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勇者の聖剣

 リリシアが泣き止んだ後、アレクは彼女から色々な話をして貰った。

 この世界が本当にアレクの生きていた時代から300年経っていること、この王都は昔着たことがある街だったこと。

そして、肝心の魔物は300年の間、絶滅したのか全く見かけなくなったのに、ここ数年目撃例が出始めたことも教えてくれた。

 けれど、その中で一番アレクを困らせたのは意外な情報だった。


「魔物が出始めたのに、冒険者ギルドが無い!?」

「ここ数年を除いて300年、魔物が一匹も出なかったですから冒険者ギルドが必要なくなっちゃったんですよ。200年くらい前になくなっちゃいました」


「え、それじゃあ、クエストで路銀を稼ぐことも出来ないの?」

「うーん……、昔のクエストに近いものと言えば、商人の馬車護衛ぐらいでしょうか? 魔物から守るんじゃなくて、盗賊から守る任務になります。といっても主要街道で賊に襲われることなんてほっとんどないので、護衛報酬も安いです」


「うわぁ、本当に魔物がいなくなって平和になったんだねぇ」


 300年前は魔物を倒すことで街から街への冒険に必要な資金を集めていたアレクにとって、この時代は非常に困ったものとなっていた。

 昔にあったお金を稼ぐ手段が全く通じないのだ。


「こうなったら王様に直接会いに行って頼んでみようか」

「王様に直接会いにいってどうするんです?」


「昔は各国の王都についたら王様に挨拶しに行っててね。国の中で不自由ないように色々工面してもらったんだよ。代わりに困り事を解決してね」

「確かに勇者アレクの伝説では色々な国に行って、魔王を倒すための道具を手に入れていましたね。確かに国家の一大事ですし、多少の協力はしてくれそうですね」


「そういうこと。今回も魔王を封印するためだし、きっと王様も手を貸してくれるよ。それに王様やその側近だったら魔王の大冠についても何か知っているかもしれないし。それじゃあ、お城の場所を案内してもらえるかな? 昔に来たことがあるって言っても街が変わりすぎてよく分からないし」

