14章 奴隷大量購入でミア様不機嫌
前回のあらすじ
ミアが商人を従えました。
ミアのお陰でローブの男達を平伏させることができた。
冒険者たちも、有力商人であるローブの男の手前、ミアに土下座して見せた。
かわいそうだが、仕方がない。
冒険者達をベケットの町へ先に返し、ローブの男、アルベルト・シュミットを馬車に同乗させた。
町まで戻りがてら、アルベルトと話をつける必要がある。
ただ、先ほどからアルベルトはずっと、すみません、すみませんを繰り返している。
いくら有力商人といえど、伯爵家を敵に回せば一夜でお家は取り潰しである。
真っ青になりながら、謝罪の言葉を呪文のように唱え続けている。
馬車の振動とアルベルトの謝罪だけが車内に響き続ける。
正直あまりいい気分ではない。街道沿いの景色が台無しだ。
どうしたものかな、ミアを見る。ミアが耳打ちした。
「ムチとアメです。アメ役できますか?」
そうか、ここでムチ役のミア自ら商人に優しくするよりは、オレがアメ役として取りなすという形にしたほうが自然だな。
よし、先ほどミアの名演技を見せてもらったことろ、こちらもちょっとくらい頑張りますかね。
「アルベルト殿」
「は、はい」
「この度は、うちのミアが癇癪を起してすまなかったな。このとおり、許してほしい」
頭を下げた。
「は、はい、いえ、こちらの手勢が無礼なことを言い、申し訳ありませんでした。お詫びのしようもありません。ですが、シュミット家の取り潰しだけはどうか、お慈悲を!下賤な商人である私の詰め腹など、ミア様にとって何の価値もないものでございますが、私の身一つでしかお詫びのしようはございません、どうか、私ひとりでお怒りを鎮めていただけないでしょうか。」
「そこまで思いつめるな、アルベルト殿。ミアも急に大きな声を出されて怖かっただけだ。なあ、ミア。もう怒ってないだろう。アルベルト殿も、こう反省してるみたいだ。もう許してやってはどうだ?」
「え、でも」
「なあ、アルベルト殿ひとつだけ頼まれてはくれないか。そしたら私が責任を持って、ミアから許しをもらう、どうだろう」
「……は、はい。私にできることでしたら」
「獣人奴隷たちなんだけどね」
「あ。……わかりました。名残惜しいですが、お譲りします。グラフ家のためになるのであれば、奴隷の10人や100人、すぐに連れてきます!」
いや、そんな余計なことはしないでほしいが。
「アルベルト殿。そんなことをしたら伯爵家が圧力をかけているように見えるだろう。伯爵家ともなれば、一時の利益で将来の信頼を売り渡すようなことはしないものだ、だから」
続く言葉にひどく緊張しているアルベルト。
「少しだけ払いを待ってもらいたい。あいにく持ち合わせがなくてね。一週間後にはアルベルト殿の言い値で支払うとしよう。」
「は、はい。そんなことでしたら、いつまでも待ちます」
「はは。ミアがこの場の証人なんだ。私だって約束は守るよ」
「はい。それくらいでしたら、喜んで」
アルベルトから、緊張が抜けていくのが見て取れた。
「ミア、許してやれ」
「はい。わかりました」
「ミア、よくできました」
頭を撫でてやる。
「人前ですよ、リク様」
ミアがオレの手を握りゆっくりと頭から降ろす。
アルベルトに向き直る。
天使もかくや、といった笑顔を称えるミア。
「アルベルト・シュミット」
「は、はい」
背筋をただし、聞き入るアルベルト。
「あなたを許します」
「ありがとうございます、ありがとうございます!ミア様、そして……」
「リクだ」
「リク様!感謝にたえません!」
アルベルトは涙を流し、感謝をしている。とりあえず、支払いも待ってもらえるし後はお金の話だ。
「さて、アルベルト・シュミット殿」
「は、はい」
「言い値っていうといくらなのかな」
