10章 薬草採取の護衛
前回のあらすじ
ミアはリクと仲直りしました。
決闘で傷ついたヘルガのために薬草が必要だ。
ミアが自分で採りにいくとのことなので、ついていく。
パーティーは騎士トーマスと御者であるテオ、そして伯爵令嬢ミア。
オレは悪目立ちするのでTシャツ短パンから着替えている。
町長の家にあった簡単な黒いローブのようなものを来ているが、暑い。
今日は仕方ないが明日町にでも出て仕立ててもらうとしよう。
馬車で町の入り口についた。
オレはすでに通行証を手に入れているため、門番に止められることもない。
握手を求められたくらいだ。決闘を見てたんだろうな。
町を出ると、爽やかな風が吹きつけた。
外出するのにちょうどいい気候だ。
今日は天気がいいので、薬草を採りに行きがてら外でご飯を食べようと言うことになっている。
ミアの隣には重箱がこれみよがしに置かれている。
いい匂いがしている。果実のジャムのような甘い香りがしてきた。
うん、楽しいピクニックになりそうだな。
昨日一日でゴブリンと戦ったり、ヘルガと決闘したりで忙しかったから今日くらいはまったり過ごしたいものだ。
しかし、この前は街道でゴブリンに襲われてたしなあ。
「トーマス、今日行くところって安全なのか?」
「そうですね、街道から少しだけ外れたところですから、比較的安全ですよ」
「この前は街道で襲われてなかったか?」
「そうですよ、ホント。あれだけは謎ですねえ。そもそもゴブリンライダーってあまりいないんですよ。ゴブリンという種族自体の知恵は騎乗可能なぐらいあるらしいですけどね。子どものころから練習していないと乗れないですし。まあ、これは人間でも同じですかね」
「でも、今日はリク様もいるから安心ですね」
ミアが街道を見ながら話しかけてきた。
「でも、このところモンスターが増えてるような気がしますけどね」
「理由は?」
「モンスターの勢力図の変化ですかね。魔族が関わってるとは正直思いたくないですね。その場合、いくぶん厄介ですから」
強いモンスターの移動によりゴブリンなどの生息地が変わり、街道付近までやって来たってとこかな。
「魔族ってモンスターを使役できるの?」
トーマスに代わってミアが答えた。
「ええ。単純に強いから従わせているというのもありますし。吸血鬼に対するコウモリ族のような『眷属』っていうのもいます。強い魔族には『眷属』がいて、手足のように操れると聞きますよ。それに、『精神』に影響する魔法も魔族の得意分野ですから、『竜族』を従えているものも中にはいるそうですよ。」
昨日ヘルガが使った【誘惑】もその魔法の一部なのかな。昨日完全に状態異常かかってたからなあ。
ヘルガの唇、体そのすべてを欲しがった、抗い得ないほどに。
「そうですね。ヘルガ様が使ったようなものですね」
何で考えていることがわかるんでしょうか。睨まないでもらいたい。
「そろそろ着きますよ。外に出る準備お願いします」
御者テオが声掛けをしてくれた。
ミアが教えてくれてたが、ここは「夜の森」と呼ばれるエルフ居住区の入り口である。
奥のほうで幻覚魔法をかけて生活しているらしい。
だが、人間が入り口のあたりで狩りを行う分には立ち入りは構わないそうだ。
ただ、モンスターは街道付近より凶悪なので少なくとも一人で入ったりしないようにとのことだった。
ミアは令嬢としては活動的なほうらしく、薬草採取なども自分で行う。
普通の令嬢は使用人にやらせるか、冒険者ギルドに依頼を出すらしい。
今回はヘルガのため薬湯づくりを急ぎたいので自分で取りに行きたかったということで、ミアが度を超えたお転婆というわけではないと思う。
ただ、「あれこれ外に出るのに付き合わされる自分の身にもなってください」とトーマスはぼやいていた。
