12章 ネコ狩り
前回のあらすじ
薬草採取に来たので、お弁当を食べました。
ピクニック中に何だか騒がしくなった。
ミア達に隠れているように伝え、トーマスとオレで様子を見に行く。
馬車を中心にこちらへゆっくり向かっている集団がある。
馬の数のわりに積んでいるものが重そうで、スピードは出ていない。
馬車の側面には大きく模様が描かれているがあれはなんだろうか。
馬車には布が掛けられ、時折うごめいており、そこからドンドンと叩く音も聞こえる。
人が押し込められているのだろうか。
その馬車のまわりに冒険者然とした連中が10名ほど。
剣士に弓使い、ヤリを持っているものもいる。いかにもな感じのローブの男は魔導士だろうか。
その冒険者然とした奴らは何者かと戦っているのだろう。金属のぶつかり合う音が聞こえた。
何人か血を流して倒れており、戦闘の激しさがうかがえる。
その後、突風が吹き、叫び声が聞こえたかと思うと、静かになった。魔法でも使ったのだろう。
「け、手間取らせやがって。おい、いまのどさくさであいつらに逃げられたなんてねえよな?」
頬に傷のある目つきの鋭い男がリーダー格のようだ。くそ、遠いな。良く聞こえない。
【地獄耳モード】聴覚をアップさせた。おお、良く聞こえる。
ついでにトーマスの聴覚もアップさせておこう。
「くそが、こいつのせいで何人死んだ?楽な仕事のはずだったのによお」
死体を蹴り上げる。人間だと思っていたが、ネコミミがついている。獣人か。
「若旦那、報酬は弾んでもらうぜ?こんな手練れが来るなんて知ってりゃこっちも準備できた。死んじまった奴らにも養う奴ぐらいいたからなあ」
若旦那と呼ばれたローブをかぶった魔術師風の男は答えた。
「ああ、父には話しておきます。全く、借金をして返さないどころか、こちらが仕方なく金の代わりに持ち帰った奴隷まで奪おうとするとはね。獣人っていう種族はこうまで不義理が出来るものですかね」
死んだ獣人族にツバを吐きかけた。
「しかし、みなさんも護衛としてよくやってくれました。私のほうからプレゼントですよ。あの子たちで遊んでいいですよ。獣人は知能は足りませんし、約束すら守りませんけど。具合だけはすこぶるいいですからね」
男達は下卑た雄たけびをあげた後、馬車を開ける。
品定めが終わったのか、一人を馬車から引き摺り出した。
引きずり出された娘も先ほどの死体と同様、ネコミミがついている。獣人のようだ。獣人の娘は後ろ手に結ばれ、口に布を噛まされていた。
なるほど、男たちが選んだのもわかる、自然と曲線を帯びた体のラインが健康的な色気を放っている。 男たちの嘗め回すような視線も理解はできる。その上、ネコのケモミミ少女――
オレはしばらく状況把握のため様子を見ていたが、これからのことはちょっと見過ごせないな。
トーマスに小声で話しかける。
「オレ、あの子助けにいくけどいいか?」
「え?いやあ、リク様優しいから気持ちはわかりますけど、奴隷は基本的に主人が自由に扱っていいですから、口出し手出ししたら問題になりますよ」
「え?だって、あいつら悪い奴らだよ?」
「まあ、品行方正とは見えませんけど、冒険者なんて割とあんなもんですよ。荒くれの集まりです。」
「え、でも借金のカタに女の子たちを連れ去っていいの?」
「借金を返せなかったら当然でしょう?それに馬車の模様を見るに、伯爵様から認められた商人ギルドの有力商人ですよ?借金の金利も適正なはずですよ」
意味が分からないといった顔のトーマス。
「それに獣人相手に金を貸してあげるだけ偉いですよ。そもそも初めから獣人奴隷が欲しければ狩ればいいだけですから。獣人は市民権がありませんから、別に狩ってきて奴隷にしても法律に違反しているわけではありませんし」
ところ変われば、ってやつだな。オレ達の世界では、奴隷商や人身売買なんて最低の商売で、やくざ者でもあまりやらないが、この世界では伯爵様お墨付きだもんなあ。おまけに獣人に人権がないと来てる。
とすると、今からあの子を助けるオレは正義の味方などではなく、商売を邪魔する変な奴ってとこか。
「オレが助けにいったら、どうなるの?」
「最悪捕まるんじゃないですかね。オレも仕事中であれば捕まえなきゃいけないでしょうね。まあ、リク様を捕まえられる戦力はちょっとベケットの町にはありそうもないですが。ヘルガ様はノックダウンしてますし」
厄介ごとはいやだけど、ネコミミ少女が襲われるのをほっとくって選択肢ないよな。
この世界における一般常識は必ずしも個人は幸せにしない。……元の世界もそうだったように。
ヘルガが子爵家に嫁ぐのは、一般的には幸せなことなのだろう。でも、それはヘルガの幸せとはイコールではない。
だから、ヘルガも奪うことにしたんだ。
ここも好きにさせてもらうぞ。
この世界の理や常識がどうであれ、オレはオレの思うように行動しよう。
ヘルガの一件でオレはそう決めていた。
「げへへへ!」
オレとトーマスが相談している間に、男たちは欲望にくらんだ目で捕まえられた少女の猿轡を解いた。
少女のためではなく、自分たちの欲望を満たすためだろう。
「なんで、こんなひどいことができると?男を殺し、女子どもを捕まえ、奴隷にする。これがお前たちヒト族のやり方っちいうとね!」
ネコミミ少女は、怒りが収まらない様子で叫んだ。お、あの子が話してるのは九州のほうの方言?
「いやですねえ、男を殺すつもりなんてありませんでしたよ。素直に、女を引き渡せばよかったのです。それを抵抗するからこんなことになったんでしょ」
ローブの男はめんどくさそうに答える。
「借りとったお金は返したはずち、村長は言っとった。なんで借りとったお金の倍も返さないけんのね?それに返せんけっちいうてみんなを奴隷にするっちひどいと思わんのね?」
ネコミミ少女の話は、オレは、もっともだと思う。
ただ、ベケットの町でこの二人の討論をしたところで、軍配が上がるのはローブの男のほうなんだろうな。
「適正な金額を適正な金利で貸し与えた結果がこれですか。ああ、貸すんじゃなかった。あなたたちなんて、私のところに金を借りに来た時に死んでれば良かったのです。貸してもらうときは、『有難い、恩人だ』なんて言っておきながら、返す時になったら、『ひどすぎる、人でなし』ってねえ、貸した金返してからご立派なことをおっしゃってくださいねえ。金も返さずギャーギャーうるさいですねえ。町に帰ったらしっかり教育してやらないとですね。みなさん、そのうるさい口をふさいで好きにしてください。獣人の娘は、がさつで可愛げがないが、具合はヒトよりいいですからね」
「うっひょー、じゃあ、いただきます!」
「やめてよ!」
少女の服を破り、押し倒そうとする男たち。少女は悲鳴を上げている。
下衆だなあ。この状況が合法ってありえないだろ。
「トーマス、オレ介入するからな」
「え、ちょっとリク様」
トーマスは止めようとしているが、オレは【ショートテレポート】してローブの男の前に出る。
「だれだ、貴様は!」
後で自己紹介するからとりあえず、【みんな寝てろ】
ドタドタっと音がした。
獣人族が教われていました。