「奴隷自体の価値から考えますと、1億ウェンです。利子が1億5,000万ウェンほどありましたので、それに見合う奴隷を連れてきていました。正直、足りないのですが、それ以上連れてきてしまうと、繁殖能力が落ちて集落の価値を下げてしまいます。獣人といえど、グラフ伯爵家の領地を構成する一部分ですし、資産価値を下げるような商いはしていないつもりです」
種もみの分まで食べてしまう愚は犯していないという弁解なわけだな。人間だと思うから非人道的な匂いがするが、畜産としてみれば外道ではないんだろう。ミアをみると頷いている。
「わかった。1億5,000万ウェン用意しよう」
「……ありがとうございます」
アルベルトはもう落ち着きを取り戻した様子。ミアとオレを交互に見ている。
リク・ハヤマとはどこのどいつだと言いたいのだろう。
「リク・ハヤマという。ミアとは婚約している」
「……そうなのですね、それはそれは、おめでとうございます!」
特に詳しく話してやる必要はないが、オレという人物の信頼性を失ってはいけないので最低限話して聞かせた。どの道こういう連中は鼻が利く。
オレの素性など3日もすれば把握するだろう。
町へ着くと、アルベルトに礼を言って別れた。
そろそろ獣人たちの村へ行ってあげないと、トーマス一人にしているから不安だな。
「ミア、オレは獣人たちのところへ行く。このまま馬車で、村長の屋敷へ戻っておいてくれ」
「私も行きますよ。獣人族の村に興味ありますし。馬車はいらないんですか?」
「いや、オレ一人なら走ったほうが速いから」
「私も行きます。リク様、私が一緒じゃ嫌、ですか?」
ミアがオレの袖を引き、上目遣いでオレの目を見ている。寂しいのかな。
「……そんなことないよ。」
「リク様は奴隷をたくさん買われて何をするのですか?私も貴族の娘として旦那様の多少の女遊びは、目をつぶるつもりですが、10人も……」
「いや、違うって」
なるほど、ミアは誤解しているのか。
奴隷遊びをするのだと思っているのね。
「ミア、こっちにおいで」
ミアと横並びになった。
髪を撫で、首筋から顎をなぞり、それから唇を重ねた。
「……ぅ」
抱きしめながら、ミアのブロンドの髪を撫で、背中に手を回す。ミアの体温を感じる。
「ミア。獣人の娘たちが襲われていてね、それで助けることにしたんだ。借金が返せなかった奴隷だから襲われても仕方ないのかもしれない」
もう一回、ミアにキスをする。
「ミアはオレ以外とキスをしたいと思う?」
「そんなこと思いません。私は、リク様と一緒がいいです。連れて行ってください」
ミアもオレを抱きしめ返してきた。
「じゃあ、きっと獣人の子たちもそうだよね。きっと好きな人がいて、その人とキスをしたいんじゃないかな。だから、助けに入ったんだ。特に他意はない。本当だ」
「そのために1億5,000万ウェンも払ったんですか?」
驚いた目で見つめるミア。
「うん、成り行きかな」
「お金はどこから出るんです?」
「ないよ。でも、これから用意する」
「私が用立てても構いませんけど、きっとリク様は自分でどうにかなさるんでしょうね」
「うん、なんとかできるはず」
「わかりました。……リク様は私以外の女の子にも優しいのです」
ミアはすねたようにほっぺを膨らませて見せたが、それでもオレから離れようとはしない。
「それが少し、寂しいのです。だから他の子と遊んでもいいですから、私を置いていかないでくださいね。私のもとに帰ってきてくださいね。一緒に連れて行ってくださいね」
ミアと抱き合いながら、話しかけてくるので正直耳がこそばゆい。
けど、ミアの思いは伝わった。
「ミア。じゃあ置いて行ったりしないけど、ついてこれる?」
「はい。リク様が何をしようと……ついていきます」
ミアの決意は伝わった。ただ、そろそろトーマスと合流しないとな。
「よし。じゃあ急ぐよ、ミア」
馬車を降りると。
【テレポート!】
先ほどの戦闘地域へ。
ミアと獣人族の村に行きます。