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新たな仲間とともに

 城内が大騒ぎとなったおかげであっさりと掘から抜け出したアレクたちは、街の路地裏に逃げ、魔法の炎で服を乾かしながら、これからのことを話し合うことにした。

 とりわけ、真っ先に決めないといけないことは、女性囚人をどうするかだった。


「さて、色々と話をする前に、君はどうして捕まっていたんだい?」


 アレクがそう尋ねると、女性はフルフルと身体を震わせ始めた。

 何か怖い思いをしたのだろうか?


「森で狩りをしている時に見てしまったんだ。兵士が魔物になる所を! それを城の兵士に伝えたら地下牢に繋がれてしまって……」

「兵士が魔物に!?」


「あぁ、まるで影を羽織るように黒い何かに包まれて魔物に変身したんだ」


 悪魔憑きとなった人間の影には、悪魔の本体が隠れている。

 表面上は人に見えるし、本人に自覚がなくても、悪魔が牙を剥くときになると、影が実体化して人間の身体を包むのだ。


「助けてくれて感謝する。君達が来なければ私はあのまま餓死するところだった。私の名前はラフィー。命の恩人である君達の名前を教えて貰っても良いかな?」


 どうやらラフィーはこの国の秘密を知ったせいで投獄されていたらしい。

 その話を聞いてアレクはこの国の中枢だけでなく、その末端もかなり魔王の力に侵食されていることを確信してしまった。

 イルースカが早く解決したいと言っていたのはおふざけでも何でも無く、真面目に切羽詰まった状況になっていたということだ。全然本編後のおまけな話なんかではなかったのだ。


「……イルースカ様、また騙しましたね?」


 アレクはため息を吐くついでに小さく愚痴も吐き出すと、頭を振ってからラフィーと向き合った。


「僕はアレク。魔王の復活を阻止するために三百年前から転生してきたんだ」

「……えっと、すまない。お嬢さん。この青年は私を助ける最中にどこか頭を打ち付けたのだろうか? それとも水中で息が続かず、酸素欠乏症にかかって……」


 アレクは真面目に答えたのにラフィーからものすごくかわいそうな者を見る目で見られてしまった。

 そんなラフィーの視線に耐えられずリリシアに助けを目で訴えてみると――。


「我が名はリリシア、魔神を魂に宿す闇の申し子であり、闇の大魔法使い! そして、ここにいる勇者アレクと怪盗団を始める漆黒の義賊です!」


 助けは全く役に立ちそうに無かった。

 案の定、ラフィーは頭を抱えてうずくまっている。


「……酸素欠乏症にかかったのは私だろうか? それとも牢屋に繋がれている際に幻覚作用のある薬でも打たれたか?」

「おや、頭の調子が悪いのであれば、どこか休む場所を見つけなくてはいけませんね」


「おかしいのは私なのか!? なぁ!?」


 ラフィーは完全に混乱しているらしく、せわしなくアレクとリリシアに顔を振っていた。

 その様子があんまりにもかわいそうに見えてきて、アレクはため息をつきながらリリシアに一つ提案をした。


「リリシア、イルースカ様に身体を貸してあげて、話をしてもらったらどうだろう? 悪魔憑きの話もイルースカ様に確認して欲しいし」

「はーい、呼ばれて飛び出てイルースカ。ラフィーだっけ? なかなか興味深い話してたわね」


「ホント残念な神様ですよあなたは……」


 何の貯めもなく出てきたイルースカにアレクは頭を押さえ、ラフィーは口をあんぐり開けたまま固まった。

 冗談みたいな降臨だったが、リリシアの髪が淡く光って目を瞑っている様子から本当に降臨しているのは間違い無かった。


「イルースカって、あの女神イルースカ様か?」

「そだよー。三百年前、そこのアレクに聖剣の力を貸して、魔王を倒す旅の手助けをした勝利と正義の女神イルースカです。よーし、証拠に後光とか見せちゃおっかな!」


 イルースカがノリノリでそう宣言すると、淡く光っていたリリシアの身体がさらに輝きを増して、眩しくて目を開けられないくらいの光が放たれる。


「あ!? いっ!? えええ!? イルースカ様!? イルースカ様なんで!? ……きゅー」

「なぜ気絶したし!? まさかゴッドリアリティショック症状! 私の神々しさに耐えきれなくて信仰心がオーバーロードしてショックを受けたのね。なら仕方無いわ。神々しすぎる私、なんて罪作りな女神様なのかしら!」


