13章 ミアは商人にパワハラする
前回のあらすじ
ネコ族の女の子が襲われていました。
「だれだ、貴様は!」
「あとでしっかり説明するよ」
危うく獣人娘が襲われてしまうところを加勢に入った。
ローブの男からから【エナジードレイン】。
もちろん、オレのエナジードレインはヘルガと違って身体的接触の必要はない。
その後、【全員眠れ】。バタッとみんな倒れた。
あ、トーマスは【起きろ】
「は!リク様!まずいですって!」
トーマスが目を覚まして慌ててオレのところに走ってきたが、全員倒れているのを見て、へたりこんだ。
「あー、どうしよう。伯爵様に何て言えばいいんだ……」
「一応言っておくが、死んでないからな」
トーマスは近くにいた一人の息があることを確認し安堵していた。
「ほっとしました。でも、これからどうするんです?」
「あいつらが使ってた馬車を奪って獣人族を逃がしてくれ。獣人族の村はたぶんここからそう遠くない。あそこで寝てる娘と一緒に獣人たちの村まで逃げてくれ」
「え?……本気ですか?商人ギルドと喧嘩ですよ。というか、一躍犯罪者ですヨ?それに、ミア様はどうするんです?」
忘れてた。
「……オレが何とかする。頼む、時間がないんだ」
「わ、わかりましたよ……」
「あ、そこの死体も馬車に積んでくれ」
「わかりました。リク様はあいつらと話をつけるんですね?」
「ああ、頼む急いでくれ。目を覚ましそうなんだ」
全員を眠らす呪文は結構きついものがある。
先ほどから何人か動き出す気配があり、かけ直しているのも正直きつい。
殺すのは一瞬だが、寝かし続けるのは継続だから魔力が消耗するのを肌で感じている。
そのたびに【エナジードレイン】をして【睡眠魔法】をかけているので、あまり繰り返すと、死んでしまう。
ああ、違う。オレが死ぬんじゃない。【エナジードレイン】して体力は満タンだから。
死ぬのはエナジードレインされすぎでげっそりしているこいつらだろう。
トーマスが逃げる準備をしてくれた。ひっぱり出された少女を馬車に戻し、死体も馬車に積み終えた。
「じゃあ、頼むぞ!」
「わかりました!」
ローブの男からの【活力を馬に与える】
【馬よ、全速力で走り出せ!】
馬は全速力で走りだした。
「リク様!できるだけ殺さないでくださいね!あ、でも殺すことになったら一人も残しちゃだめですよ。目撃者を消すのは鉄則ですからね!」
トーマスがやばいことを言っている。
さて、ネコミミ娘たちは逃がせた。後は、こいつらとの折衝だな。
【全員起きろ。】
その場にいたみんながシャキッとする。
「お前、何者だ?」
冒険者たちからどう考えても警戒されている。
「旅の武芸者、リク・ハヤマ。すまないが、奴隷たちは預からせてもらった」
「は?……おい、馬車はどこだ?」
がらの悪い冒険者風の男たちは、馬車を探していたが、近くにないことを確認し終えた。
「てめえ、盗みやがったな!」
一気に臨戦態勢となった。
「君たちの持ち物を奪ったことは許してほしい。ただ、獣人娘といえど年端もいかない子が痛めつけられているのは見ていられなかったものでな」
「そんなまどろっこしいことしなくても、あの小娘が気に入ったなら譲りますのに。まあ、適正価格くらいは払っていただきますがね」
ローブの男がオレと対話に出てきた。
「さあ、あの子が欲しいのなら譲りますから、どこに隠したか言ってくれますね」
「あの子以外の奴隷も全部買い取る。だから、もうあの事たちを追うのはやめてくれないか。しっぽがついていても言葉は通じる。習慣が違っても、きっと分かり合えるはずだろう。それに奴隷たちの分のお金は払う。払うから」
頭を下げる。
「いいですよ。ただ、あなたに払えますかね」
