11章 お弁当は私の手作りです
前回のあらすじ
ミアたちは薬草採取に来ました。リクはその護衛です。
キノコはうまい。野外でワイルドに食べるのもいい。
そして、やっぱり魔法で焼くよりきちんと火を起こして焼いたほうがうまいな。
香りの違いなんだろうな。
騎士トーマスも美味しそうに食べている。
「お酒が欲しいな」
「我々護衛ですからね。お酒なんか飲んじゃっていいんですか?アレ?こんなところにワインが」
馬車からワインを取り出すトーマス。
「うわ、リク様、ワイン昼間っから開けてたら、怒られますよ。うわ、コップなんて持ってきて。えー、オレ仕事中に酒飲むの怒られると思うなあ」
とか何とか独り言ちながら、コップなぞ取り出してワインの蓋を軽快にあけるトーマス。オレはなんにもやってないよ?
「リク様飲まないんですか?」
「……飲むよ。もう開けてるんだろ?さっきから何一人芝居やってるんだ」
「いや、だてオレが一人で飲みたがったとか言ったらミア様に怒られるじゃないですか。それがリク様が飲みたがったって言ったらきっと大丈夫ですよ」
「オレのせいにするのかよ」
「飲まないんですか?」
「いや、飲むけど」
乾杯。
「いや、結局リク様だったら、ミア様に見つかっても押し倒してチュッチュしたらいんですよ。伯爵令嬢とか言ってますけどね、結局小娘なんですからリク様の大人テクでメロメロピーにしてやればいいんですよ!」
「だれが小娘よ。だれがメロメロピーよ」
ミアが薬草を抱えて戻ってきた。
「あ、小娘さま、どうしました?」
「小娘に様を付けたところで何がどうなるのよ」
「ミア様違うんですよ」
トーマスは赤ら顔で、ミアに言い訳をする。こいつ、いつの間にビン一本開けやがったんだ。オレ一杯しか飲んでないんだぞ。
「リク様が飲みたいって……」
「リク様。そうなんですか?」
ミアがすねたようにオレに尋ねる。少し怒らせてしまったかな。
「すまない、ミア。トーマスは止めたのだが、オレが飲みたくなったんだ。ミアとピクニックに行くのがうれしくてな。つい、楽しい気分になってしまったんだ。護衛のトーマスに飲ませてしまってすまない。どうすれば、許してもらえるか?」
ミアは少し困ったような顔をした。
「リク様。そこまで謝らないでください」
うつむいたオレを覗き込んで、
「私は、一緒に飲んでくれないから、すねていたんです。……私も一緒に飲みたかったです」
上目遣いでオレを見るミア。ミアってお酒飲んでいい年なのかな。
この世界では大人なのかもしれないな。
「今度一緒にお酒でも飲みに行こうか」
「リク様、明日街に出るんですよね?」
「うん。」
「そのときに一緒に街を回りませんか?おいしいお店があるらしいんです」
ミアはとても楽しそうに話す。オレも町は不慣れだし、こんなかわいい女の子に連れていてもらえるなら断る理由はない。
「楽しそうだな。一緒に行こう」
「はい!」
元気いっぱいに答えるミア。今にも踊りだしそうに見える。ミアは令嬢なだけあって上品な物腰を身につけてはいるが、実際はとても活発な女の子なんだろうな。
「リク様、ベケットの町はですね、内陸なのもあってリンゴなどの果樹が充実しているんです。それを使ったデザートが甘くてとてもおいしいんです!あとですね、リク様にお似合いの服を仕立てるときに、いい生地が売っていたんですよ。王都でも流行りの服を仕立ててくれるテーラーがですね、店構えが桃色でかわいらしいんですよ!」
勢いに圧倒されてしまう。明日が楽しみで仕方ないって感じだな。放っておくといつまでもしゃべっていそうだ。
こちらの都合お構いなしなところが、コドモっぽくて愛らしいけど、そろそろご飯が食べたい。おなかすいたぞ。
「ミア」
「え?はい?」
しゃべり続けているミアの唇を強引に奪う。激しく抱きしめる。
「……ぅ、……はぅ」
ミアは顔を真っ赤にしている。
「――な、何するんですか……」
「ミア、明日のことは、明日に取っておこうよ。いまはピクニック中だよ?」
「は、はい」
解放してやると、ミアは慌てて離れた。だいぶ髪をわしゃわしゃと撫でたので、髪を整えなおしている。
急におなかが鳴った。トーマスだな。空気読めよ。
「ハハハ。おなかが減ったなあ、テオ」
「あ、え?そ、そうですね。」
「もう。でも、お昼にしましょうか。ちょうどよく火起こしも出来てるみたいですし」