「……イルースカ様がアホだと知ったショックじゃないでしょうか。自愛が眩しすぎて何も見えないですよ」

「アレク君ひどっ!? 場を和ませて緊張させないための冗談だったのに」


 あれが冗談であるものか。

 アレクはそう心の中で呟くと、イルースカの文句を無視して、気絶したラフィーを起こすと、王城での出来事と自分達の素性を一から説明し直した。

 おかげでラフィーも少し納得がいかないようだったが、アレクたちの事情を受け入れてくれたらしい。


「なるほど。にわかには信じられなかったが、どうやら嘘をついている様子はない。イルースカ様の性格には驚かされたが……」

「あれに四六時中頭の中で囁かれるなんて、リリシアはすごいよな。僕だったら正気を失って発狂するよ」


「あぁ、頭がおかしくなっても仕方無い――。あっ! いや、神に愛されるというのはとても名誉なことではあるのだが……」


 ラフィーも目の前にその神様がいるのに口を滑らせたことを慌てて弁明するが、イルースカは口を尖らせて明らかに不機嫌そうに頬を膨らませていた。


「ちょっとこれでも私、勝利と正義と慈愛の神様なんですけどぉ! 何で邪神みたいな扱いしてるのよぉ!? SAN値直葬するようなお告げなんてしてないわよ!」

「イルースカ様は良い女神だと思いますよ。加護は本当に強力ですし。口さえ閉じていればですけどね」


「アレク君ひどっ! 転生してからで一番良い笑顔だし!?」

「というか、そんなことはどうでも良いんですよイルースカ様。魔王の大冠って人を魔物化することが出来るんですか?」


「……あれ? おかしいな。さっきのはっきりした悪口より、どうでも良いって言われた事の方が傷付いたんだけど。アレク君私のことどうでもいいの!? 私のことは遊びだったのね。よよよ……」


 そういうところなんですよ! とアレクは突っ込みたくなったが何とか耐える。

 それにどうせ放っておけばすぐケロッとするのだ。


「まぁ、確かに今は魔王の大冠ね。結論から言えば人間を悪魔憑きにすることぐらい簡単に出来るでしょうね。魔王の大冠の力を引き出せば、力は弱くても魔王の真似事が出来る訳だし。魔物を呼び出すのではなく、人を悪魔憑きにするってのが、まさに弱体化した魔王の力の証って感じ」

「悪魔憑きの方が簡単なんですか?」


「まぁね。魔物を呼び出すっていうのは、魔界に繋がる穴を世界にこじ開けないといけないけど、悪魔憑きの場合は実体ではなく魔物の影や力だけど呼び出せば良い。実体がないだけ簡単なの。私が本体で降臨せず、依り代であるリリシアの身体を借りて出てきているのと同じ理屈ね。界をまたいだ移動はそれだけ大変なのよ」


 魔王も神様も別の世界に住んでいる限り、この世界に現界するのにはある程度の制約があるらしい。

 その説明にラフィーがスッと手をあげる。


「イルースカ様、質問があります。では、七つの大冠が揃わない限り、魔物の復活はないということですか? そうであれば、一つを破壊しただけで魔物の完全復活は止められそうですが」

「いいえ、そういう訳にはいかないわ。悪魔憑きになった人間が人を襲って魂を集めれば、その魂を触媒にして魔界への扉を開くことは出来る。魔王が復活しなくても世界中で大変な目に合うわよ?」


「なるほど……。魔王の大冠を全部壊さない限り、平和は脅かされるということですね」

「そうそう。アレク君のアルバ・ルクスで魔王の力ごと魔王の大冠を七つ破壊すれば人間の勝ちって訳。魔王の復活も魔界の侵攻も起きず、世界は平和のままでした。めでたしめでたし。みんな大好きハッピーエンドってね」


 イルースカとラフィーのやりとりでアレクは改めて頭を抱えた。

 やっぱりイルースカにまた騙されたと思ったのは間違いじゃなかった。

 口を閉じていれば良い女神だと言ったけど、大事な情報はちゃんと言って欲しい。本当に融通の利かない女神だ。

 けれど、不思議と憎めないし、こうやってラフィーともすぐ打ち解けて話せているあたり、人間好きな女神であることに違いは無い。こうして人間を守るために手を尽くしているのも事実だ。


「そういうこと。見たところ、ラフィーもこの時代の人間にしては珍しく戦う才能はあるみたいだし、力を貸してくれないかな? 協力してくれたら私の加護をお裾分けするし」

「何と! まさかイルースカ様が私の力を認めてくれるとはっ!? 何たる誉れ! 是非とも協力させてください! 私の弓であらゆる難敵を射貫いて見せます!」


「てててれってってってー。ラフィーが仲間になった。おめでとうアレク君。それじゃあ、リリシアに身体を返すから、後はよろしくっ!」


 人間好き過ぎてメチャクチャやるのがたまに傷なんだけど。

 アレクはそう心の中で呟き、同じくイルースカ被害者のラフィーの申し出に対して、申し訳なさそうに感謝する。


「ありがとう。何というか巻き込むような形になってごめんね」

「いえ、これも貴族のつとめ。ノブレス・オブリージュだ。では、まずは私の屋敷に戻って準備をしよう。執事やメイド達が牢屋に入れられなかったことから察するに、屋敷は無事だ」


「「貴族?」」


 貴族という単語にアレクだけでなく、リリシアも反応した。

 そして、二人は顔を向き合うと――。


「リリシア、貴族、この時代、お金持ち?」

「アレクさん、貴族、お飯いっぱい?」


 頭がおかしくなったのか。突然片言になり始める。


「旅の仕度、お金、必要」

「腹ごしらえ、お腹いっぱい」

「道具、薬、保存食! 路銀いっぱい!」

「パン、お肉、ケーキ! お腹いっぱい!」

「「今すぐ案内! すぐ!」」


 ぐいっとラフィーに近づいたアレクとリリシアの目は太陽の光も霞むくらいランランと輝いていた。


「いや、確かに仲間になると言った以上、そういった協力もやぶさかではないのだが……。……ないのだが。巻き込んでごめんと言った口はどこへ行った!?」

「「それはそれ。これはこれということで」」


「……イルースカ様の縁を感じるなぁ……」


 そう諦めたように呟いたラフィーの目は死んだ魚のような目だったと、アレクとリリシアは後世に語った。

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