危ない目にあうとトーマスの責任ってことになるんだろうしな。
「ミア様のお世話、これからも頑張ってくださいね」
馬車を降りながらトーマスが軽口を叩く。
「ミアと一緒になってもしっかり雇ってやるぞ。めんどくさいのはトーマスに任すからな」
「そのときはたっぷり危険手当もらいますからね」
とトーマスは笑った。口ではそう言いながら、嬉しそうだ。
傍から見ると親子みたいに見えるミアとトーマスは、とても仲が良さそうに見える。
みな馬車から降りると、テオとミアが薬草採取、トーマスとオレが護衛っていうことになった。
護衛って言ってもこの辺は比較的安心らしいが。
森の中をトーマス、街道側をオレ担当。
しばらくボーッとしていたが、ヒマだな。
トーマスが、森の中でしゃがんで作業をしている。
「トーマスなにやってるの?」
「ああ、キノコを採ってます。これ、つまみにちょうどいいんですよ。」
お、本当にうまそうだな。エリンギみたい。焼くとうまそうだな。魔法でうまく焼けるかな。
ちょっと、魔法効果の検証してみたかったんだよね。
「トーマス、それ食べれるんだよね」
「はい。焼きますか?」
おお、同じことを考えているな。
「火起こしましょうか」
「いや、オレがやる」
ここで武闘家の「技」をお見せしよう。
昨日のヘルガとの夜の空中散歩での話で、「なぜ必殺技名を叫ばないのか」とヘルガに聞かれ、必要ないからと答えていたら、ヘルガは驚いていたな。
ヘルガは必殺技の必要性を懇々とオレに説いていた。
「威力増大!」「命中アップ!」「何より気持ちいい!」のだそうだ。
正直、【死ね】と言っても、
【大いなる闇にたゆたう原初の罪を背負いたるものどもよ、我に仇なすものを滅しその口腔に収めよ、ボラシティロスト!】
といっても効果は変わらないじゃないのとも思う。
だが、元の世界でも「よっこらしょ」「わっしょい」などの掛け声の科学的有効性は示されているところだしな。
あと、やはりオレも異世界に来てからというもの『オレの心のナカの中2』が暴れだしているのを感じるのだ。めちゃくちゃイキった名前の必殺技を叫びたい。
だから、これから奥義名、魔法名を叫ぶことにしよう。
ヘルガも必殺技への命名をおすすめしていたしな。
ということで、食らえ、キノコよ。
【爪術、大車輪!】素早い爪の動きによる「キノコの輪切り」である。
【掌術、裏当て熱通し!】掌底を食らわせた後、さらに踏み込むことで衝撃をキノコ体内のにまで与え、「中までしっかり火を通す。」
【手刀術、地平線擦傷】手刀をあえて掠らせ、擦傷をあたえ、「キノコの表面をこんがり焼くグリル」する技である。
うん、しっかり焼けてそう。いい匂いだ。
トーマスがポカンとしている。焼けてるよ、おいしそうだよ?
「リク様、何やったんです?火なんて一切見えなかったのにキノコが焼けていますけど」
「手刀による摩擦熱だ」
「手の動きが全く見えませんでしたよ?」
そりゃそうだ、全く動いてないもの。
「食べよう。いい匂いだ」
「……そうですね。いただきます」
うん、うまい。キノコはとてもおいしかった。しかし、塩か醤油が欲しいなあ。
【塩よ、出てこい!醤油でもいいよ!】
なにも起こらない。
ん?魔法の定義外ってことか?
もう一度、魔法の定義を思い出してみる。
無属性魔法:【トリート】髪などの物質・状態に変化をもたらす。
そうか、変化をもたらすが基本だから、「無い」ものは無理なんだな。
と、すると……。昼ごはんの後に、ちょっと思いついたことを試してみよう。
「トーマス、昼御飯用に火を起こしておこう」
「火がなくても食べれるものしかありませんよ」
「オレはお茶も飲みたいんだ。頼むよ。木を持ってきてくれないか。」
オレは木を焼いた後の炭で一儲けすることを思いついた。
リクはミアたちの護衛をしました。