ミアが先ほどの狼狽は忘れたようにてきぱきとお昼の準備の指示をしていく。
こういったところでもミアはリーダーシップを発揮する。
テオは指示通りに布を広げる。
上等な刺繍の入ったものをレジャーシートのようにに使っているのでビックリする。
座席とお茶の用意ができたので、待ちに待ったお昼の時間。
重箱をミアが、取り出す。
「リク様の好きなものわからないから、いっぱい作ってみたんですよ?好きなものがあったら、言ってくださいね。覚えておきますから」
「ありがとう。いいお嫁さんになりそうだな。ミアは」
「……頑張ります、待っててくださいね。……負けていられませんから」
ミアは十分いいお嫁さんになる思うけどなあ。早速いただこう。
オレは「いただきます」と言って手を合わせたが、食べる前の儀式はみなそれぞれだった。
ミアはものを食べる前に、広げたスカーフの上で呪文を詠唱し、食べるものを清めている。殺生をして手に入るもの、「肉類」は清めてから食べるらしい。
テオは両手を組み祈った。
トーマスは「うはー、うまそうですね!オレ一番でかいのからもらいますよ?いいっすね?」と言ってから食べた。特に祈らない。
オレはごく普通にいただきます、と両手を合わせ、パンみたいなものをもらう。
サンドイッチみたいなものだ。パンっていうよりナンみたいな生地だけどこれはこれでもちもちでおいしい。具は鳥のモモ肉の燻製かな。香ばしくて食が進む。
「この具をパンで挟んだやつ美味しいよ」
「ナンドイッチですね、良かったです」
覚えやすいな。ナンみたいなサンドイッチ=ナンドイッチ。
「ナンドイッチのお勧めの具はですね、これです!ベリージャム入りのものですよ」
ミアがジャム入りのナンドイッチを食べてほしそうだ。もうすこし鳥の燻製的ナンドイッチをゆっくり味わいたいのだが。
「私頑張って作ったんでとてもおいしいですよ」とミアの顔に書いてあるのでありがたくジャム入りナンドイッチをもらおう。
「ミア、取って」
「はい、どうぞ」
これはやはり食べさせてもらうべきだろう。少し恥ずかしいが、ここはあえて。
「食べさせて」
「……え?……どうぞ」
オレは口を開けて待つ。ミアが食べさせてくれた。なんだかぎこちない。
「……どうですか?」
甘みがちょうどよい。爽やかな香り。
「とてもおいしいよ」
「……良かった」
ミアが胸を撫でおろしている。
「このジャムもミアが作ったの?」
「はい!これはお手製なんですよ、お母様直伝で、朝ごはんのナンにいつもつけて食べるんです。これはグラフ伯爵家にだけ伝わっているんですよ!」
ミアがものすごくいいものだと言いたいらしく、力説してくる。
一生懸命頑張って作ったんだろうな、と思うと微笑ましい。
本当に美味しかったよ、ミア。
「もうひとつ頂戴」
「はい。あ、お茶も入れましょうね」
ミアが自ら入れてくれる。伯爵令嬢ともなれば、メイドの一人も連れていそうだが、ミアが断っているそうだ。薬草採取は伯爵から禁止されているので、こっそりお忍びで来ているらしい。わざわざ伯爵から睨まれたいメイドはいないようである。
トーマスはミアが生まれた時から護衛として側にいるので、どうしても甘やかしてしまうそうで、付き合ってあげているらしい。テオは伯爵相手より気が楽なので特に嫌がらないそうだが。
「お茶もナンと合うな」
「あ、リク様。ジャムが口の周りについてますよ」
特に拭くものを持っていない。
「私のハンカチを使ってください」
恥ずかしいが、ここもあえて。男のロマンである。
「拭いてくれる?」
「え?……あ、はい。あの、リク様。二人きりの時はいいですけど、外だとはずかしいですよ。」
ミアは恥ずかしがっているが、拭いてくれた。
「見てるこっちが恥ずかしくなるんですが?」
「もう、トーマスはこっち見なけりゃいいじゃない」
「そうは言っても、目をつぶっていると食べれないでしょうに。……聞こえますか、リク様」
トーマスの示す方向を見る。
なにやら騒がしい。あまりいい予感はしない。
「トーマスとオレで様子を見てくるよ。テオは馬車の準備を。ミアお昼の片づけできる?」
「はい、わかりました」
まだだいぶあるのでミアがしょんぼりしている。
オレはジャム入りのナンドイッチを何個かつまんだ。
「残りは馬車で食べようか。他のも食べたいしね」
「はい!」
元気いっぱいに返事をしてくれた。
ミアの手作りのお弁当は美味しかったです。