……どうしよう、金の話にはできたと思うが、そういえば金がないな。
「リク様!」
ミアがテオを連れて現れた。
「へえ、ちと若いがいい女じゃないか」
「クク、そうですねえ、見た目は私は獣人娘より好みですよ、気位が高そうで、屈服させたら気持ちがいいでしょうねえ」
ローブの男は、ミアを見定める。
「リク様、遅いから心配したんですよ」
ミアがオレのもとへ走ってくる。足場が悪くてもつれたので支えてあげた。
「大丈夫か?」
「はい。ありがとうございます。無事でよかった、リク様。ですが、この者たちは?」
ミアが冒険者たちを見やる。荒くれものの感じなので、ミアはあまりこういう奴らに慣れてないんじゃないかな。
「いいとこのお嬢さんがなんの御用ですかね?奴隷をその男に盗まれたのです。あんたの出る幕じゃねえんんだよなあ!」
男たちのリーダー格である頬に傷のある男が、ミアを睨みつける。
「え?……あなたは、ミア様?」
ローブの男はさすがに伯爵令嬢に気づいた様子である。
「ええ、グラフ伯爵家ミア・グラフです。私をご存知であれば、父上のこともご存じのはず。私の客人が何かしましたか」
「け、何かしましたかだってよ、盗人の肩持つってのか、ああ。令嬢か何かしらしらないが、ヒトの奴隷盗んで許される訳ねえだろ、違うか!」
頬に傷のある男がミアに食ってかかる。だが、ミアはその言葉を無視して、ローブの男に話しかける。
「お久しぶりねえ、アルベルト・シュミット。いつぞやの晩餐会ではダンスに付き合ってくれたわねえ。先ほどはすぐにあなたの顔を思い出さなくて失礼したわ。アルベルトはシュミット家をつぐにふさわしい人物だと、私は毎夜お父様に申し上げていましてよ」
おお、貴族っぽい言い回し。オレにウインクしてくれたから、この場を何とかしてくれるのかな、頼んだぞ、ミア。
「はは、ありがたい話で」
「それで、あなたの飼っている犬、しつけが悪いみたいねえ。だれにでも吠えていると飼い主の印象まで悪くなってしまいはしないかと、私は心配だわ。朱に交われば、赤くなるって言いますものね」
「は、はい」
貴族っぽい嫌味な言い回しもミアはできるんだなあ。
要はアレ、「無礼な冒険者はお前が雇っているのか、お前ンち取り潰すぞ」って言っているんだろう。 根っからの貴族であるミアだからこその立ち振る舞いである。
「変な犬の匂いがあなたについたら私、困っちゃうわ。あ、そうだアルベルト、私と一緒に町に帰りましょうよ。なんだか、変な犬の匂いがついているみたいだし、よくお話ししないとね」
「え、いや、しかし……」
なんとか理由をつけて断りたいのだろうが、それをミアが見逃すとは思えない。
「あ、犬は先に町へ帰しましょうね。一緒にいると臭くて鼻が曲がりそう。あんな犬と一緒にいるなんてシュミット家が犬臭くなっちゃうわ。そうすると、うちの屋敷には呼べないわね。ねえ、あの野放しの狂犬に対して教育は出来ているのかしら。私、そうしてもらわないと、シュミットのお家がグラフ領にあること自体が嫌だわ。そうすれば、シュミット家をグラフじゃないところにしてもらわないといけないわね。あ、私ちょうどいい場所しっているのよ。砂漠の真ん中に景色のきれいな場所があるのよね。そこの守りが手薄だから、シュミット家に守っていただくのはどうかしら。それはいい考えだわ、そうね、そうしましょう」
わざわざ回りくどい言い方をするな。
「あの無礼な冒険者を何とかしないとお前んち砂漠に左遷するぞ」
と、言えばいいと思うが。
「おい、おまえら、土下座しろ」
ローブの男が、震えながら冒険者に指示をした。冒険者たちは動揺している。
「四の五の言わずに、地面をなめてろ、死にたいのか!」
ローブの男はヒステリックに叫んだ。
ミアが権力で商人を黙らせました。