「分かりました。お任せ下さい」


 リリシアに連れられて王城へと向かう。

 王城は広い掘りに囲まれていて、たった一つの跳ね橋が王城へと繋がる道になっていた。

 その跳ね橋の両脇には槍を持った衛兵が立っていて、城に用のある人達の検査をしている。

 その検査の順番を待ち、ようやくアレクたちの番がやってくると衛兵はいきなり顔をしかめた。


「おい、城は観光客の入って良い場所じゃないんだが」

「僕は勇者アレク。魔王の復活を阻止するために王様に協力をお願いしたいんだ」


「は? 笑えない冗談を言ってないで帰れ。しっしっ」


 衛兵はアレクの言葉を全く信じる様子がなく、犬や猫でも追い払うかのような仕草で手を振る。


「困った。冗談じゃないんだけど」

「というかアレクさんは300年前に死んだことになってますからね。何かこう転生した証みたいなのは持ってないんですか?」


 どうしたものかとアレクが困っていると、リリシアの言葉で自分が何を間違えたのか納得出来た。

 勇者アレクは300年前の人間で、この世にいない。それが常識なのだ。

 となれば、その常識を覆す証拠が無いと話を聞いて貰えないのは当然と言えば当然だった。

 勇者アレクを証明するもの。三百年前でも確かに求められたことがあった。

 その時もアレクは手を天にかざし、その剣を抜いたのだ。


「心剣抜刀、出でよ聖剣アルバ・ルクス」


 アレクがその剣の名を呼ぶと、アレクの手の中に光が集まって白い剣へと姿を変えた。

 これこそが勇者アレクの代名詞とも言われた聖剣アルバ・ルクス。

 女神イルースカがアレクに与えた力で、魂を具現化した武器であり、邪や魔といった悪しき存在を断ち切るための聖なる白き刃である。


「女神イルースカ様より賜った聖剣アルバ・ルクスです。これが証拠になりますか?」

「なっ!? なななな!? 貴様今どこから剣を取り出した!? そんなどこでも武器を出せる者を王様に近づけられるかっ!」


 突然現れた聖剣に衛兵は腰を抜かすと、衛兵は震えながら槍の切っ先をアレクに向けた。

 けれど、アレクは何故怯えられているのかがさっぱり分からなくて、あたふたと動揺してしまう。

 300年前ならこの聖剣を見た途端に、疑っていた人間も認識を改めてくれて友好的になってくれた。怯えられるなんて初めての体験だったのだ。


 アレクがどうして良いか分からずに、リリシアに助けを求める目を向けると、彼女はポンと手を叩いた。


「ん? あ、なるほど。やってみます。イルースカ様」


 リリシアは小さくそう呟くと――。


「ふはは! 見よ! この輝き! 伝説に歌われるアルバ・ルクスの輝きの通りだ! この刃は邪なるものしか傷つけないという! 勇者アレク、私の身体をその剣で切ることでその剣が本物の聖剣であることを示すと良い!」


 リリシアが突然高笑いを始めたかと思えば、両手を広げその身体を剣に向けて差し出す。

 その行動でアレクはハッとした。


 聖剣アルバ・ルクスは無垢の人間を傷つけない。


 もし、リリシアを斬っても傷一つつかなければ、この剣が聖剣アルバ・ルクスの証明となり、ひいてはアレクが本物の勇者であることの証明にもなる。

 けれど、剣で切られるのだ。切られる方は怖いに決まっている。それでもリリシアが切れと言った覚悟に、アレクは頷いて剣を振り下ろす。


 振り下ろされた剣が白い輝きを放ち、リリスの身体を貫いた。

 けれど、彼女の身体からは血の一滴もこぼれることなく、石畳の地面に亀裂が入る。


「これで僕が勇者アレクだってことが証明出来たかな?」


 アレクが堂々とそう言い放つと、衛兵は慌てて逃げ出すように城へと向かった。

 その後ろ姿が見えなくなると、アレクはリリシアの身体を抱き寄せ頭を撫でた。


「ありがとう。怖いだろうによく頑張ってくれたね」

「だって、本物だって信じてましたから。イルースカ様のお告げもありましたし」

「僕は魔神が本当に宿っていたらどうしようかと心配だったけどね。何でわざわざ魔神を宿してるなんて言うんだい?」

「―っ!? 別に内なる魔神を抑制することくらい造作もないですし! ないですし! 私は闇の申し子で最強の魔法使いなのですよ!」

「はいはい。そういうことにしておくよ」


 リリシアがぽかぽかとアレクの胸を叩くも、アレクはそれを笑って受け入れられるほど嬉しかった。

 300年前にも仲間がアレクの潔白を証明するために身を差し出してくれた。

 もう当時の仲間はいないけれど、その時の仲間に負けないくらい信じてくれる仲間が出来たのだ。

 そのことが嬉しくない訳がなかった。だからこそ、神にではなく彼女に誓う。


「リリシア、僕はこの世界に魔王を蘇らせない。また分からないことがあったら助けてくれると嬉しい」


 その言葉にリリシアはポコポコ叩くのを止めて、代わりに顔をボフッと胸にこすりつけるよう押しつけた。

 そんな彼女の頭を撫でようとすると、一般の衛兵とは違う装備が派手な兵士がやってきた。

 白い甲冑に鳥の尾羽を思わせるような腰の装飾、身の丈ほどもある巨大な剣、恐らく将軍クラスの人間だ。


「某の名は将軍ラハム。勇者アレク、王がお呼びだ。ついてくると良い」


 そういって白い甲冑の男のラハムは背を向ける。

 その背を追ってアレクたちも王の住まう城へと入った。

 どんな歓迎が待ち構えているか知ることも無く。


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