオレです。


リク様やらかしましたね。

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