脱出
地下牢へと辿り着くと、アレクとリリシアは地下牢に他の囚人がいないか確認しながら奥へと向かった。
何せこれから壁を壊して大量の水を呼び込むのだ。
もし、牢屋に繋がれた人がいたら迫る水から逃げられず、溺れて死んでしまう。
もちろん、極悪の囚人だとしたら、この城から逃げた後にもう一度捕まえ直して城に突き返すつもりだった。
けれど、幸いな事に地下牢に繋がれている人は見つからず、最奥にまで無事に辿り着いた。
「アレクさん、次が最後の牢屋です」
「分かった。って、誰かいるよ」
アレクが最後の牢屋の前に立つと、中にいた人がゆっくりと顔をあげた。
汚れでくすんでいるが金髪の少女が、壁から伸びる手錠に繋がれている。
「今、その手錠を外すから壁に寄って!」
「お前達は……?」
「説明は後でする。今は時間がない!」
兵士達の声が近づいて来ているのだ。どうやらアレクたちが地下牢に逃げ込んだことが気付かれたらしい。
アレクは聖剣アルバ・ルクスを呼び出すと、そのまま鉄格子を切り裂き、金髪の少女の手錠を切り裂いた。
そして、壁から解き放たれた少女をリリシアに預けると、一呼吸置いてからアルバ・ルクスを構え直した。
「穿てアルバ・ルクス!」
叫びとともにアレクは剣を突き出すと、白い光が濁流のように放たれ地下の壁を一撃で貫いた。
それに遅れて数秒後、黒い濁流がアレクの開けた穴から襲いかかってくる。
掘の中の水が空いた穴に向けて流れ込んでいるのだ。
常人ならその水に撃たれただけで身体中の骨が折れるほどの圧力がかかる。
しかし、アレクもリリシアもその穴の前から逃げなかった。
「防御結界セイントシールド!」
リリシアが光の結界を張ると、瓦礫を含んだ水がガリガリと音を立てながらアレクとリリシアの周りを流れ去っていく。
しかし、完全に防げたのも最初の数秒だけで、ピシッピシッと音を立てながら光の壁にヒビが入っていき、ジワリジワリと水が結界の中にも漏れだした。
「うっ、くっ、このままじゃ……」
防御結界セイントシールドが割れる。
削られ続ける魔法の盾を維持するには膨大な魔力がいる。
けれど、リリシアの弱った身体ではその負荷に耐えられないのだろう。
アレクはそれに気付くと聖剣をリリシアに向けた。
「アルバ・ルクス、その力を託せ」
アレクの声で聖剣が柔らかく輝き、剣から放たれた光の輪がリリシアの身体を包む。
「これはアレクさんの魔力!? すごいです! この強さなら耐えられます」
アレクは聖剣の力を仲間に与えることも出来る。
その間、聖剣の能力は落ちてしまうが、それ以上に味方を強くすることが出来る。
こうして聖剣を託す力により、アレクはリリシアの防御結界を強化し、何とか水圧で押しつぶされて死ぬことだけは避けられた。
「すごいですアレクさん。おかげで耐えきることが出来ました。助かりました」
「よし、水圧が弱まってきた。リリシア、囚われていた少女は僕が運ぶ。さあ、大きく息を吸って。ここから逃げ出すよ」
アレクの合図で三人が大きく息を吸うと結界が砕け、三人は水の中に放り出された。
冷たい水の中から光の差す水面へ向けて三人は懸命に泳ぎ、脱出に成功するのであった。